鼻炎の薬剤治療は三角形で覚える(森本佳和)
連載
2009.09.07
知って上達! アレルギー
【第6回】鼻炎の薬剤治療は三角形で覚える
森本佳和(医療法人和光会アレルギー診療部)
(前回からつづく)
臨床において出合うアレルギーと免疫学について,最近の知見や雑学を交えながらわかりやすく解説します。アレルギーに興味を持って,ついでに(?)アレルギーの診療スキルをアップさせていただければこれに勝るものはありません。
図1 カンタン! 鼻炎の把握法 |
鼻炎の薬剤治療を理解するために,今回はまず三角形を書きましょう(図2)。各頂点には,てっぺんから左まわりに抗ヒスタミン薬,ステロイド薬,抗ロイコトリエン薬です。長い名前が多いので,この順に「ひ→す→ろ」としましょう。この語呂,ひ,す,ろ,なんて覚えにくくて申し訳ありません。この三角形に沿って,軽症には一番上の抗ヒスタミン薬,中等症以上ならステロイド薬,さらに補助的に抗ロイコトリエン薬(オノン(R),キプレス(R),シングレア(R)など)を使用するという方法がシンプルかと思います。抗ロイコトリエン薬以外に抗プロスタグランジン薬,抗トロンボキサンA2薬,Th2サイトカイン阻害薬なども補助的に使えますが,ここでは最もエビデンスの蓄積されている抗ロイコトリエン薬としておきます。
図2 鼻炎の薬剤治療を理解するためのトライアングル “炎症を和らげる”という意味で,「火,スロー」と覚えるのがコツです! |
この三角形で,一番上の抗ヒスタミン薬は即効性があり,一時的な症状抑制に優れますが,炎症そのものを抑える効果は期待できません。これに対して,三角形の底辺を支えている二つ,ステロイド薬と抗ロイコトリエン薬は気管支喘息の治療では維持薬(コントローラー)としての役割を持つほどで,鼻炎治療においても炎症自体を抑えて長期コントロールを改善することが期待されます。長く使って,ゆっくりと抑えるタイプです。底辺の「す→ろ」は「スロー」なわけですね。これらを基本として,薬剤治療のポイントを解説します。
抗ヒスタミン薬は副作用に十分注意する
その即効性から,鼻炎治療にはなくてはならない抗ヒスタミン薬ですが,マレイン酸クロルフェニラミンやジフェンヒドラミンなどの第一世代抗ヒスタミン薬は眠気の副作用が大きいため,できるだけ用いないようにします。
これら鎮静性抗ヒスタミン薬の服用による自動車運転のパフォーマンス低下は,ウィスキー3-5杯分による酩酊状態に匹敵するともいわれ(註),米国では飲酒運転同様に,第一世代抗ヒスタミン薬を服用して運転することが禁じられている州もあります。ちなみに,第二世代の抗ヒスタミン薬で,添付文書に「眠気を催すので危険を伴う機械操作に注意する」といった注意記載のない薬剤には,アレグラ(R)とクラリチン(R)があります。
ステロイドを敬遠しない
三角形で2番目のステロイド薬は基本的に点鼻ステロイド薬です。日本では,一般の方だけでなく医療関係者にも,ステロイド点鼻薬を敬遠する傾向が根強いように感じますが,安全性は高い薬剤です。エビデンスもあり,他の薬剤と鼻炎症状のコントロールで比較したときの効果,安全性ともに常勝組です。国際的にも標準的治療の一つとしてステロイド点鼻薬は欠かせない存在です。ですから,ステロイドを敬遠するという文化的背景以外に,ステロイド点鼻薬を敬遠する強い理由はないように思えます。
先ほど中等症以上で使用すると述べましたが,こだわる必要はありません。欧米では軽症例から積極的に使われ,私の経験からも,1日1回のステロイド点鼻薬投与で,鼻炎症状が消失し,他の薬剤が不要となることもよくあります。あまりの軽快ぶりに,「抗ヒスタミン薬を飲みつづけながら花粉症に悩まされていた昨年までは何だったのでしょう」といった感想をもらうこともあります。
「鼻にツンと入ってくる刺激が嫌だ」という患者さんには,パウダータイプ(粉末状)のリノコート(R)パウダースプレー鼻用やミストタイプ(細かい霧状)のアラミスト(R)などを選ぶこともできます。気管支喘息では,ようやく吸入ステロイド薬が主流になってきましたが,鼻炎治療においてもステロイド点鼻薬は積極的に使用を考えてほしい薬です。
鼻閉の有無に注意する
鼻炎を把握する際には,鼻づまりの有無の確認が重要です。これは,鼻閉が最もつらい症状の一つであるだけでなく,効く薬剤と効かない薬剤が比較的はっきりしているからです。まず,抗ヒスタミン薬は鼻閉に無効です。鼻閉の訴えを主とする患者さんに抗ヒスタミン薬だけを処方することは望ましくありません。
これに対して,三角形の下の二つ,ステロイド薬と抗ロイコトリエン薬は鼻閉にも効果があり,これらの使用を中心に考えます。ただ,これらの薬の特徴は何でしたか? スローで即効性に乏しいわけですね。そこで,嫌な鼻閉を早く改善したい場合には,血管収縮薬(交感神経作動薬)の使用を考えます。経口製剤(塩酸エフェドリンなど)と局所製剤(トーク(R),プリビナ(R)など)があります。ただし局所で使用する場合は,連用で肥厚性鼻炎が生じる可能性があるため,数日使用したらしばらく休むという使用法がよいでしょう。
肥厚性鼻炎では,「血管収縮薬を使う→効果が切れて反動性の鼻閉が生じる→血管収縮薬を使う→……」という悪循環に陥り,鼻粘膜が血管収縮薬に依存してしまい,薬がないと血管が腫れっぱなし,という状態になってしまいます。この肥厚性鼻炎の治療は厄介で,長期にわたり経口ステロイド薬の使用が必要となる場合もあります。処方するときには十分注意してください。
今回は,鼻炎の薬剤治療について説明しました。一般に市販されている鼻炎薬には,第一世代ヒスタミン薬や局所血管収縮薬が多用されています。処方薬と比べ安全性が高いとは言えない上に,一般市販薬には効果に優れたステロイド点鼻薬もありません。一般の方には,鼻炎についても積極的に医師の診療を受けていただきたいものです。
(つづく)
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