医学界新聞

連載

2009.03.09

レジデントのための
Evidence Based Clinical Practice

【3回】入院中の高血糖へのアプローチ

谷口俊文
(ワシントン大学感染症フェロー)


前回よりつづく

 入院中の高血糖はアグレッシブにコントロールする必要があります。さまざまな臨床試験で死亡率の低下が見られたからです。どの科の入院でもプロブレムリストの中に血糖管理は出てきますので,アプローチの仕方をよく勉強しておきましょう。

■Case

 54歳の女性。糖尿病,高血圧,高脂血症を治療中。糖尿病はアマリール(R)とメトホルミンを服用中。3日前より呼吸苦を訴える。発熱,黄色痰を伴い,救急外来を受診。左下肺野の肺炎を診断され入院となる。白血球数17,000/mm3で,腎機能は正常,血糖値は287mg/dl。体重は80Kg。

Clinical Discussion

 ここでは市中肺炎の治療ではなく,入院中の糖尿病の管理に注目する。糖尿病の管理といっても糖尿病性ケトアシドーシスの治療には触れない。感染症や心筋梗塞,脳梗塞などの疾患にて入院したときこそ血糖のコントロールを厳密に行うことの重要性を理解してほしい。集中治療室での血糖のコントロールはインスリン持続静注を用いるのが標準治療になりつつある。一般病棟では,レギュラーインスリンを用いたスライディングスケールよりも持続型溶解インスリンと超速効型インスリンの組み合わせのほうが好まれるようになってきた。これは血糖コントロールが死亡率の低下につながることが示され始めたからである。主疾患の治療が安定してきたら,外来につながるように経口糖尿病薬の組み立てを行う。

マネジメントの基本

重症疾患の場合の血糖管理
 敗血症,急性心筋梗塞などICUやCCU管理が必要な患者の場合,厳密な血糖管理が必須である。すべての経口糖尿病薬を中止し,インスリン持続静注を開始する(NEJM2006;354:449)。筆者の勤めていた病院のプロトコールは無料で公開されているので,各自でURLを参照していただきたい((1))。

 目標血糖値の設定に関して多くの議論がなされている。急性心筋梗塞の患者を研究したDIGAMI(J Am Coll Cardiol. 1995;26:57)では126-196mg/dlに設定して有意差を得たが,外来フォローもアグレッシブに血糖管理したので入院中の血糖コントロールが功を奏したのかは不明である。DIGAMI-2(Eur Heart J.2005;26:650)では外来ファローをアグレッシブにしてもあまり死亡率に変化がないとされたが,登録患者数を集められなかったため臨床試験が中断してしまった。他にもHIT-5(Diabetes Care 2006;29:765)やCREATE-ECLA(JAMA2005;293:437)などの研究があるが結論には至らない。外科系ICUでは血糖目標値を80-110mg/dlに設定して死亡率の低下の有意差を得た(NEJM2001;345:1359)。内科系ICUに3日以上いた場合には死亡率の低下を示したが,それ以下の場合には死亡率の上昇がみられた。どの患者がICUに3日以上いるかは予測ができず,この結果をどのように受け止めるべきか,いまだ議論が行われている(NEJM2006; 354:449)。目標血糖値81-108mg/dlと144-180mg/dlを比較したNICE-SUGAR Trialという大規模臨床試験は,これから結果発表が行われるはずである。

 現時点では,CCUでは80-120mg/dlを目標に,内科および外科ICUでは150mg/dlを目標に血糖をコントロールすればよいのではないだろうか。

インスリン静注から皮下注射への切替
 急性期を脱し一般病棟での管理となった場合は,インスリンの皮下注射にて血糖管理する。その方法は以下参照。

ICU管理の必要がない入院患者
 同じく急性期の疾患の場合は経口糖尿病薬を中止して,持続型溶解インスリン(グラルギン)の皮下注射(基礎インスリン)と超速効型インスリンを1日3回食前に投与する血糖のコントロールを行うべきである(RABBIT-2Trial:(4))。この研究は,従来のスライディングスケールよりも,基礎インスリンの投与と超速効型インスリンの組み合わせのほうが良い血糖コントロールを得られることを示した。そのプロトコールの概要を図表に示す。

  • すべての経口糖尿病薬の中止
  • インスリンTDD(Total Daily Dose:1日総量)の計算
    0.4単位・体重(kg):入院時血糖値が140-200mg/dlのとき
    0.5単位・体重(kg):入院時血糖値が201-400mg/dlのとき
  • TDDの半分を持続型溶解インスリングラルギン,残りの半分を超速効型インスリンアスパルト投与とする。
  • グラルギンは1日1回同じ時間に投与する。
  • アスパルトは食前に均等に3分割した用量を投与する。
    患者が食事を取れない場合はアスパルトは投与しない。グラルギンは続行する。
  • 血糖が120mg/dl以上の場合はスライディングスケールに従い,アスパルトを追加する。
    患者が食事をすべて取れる場合には食前および就寝前に「通常」列に従い用量を決定,投与。
    患者が食事を取れない場合は6時間毎に「インスリン感受性」列に従い用量を決定,投与。
  • 基礎インスリンの調節
    空腹時血糖もしくは平均血糖が140mg/dlを超え,低血糖が見られない場合にはグラルギンを20%ずつ増加。
    低血糖(<70mg/dl)を呈した際にはグラルギンを20%低減させる。
  • 血糖のモニタリング
    血糖は各食前と就寝前(食事が取れない場合は6時間毎)に確認する。

RABBIT-2のプロトコールを改変

 入院中の血糖管理のプロトコール(ICU管理の必要がない場合)

 追加インスリンの決定の仕方の一例
食前血糖値(mg/dl) 追加インスリン
低用量(TDD<40単位/日) 中等量(TDD 40-80単位/日) 高用量(TDD>80単位/日)
121199 1 1 2
200249 2 3 4
250299 3 5 7
300349 4 7 10
>349 5 8 12
Diabetes Technol Ther. 2005;7(5):831

 入院の理由となった主疾患のコントロールがつくまでは,RABBIT-2で示されたようなプロトコールを利用しアグレッシブに血糖を管理する。これによって罹患率・死亡率の低下がみられるためである。

インスリン皮下注射から退院計画へのアプローチ
 入院してきた患者が高血糖を呈している理由は,(1)既知の糖尿病,(2)まだ診断されていない糖尿病,(3)急性疾患に伴うストレス反応による高血糖,などが考えられる。

 これらの判断に役に立つのがHbA1cである。糖尿病の診断が既についていた場合,HbA1cが高値ならば普段の血糖コントロールが良くないことがわかり,退院時の処方計画を練ることができる。HbA1cの値が適切ならば,外来で投与されていた経口糖尿病薬を再開するだけでよいかもしれない。まだ糖尿病が診断されていなければ,そのワークアップをするきっかけとなる。HbA1cが正常ならば急性疾患のストレス反応であった可能性が高く,入院中にインスリンを漸減,中止することができるかもしれない(HbA1cの値は輸血後,信頼できなくなることに注意のこと)。

診療のポイント

・集中治療ではインスリン持続静注で積極的に血糖のコントロールをする。
・一般病棟では急性疾患の患者は経口糖尿病薬を中止し,持続型インスリンと超速効型インスリンの組み合わせで血糖コントロールをする。
・入院時にHbA1cを計測しておく。

この症例に対するアプローチ

 経口糖尿病薬は中止。体重が80kg,入院時の血糖が201mg/dlを超えているので,1日インスリン総量は80kg×0.5単位/kg/Day=40単位。その半分の20単位を基礎インスリンに使用するので,インスリングラルギン20単位。残りの20単位は食前のために3等分する。ここでは各食前に7単位ずつ投与とする。その後は血糖計測値に従い,超速効型インスリン量を調節。入院時のHbA1cが7.0%と良好であったため,肺炎のコントロールがつき次第経口抗菌薬に切り替え,退院時にインスリンを中止して患者が普段服用していた経口糖尿病薬を再開とした。

Further Reading

(1)CCUおよびICUにおけるインスリン持続静注のプロトコールの例
 http://www.nycardiaccareunit.com/sitebuildercontent/sitebuilderfiles/Hyperglycemia.pdf
 (St. Luke's Roosevelt Hospital Center, Cardiac Care Unit)
(2)Inzucchi SE. Management of Hyperglycemia in the Hospital Setting. N Engl J Med. 2006;355(18):1903-1911.
(3)Juneja R. Hyperglycemia management in the hospital: about glucose targets and process improvements. Postgrad Med. 2008;120(4):38-50.
(4)Umpierrez GE, Smiley D, Zisman A, et al. Randomized study of basal-bolus insulin therapy in the inpatient management of patients with type 2 diabetes(RABBIT 2trial). Diabetes Care. 2007;30(9):2181-6.

つづく

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