医学界新聞

連載

2009.02.09

レジデントのための
Evidence Based Clinical Practice

【2回】COPD患者へのアプローチ

谷口俊文
(ワシントン大学感染症フェロー)


前回よりつづく

 前回の喘息に引き続き,内科の代表的呼吸器疾患であるCOPD(慢性閉塞性肺疾患)に関しての基礎を勉強します。ガイドラインに基づき治療し,最近注目され始めているエビデンスを踏まえた上で,実際にどのように患者にアプローチしたらよいのかを考えてみましょう。

■Case

 63歳の女性。既往歴は高血圧,糖尿病,心不全,喫煙歴あり,COPDにて酸素療法を使用中の患者。2か月に1回はCOPDの急性増悪にて救急外来を受診する。慢性的に低用量ステロイドを使用している。今回は2-3日前から始まった呼吸苦,白色痰を主訴に来院。救急外来にてCOPDの急性増悪の治療が開始され,そのまま病棟に入院となる。外来でのFEV1予測値は50%。慢性的な呼吸苦のために,街を歩くときは休みながらでなければ長い距離は歩けない。

Clinical Discussion

 ここではCOPDの急性増悪治療後のマネジメント,予後を変え得る長期治療戦略など,エビデンスを踏まえた戦略を考える。入院から外来につなぐ際のポイントが重要である。喘息とCOPDの治療戦略はどのように異なるのか? TORCHトライアルとは何か? UPLIFTトライアルとは何か?

マネジメントの基本

急性増悪の管理
 抗コリン薬とβ2刺激薬を中心に据えステロイド,抗菌薬などの組み合わせで乗り切るのが基本である。状態が悪い重度のCOPD急性増悪では挿管はなるべく避けたいため,BiPAPによるNPPV(Noninvasive Positive Pressure Ventilation)で粘る。意識混濁,喀痰などの分泌物が多いとき,バイタルが安定していないときや消化管出血を伴うような場合はあきらめて挿管する。重度の低酸素血症を伴うときには決断を早くしNPPV,必要ならば挿管する。このような状況下で「CO2ナルコーシスの恐れがあるから」といって低用量の酸素をダラダラと流し続けるのは良くない。患者の酸素飽和度のベースラインを知り(問診で聞きだし),それを目標に症状の緩和をめざす。急性期にテオフィリン投与を開始するのは推奨されない(Ann Intern Med 2001 Apr 3;134(7):595-9.)。

病棟での管理
 経口もしくは静注による全身性ステロイドを投与している場合の,吸入ステロイドを病棟で続ける意義は研究されていない。実際の病棟管理は心不全,電解質異常の補正,輸液のバランス,感染症などさまざまな要因が関係しておりシンプルには済まない。問題を整理し,それぞれの病態生理に対して治療戦略を立てる。ICU入院などで複雑化した際にはシステム(臓器)ごとにプランを立てる。症状が改善してきたら外来につなげるための維持療法を考え始める。外来での処方を継続するのも手ではあるが,その裏付けを知っておくのは重要である。

安定期のCOPDの治療戦略
 GOLD(Global Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease)ガイドラインが標準的な治療方針の目安となっている。これはwww.goldcopd.comにて閲覧可能である。まずはGOLDのステージ(表)を知り,肺機能検査結果を入手することが必要である。

 GOLDステージ分類
ステージ 肺機能検査
1 軽症 ・FEV1.0/FVC<70%
・FEV1.0≧80%予測値
2 中等症 ・FEV1.0/FVC<70%
・50%予測値≦FEV1.0<80%予測値
3 重症 ・FEV1.0/FVC<70%
・30%予測値≦FEV1.0<50%予測値
4 最重症 ・FEV1.0/FVC<70%
・FEV1.0<30%予測値,またはFEV1.0<50%予測値で慢性呼吸不全

 次に,以下のステップに従って治療を組み立てたらよい(図)。

 GOLD分類に基づいたCOPD治療アルゴリズムの例

1)基本はまず短時間作用型抗コリン薬やβ刺激薬の頓用。
2)ステージが進めば長時間作用型吸入薬の出番。チオトロピウム(スピリーバ(R))もしくはサルメテロール(セレベント(R))のどちらかを使用することになるが,いずれも急性増悪時のレスキューとして用いてはならない。
3)症状がさらに進めば,この2つを組み合わせることを考える。
4)ステージ3もしくは4であれば,これに吸入ステロイドを組み入れる。場合によってはアドエア(R)などの合剤を試してみてもいいし(TORCH Trial),症状が悪ければ3剤(チオトロピウム,サルメテロール,フルチカゾン)をスピリーバ(R)とアドエア(R)の組み合わせという形で使用してもよい(Ann Intern Med. 2007;146:545-55.)。どの吸入薬が患者に効くかは個人差も考慮しなければならない。
5)これでもまだ症状が改善しない場合はテオフィリン製剤を考慮する。薬剤の相互作用を考慮し第一選択にはしたくはないが,治療薬に対する反応の仕方は個人差があるので,ある程度フレキシブルに考える必要はあると考えている。

 

 内科医として知っておかなければならない臨床研究を2つ紹介する。

TORCH:Towards a Revolution in COPD Health trial(N Engl J Med 2007;356:775-89.)
吸入ステロイドと長時間作用型β刺激薬,すなわち頻用されているフルチカゾン500μgとサルメテロール50μgという組み合わせで治療した際に死亡率を低下させることはできなかったが,急性増悪の頻度を低下させることはできた。吸入ステロイドを含む群は肺炎発症が,吸入ステロイドを含まなかった群に比べて多かったという研究。

UPLIFT:Understanding Potential Long-Term Impacts on Function with Tiotropium(UPLIFT)trial(N Engl J Med 2008;359:1543-54.)
チオトロピウム(スピリーバ(R))とプラセボのランダム化臨床試験でFEV1減衰の割合を低下させることはできなかったが,肺機能,急性増悪や入院回数,呼吸不全の改善傾向が見られたという結果が出た。

 COPDの安定期における治療戦略は今後も大規模臨床研究の結果を受けてガイドラインなどが変更になる可能性があるので,常に動向に注目しておく必要があるだろう。いずれにせよ現時点で死亡率を低下させることがエビデンスとして出ているのは在宅酸素療法くらいである。在宅酸素療法の適応(PaO2が55mmHg以下もしくは酸素サチュレーションが89%以下)は必ず覚えること。患者の予後を評価するBODE Index(N Engl J Med 2004;350:1005-12.)を知っておいても損はないだろう。これはまたLung Volume Reduction Surgery(LVRS)の予後を予測できる(CHEST2006;129:873-878.)のも特徴の一つである。詳細は各自参照のこと。

診療のポイント

・肺機能検査(スパイロメトリー)の結果を入手する。
・GOLDの病期分類を行い,それに従って治療を組み立てる。
・在宅酸素療法の適応を知る。

このCaseに対するアプローチ

 急性増悪に対する治療で短時間作用型抗コリン薬(アトロベント(R)),β刺激薬,および全身性ステロイド,抗菌薬にて治療後,呼吸苦は改善し,外来におけるFEV1の結果と臨床症状を照らし合わせ,ステージ3-4の重症COPDと判断。スピリーバ(R)とアドエア(R)の組み合わせを選択。全身性のステロイドは経口プレドニゾンを低用量にて継続して外来フォローで症状をみながら停止させる予定。

Further Reading

(1)In The Clinic-COPD Ann Intern Med. 2008 Mar 4;148(5).
(2)Infection in the Pathogenesis and Course of Chronic Obstructive Pulmonary Disease N Engl J Med 2008;359:2355-65.
(3)Chronic Obstructive Pulmonary Disease: An Evidence-Based Approach to Treatment With a Focus on Anticholinergic Bronchodilation Mayo Clin Proc. 2008;83(11):1241-1250.
(4)American Thoracic Society-COPD Guideline
http://www.thoracic.org/sections/copd/

つづく

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