医学界新聞

連載

2008.08.04

レジデントのための
日々の疑問に答える感染症入門セミナー

〔 第5回 〕

原因不明の発熱が持続するとき:特に薬剤熱の考えかた

大野博司(洛和会音羽病院ICU/CCU,感染症科,腎臓内科,総合診療科,トラベルクリニック)


前回よりつづく

 今回は薬剤熱の考えかたとその対応の仕方について勉強します。

■CASE

一度解熱するも再度発熱した腎盂腎炎治療中の50歳女性

現病歴 ADL自立した50歳の女性。発熱,膿尿,排尿時痛,腰痛でER受診した。薬物アレルギーはないが,アトピー性皮膚炎と喘息の既往あり。
身体所見 体温38℃,心拍数90,呼吸数15,血圧120/50。全身状態:きつそう,頭頚部:正常,心臓:正常,胸部:呼吸音清,ラ音なし,腹部:平坦・軟,肝脾腫なし,CVA叩打痛あり。恥骨上部に圧痛軽度,四肢:冷汗なし。皮疹なし。
検査データ 白血球数12000,肝・腎機能・電解質問題なし,CRP4.5,尿一般:タンパク+,潜血+,糖-,白血球>100/HPA,細菌陽性,尿グラム染色でグラム陰性桿菌
入院後経過 急性腎盂腎炎の診断にて入院加療となり,セフトリアキソン2g×1で治療開始し2日で解熱したが4日目から再度発熱あり。また四肢・体幹部の紅丘疹も出現した。このとき全身状態はきつくないという。発熱39.6℃,心拍数68,腰部CVA叩打痛消失。尿所見は細菌陰性,白血球陽性。採血で白血球数11000,好酸球2%,CRP8.8

■薬剤熱とはなんでしょう?

 薬剤熱については多くの誤解があります。例えば,
・薬を投与している最中の好酸球増多を伴う発熱
・薬を投与している時の肝機能異常を伴う発熱
・薬を投与している時のあまり重症感のない発熱

 と思っている人が多いのですが,実は,好酸球を伴わない,肝機能異常がない,重症感のある発熱の場合でも薬剤熱である可能性はゼロではありません。

 薬剤熱を疑うきっかけは,以下の通りです。

(1)薬剤熱を起こす薬剤が投与されている
(2)発熱しているが,全身状態が良好であることが多い
 ※アンホテリシンBや抗痙攣薬(フェニトイン,カルバマゼピン)による薬剤熱の場合,重症感がある
(3)薬剤中止48―72時間後で軽快する
(4)比較的徐脈(MEMO(1))や好酸球増多,肝機能障害がみられる場合には薬剤熱の可能性が高いが,これらの所見がなくても否定できない
(5)薬剤熱でもCRP上昇,白血球数上昇(左方移動を伴う)はよくみられる
(6)(当然ではあるが)血液培養陰性

 ですので,ポイントとしては,薬剤熱を起こす可能性のある薬剤投与中の原因不明の発熱の場合,薬剤熱を常に疑い患者評価を行う必要があります(MEMO(2))。

<MEMO(1)比較的徐脈Relative bradycardia> <MEMO(2)薬剤熱の診断>
・体温の上昇と比べて不適切に徐脈であるとき,比較的徐脈といい,これが薬剤熱を疑う状況でみられた場合,薬剤熱の可能性が高くなる
・房室ブロック,ペースメーカー装着,β遮断薬,カルシウム拮抗薬内服中の患者にはあてはめてはいけない
(1)発熱前に原因薬剤が投与されていて,
(2)中止とともに解熱する(48~72時間以内)
・皮疹を伴う薬剤熱の場合,さらに数日発熱が持続する
・感度,特異度の高い検査値・検査所見は存在せず,薬剤中止後の解熱をもって診断確定となる

■薬剤熱を起こしやすい薬剤

 ほぼすべての薬剤で薬剤熱が報告されていますが,頻度的に薬剤熱を起こすことの多い薬剤のリストを表1に,作用機序から薬剤性高体温を起こす薬剤のリストを表2に示します。

表1 薬剤熱の原因となる主な薬剤
よくみられる あまりみられない まれにしかない
硫酸アトロピン
アンホテリシンB
L-アスパラギナーゼ
バルビツレート
ブレオマイシン
メチルドパ
利尿薬(サイアザイド,ループ)
ペニシリン系抗菌薬
セフェム系抗菌薬
フェニトイン
プロカインアミド
インターフェロン製剤
アロプリノール
アザチオプリン
シメチジン

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