医学界新聞

連載

2008.07.07



レジデントのための
日々の疑問に答える感染症入門セミナー

〔 第4回 〕

ICU/術後の発熱患者へのアプローチ(2)

大野博司(洛和会音羽病院ICU/CCU,感染症科,腎臓内科,総合診療科,トラベルクリニック)


前回よりつづく

 今回は,前回に引き続き,入院患者の発熱-特に術後のICUセッティングでの発熱のアプローチについて勉強したいと思います。

■CASE

腹膜炎術後に両側肺野浸潤影を伴い呼吸状態が悪化した60歳男性

現病歴 60歳男性が急性腹症でER受診,大腸穿孔による急性汎発性腹膜炎で左半結腸切除術およびストーマ造設された。術後気管内挿管のまま全身管理目的でICU入室。周術期は中心静脈カテーテル,動脈ライン挿入の上,カテコラミン,輸血,新鮮凍結血漿使用あり,抗菌薬はメロペネム(1g×3)投与。術後4病日にカテコラミン中止,血行動態安定するも慢性肺疾患のため人工呼吸器管理継続された。術後ミダゾラムで鎮静(3日目まで),フェンタニルで鎮痛。5病日に再度発熱,酸素化不良が進行しコンサルトあり。既往に肺気腫,糖尿病。
 身体所見・検査データ等は前号(2784号)参照。

 前回の医師Bのアプローチを振り返ってみましょう。

医師B 「発熱」「胸部ラ音」「膿性痰」「白血球上昇」「胸部X線で新たな浸潤影」よりVAP(人工呼吸器関連肺炎)を第一に考えるが,同様の所見が得られる非感染症(うっ血性心不全,肺塞栓など)も鑑別する。また腸管穿孔からの腹膜炎も考慮。抗菌薬はこれら2つの感染臓器をカバーし“重症のグラム陰性桿菌感染症”に対応できるピペラシリン・タゾバクタム+アミカシン併用へ変更。培養結果で抗菌薬のde‐escalationを考慮し,全身管理の徹底のため,循環・呼吸管理も優先。

 

 病院内重症感染症は,常に生死に直結するため,迅速で適切なアプローチが必要とされます。

■6つの重要な病院内感染症の診断・治療を理解する

 入院後に発熱を起こす感染症は限られています(2784号の表)。これらの感染症は,(1)チューブおよびライン類など異物が挿入されている部分(人工呼吸器関連肺炎,副鼻腔炎,カテーテル関連血流感染症,複雑性尿路感染症),(2)手術創部(術後創部感染症),(3)抗菌薬投与後に起こった発熱・下痢・白血球上昇(偽膜性腸炎)であり,入院後の医療行為に密接に関連して起こっていることに注目してください。

■外科系領域別の術後創部感染症を理解する

 術後創部感染症(SSI)は手術の種類によって異なります(表)。

 外科系領域別:術後創部感染症(SSI:surgical site infection)
(1)脳外科領域:術後髄膜炎,VPシャント感染症
(2)心臓血管外科領域:術後縦隔洞炎,人工弁感染性心内膜炎,人工血管グラフト感染症
(3)胸部外科領域:術後膿胸
(4)消化器外科領域:腹腔内膿瘍,後腹膜膿瘍,術後リーク腹膜炎,化膿性血栓性静脈炎,門脈内化膿性血栓症
(5)泌尿器科領域:後腹膜膿瘍
(6)産婦人科領域:骨盤内化膿性血栓性静脈炎,尿管損傷による複雑性尿路感染症
(7)整形外科領域:人工関節感染症

■ICU,術後で重症感染症が考えられる場合の診察・検査での注意点

 診察およびオーダーする検査で注意する点は以下の通りです。

(1)まずバイタルサインをチェック。
(2)ラインや異物,創部の入念な観察。場合によっては外科主治医に創部を開放してもらう。
(3)Head to toeで漏れがないよう一通りの身体診察を行う。
(4)敗血症を疑わせる状態では,眼底の出血斑,心雑音,肺のラ音,四肢の皮疹・出血斑に特に注意。皮膚は四肢・背部まで入念に。
(5)必ずFever workup3点セットを行う。
(6)クリティカルな状態では感染臓器が1つとは限らない。診察・検査は考えられる感染臓器ごとにねらって行う。

■ICUでの発熱で特に気をつけること

 ICUのようにさまざまな医療機器に...

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