医学界新聞

連載

2008.03.31



〔連載〕続 アメリカ医療の光と影  第124回

緊急論考「小さな政府」が亡ぼす日本の医療(5)

李 啓充 医師/作家(在ボストン)


2773号よりつづく

 「国民負担率」がどれだけmisleadingな言葉であるかを4回にわたって論じてきたが,ここまでの議論を以下にまとめる。

1)国民負担率は個々の国民の実際の負担を反映しない:国民負担率が日本よりも小さい国(たとえばアメリカ)の国民負担は日本よりも極端に重いし,逆に,国民負担率が日本よりもはるかに大きい国(たとえばフランス・スウェーデンなど)の国民負担は,日本とそれほど変わらない。
2)国民負担率が大きい国で国民負担が重くならない最大の理由は,事業主が手厚く社会保障費を負担していることにあり,先進諸国の実情を見る限り,「小さな政府」は,実際的には「国民の負担が重く,事業主負担は軽い国」と同義と言ってよい。

「小さな政府」路線の元凶とは

 この間,日本では,「小さな政府」派の人々が「国民負担率」なる虚妄の概念を駆使することで,「国民負担率が大きくなると国民の負担が重くなるぞ」と,国民の恐怖感を煽ってきたが,国民負担率という言葉が日本でしか使われない言葉であることは,前にも指摘したとおりだ。実は,この言葉,歴史的にもそれほど古いものではなく,私が知る限り,1982年の「土光臨調」(註1)第一次答申で使用されたのが最初である。しかも,同答申は,国民負担率なる概念を「発明」しただけでなく,「将来の上限を50%よりはかなり低位にとどめることが必要」と強調,その後,日本が「小さな政府」路線へと突き進む端緒となったのである。

 やがて,1997年,橋本内閣の下で「財政構造改革の推進に関する特別措置法」が成立,「当面の目標」として「国民負担率(註2)が5割を超えないこと」が定められ,「小さな政府」路線は正式に「国策」として法制化されるのだが,国民負担率なる言葉を発明して「小さな政府」路線を突き進む道を開いたのが財界人であった事実は注目に値する。なぜなら

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