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第3264号 2018年3月12日


賢く使う画像検査

本来は適応のない画像検査,「念のため」の画像検査,オーダーしていませんか?本連載では,放射線科医の立場から,医学生・研修医にぜひ知ってもらいたい「画像検査の適切な利用方法」をレクチャーします。検査のメリット・デメリットのバランスを見極める“目”を養い,賢い選択をしましょう。

[第11回]検診

前田 恵理子(東京大学医学部附属病院放射線科)
隈丸 加奈子(順天堂大学医学部放射線診断学講座)


前回からつづく

症例

 40歳女性会社員Aさん。誕生日を過ぎたある日,市役所から大腸がん,乳がん,子宮頸がん,胃がんの検診案内が届いた。

 がんを患った身近な同世代の話は聞かないが,忙しい日々の中から時間を割いて本当にこんなにたくさんの検診を受けなくてはいけないのだろうか? と思ったという。

がん検診の目的は?

 がん検診の目的は,がんをできるだけ多く見つけることではありません。普段,病気を抱えた方を相手にしていると忘れてしまいがちですが,対策型がん検診の考え方は独特で,あくまでも対象となる集団において対象とする疾患による死亡率を低下させることが目的です。

 対策型検診は,適度に有病率が高く余命が十分ある集団に対して,進行が適度に遅く,有効な治療法があるがんについて,対象集団全員に行っても検査合併症やコストの点で許容できる方法で行うものです。

 進行が非常に速い,有効な治療法がない,あるいは進行が非常に遅いがんは,死亡率減少効果を示す相応な証拠がなく,がん検診の対象にはなりません。一方,非常にまれながんも偽陽性のほうが多くなり,適切な正診率を担保できないため,検診の対象にはなりません。対象集団については,早期発見,早期治療を行っても十分な余命がないと判断される高齢者は検診の対象から外れますし,がんの罹患率が低い若年者も外れます。すでに症状がある方は検診ではなく通常の保険診療を受診すべきです。

 十分なエビデンスの積み重ねの上に,各国で検診による対がん政策が取られ,公費による検診が実施されています。米国ではU.S. Preventive Services Task Force(USPSTF)1)が,がん検診を目的としたスクリーニング検査で,推奨グレードがAまたはBであるものを定めています()。日本では,これに加えて50歳以上の胃がんに対する胃X線検査,胃内視鏡検査がグレードB〔利益(死亡率減少効果)が不利益を上回ることから,対策型検診・任意型検診の実施を勧める〕とされています2)

 米国で推奨グレードの高い検診(U.S. Preventive Services Task Force(USPSTF)より作成)(クリックで拡大)

 集団の死亡率低下が期待できるのは,集団のがん検診受診率が高い場合に限られます。がん検診受診率は年々改善してはいますが,それでも2016年の国民生活基礎調査によると男性の肺がん(51.0%)を除くと全て男女とも50%未満です3)。米英の受診率(70~80%程度)と比較するとまだ低いといえます。これが,米国では年々減少傾向にある大腸がんや乳がんによる死亡率が日本では低下していない要因の一つと考えられます4, 5)

任意型検診では医療被ばくや検査の限界を吟味すべき

 対策型検診の受診率が低い一方で,日本人の中には無料の自治体検診では飽き足らず,自費でより高度な検診を受けたい層も少なくありません。任意型検診は「自分の死亡率を低下させたい」というニーズに応えるべく,各種医療機関が自由診療で提供するサービスです。例えば,低線量CTによる非喫煙者の肺がん検診がその一つです。

 ただし,自由診療なら何をやってもよいかというとそうとはいえません。マンモグラフィー,X線透視,CTやPETには放射線被ばくがありますが,放射線被ばくはどんなに少量でも確率的影響による発がんリスクがあり,その医療利用はAs Low As Reasonably Achievable(ALARA)の原則において行われるべきです。医学的に最低限以上を被ばくするリスクを受診者の自己責任で許容するのが任意型検診ですが,放射線被ばくのリスクがベネフィットをあまりに上回る例では,医療者は専門知識を持つ者として被ばくを規制すべきでしょう。具体的にはがん罹患率が低い,高リスク家系ではない10~30歳代の放射線検査が挙げられます。また,低線量CTやマンモグラフィー,胸部単純X線などと比較し極端に被ばくが多いFDG-PETも,その検診利用には非常に慎重であるべきです。CTの被ばくも合算されるPET-CTならなおさらです。医学的適応はありませんから,PET検診が正当化されるほど社会的適応がある対象は誰なのかを慎重に吟味すべきですし,検査の限界と不利益について十分なインフォームドコンセントを行うべきです。

 また,早期がんやFDGの取り込みが悪い膵がんなど,FDG-PET検診が不向きながんも多数あります。現在ではFDG-PETに代わり得る被ばくのない検査として,DWIBS(Diffusion-weighted Whole body Imaging with Background body Signal)による全身MRIの技術があります。われわれ医療者はこうした選択肢を提示し,医療被ばくとそれによる発がんを防止することに力を注ぐべきでしょう。

受診率向上が対策型検診の効果を上げる鍵

 どんな検査にも偽陽性,偽陰性があります。集団検診はがんの可能性が一定より高い人を感度よく拾うことが目的ですから,一次検診で異常を指摘された中には相当数の偽陽性が含まれています。一次検診の陽性者の中から真の陽性と偽陽性を分けるための検査が二次検診です。日本対がん協会によると,大腸がん一次検診の便潜血検査では,1万人当たり487人が二次検診を必要とされたそうです。実際に二次検診を受けたのは338人で,その中の13人に大腸がんが指摘されました6)。二次検診の受診率は69%ですから,二次検診の受診率が100%になれば1万人当たりあと5~6人の大腸がんが見つかったはずです。二次検診の受診率向上は非常に重要です。

 よく一次検診を受けて,「陽性だから自分はがんになってしまったのだ」と過度に悲観する人や,検査陽性と出るのが嫌だから検診を受けない人がいます。二次検診の陽性率を考慮するとどちらもナンセンスな話です。また,どうせ陽性率が低いからと検診を受けない人もいますが,一次検診も二次検診も受診率が上がらないことには検診の効果が発揮されません。日常診療と異なる検診の特質を十分に理解し,機会があればぜひ正しい検診知識の啓蒙とがん死亡の減少に貢献してください。

症例への対応

 Aさんが近医で意見を聞いたところ,乳がん,子宮頸がんの検診は受けるべき,大腸がん,胃がんは50歳になるまでは任意であるという説明を受け,早速乳がん,子宮頸がん検診を受けた。

検診における画像検査のポイント

●対策型がん検診の目的は,対象となる集団において対象とする疾患による死亡率を低下させること
●任意型検診でも,放射線被ばくを伴う検査は適応を慎重に決めるべき
●一次検診も二次検診も受診率を上げることが重要

つづく

参考文献・URL
1)U.S. Preventive Services. USPSTF A and B recommendations.
2)国立がん研究センターがん予防・検診研究センター.有効性評価に基づく胃がん検診ガイドライン2014年度版.
http://canscreen.ncc.go.jp/pdf/iganguide150331.pdf
3)国立がん研究センターがん情報サービス.男女別がん検診受診率の推移.
4)国立がん研究センターがん情報サービス.がん検診について.
5)国立がん研究センターがん情報サービス.がん死亡率・がん検診受診率の国際比較.
https://ganjoho.jp/data/reg_stat/statistics/brochure/2009/fig21.pdf
6)日本対がん協会.がん・検診について.

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