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第3268号 2018年4月9日


賢く使う画像検査

本来は適応のない画像検査,「念のため」の画像検査,オーダーしていませんか?本連載では,放射線科医の立場から,医学生・研修医にぜひ知ってもらいたい「画像検査の適切な利用方法」をレクチャーします。検査のメリット・デメリットのバランスを見極める“目”を養い,賢い選択をしましょう。

[第12回(最終回)]念のための検査のリスク

曽我 茂義(防衛医科大学校放射線医学講座)
越後 純子(国家公務員共済組合連合会虎の門病院医療安全部)
隈丸 加奈子(順天堂大学医学部放射線診断学講座)


前回からつづく

症例

 下痢と右下腹部痛で来院した60歳男性。研修医Aが診察したところ痛みは中等度であり,血液検査ではCRP 1.0 mg/dL(軽度上昇)の他には異常を認めなかった。超音波検査では虫垂炎の可能性を否定できず,腹部CTを撮影することにした。せっかくCTを撮るので,念のため胸部も含めて撮影することを指導医Bに提案した。

念のための画像検査は本当に有用か?

 この20年間の画像診断技術の進歩は著しく,画像検査の適切な利用が,迅速で正確な診断やより良い治療につながる点には議論の余地がありません。一方で,適応の吟味が十分なされていない画像検査の問題も注目されるようになりました。2017年に日本医学放射線学会が全国の放射線科教育病院に対して行った調査(165施設が回答)では,適応が不適切な画像検査として,「検査目的に関係のない部位まで撮影範囲を広げた検査」「スクリーニング目的の検査,あるいは撮影目的の不明確な全身撮影」が上位に挙がりました1)

 見逃しや誤診を防ぐために画像検査は有用ですが,症例のように本来の目的(症状部位)とは無関係の範囲を含めて撮影すると,その部位では重篤な疾患の検査前確率が低いために,偽陽性率が大きく上昇する危険性があります。偽陽性所見があると,それに起因する不必要な治療やフォローアップ,それに伴う患者の不快や不安などが惹起される可能性があります2)

 低線量CT検査による肺がんスクリーニングが行われた2106人の喫煙者のうち,約60%に結節などがみられ,1184人(56.2%)がフォローアップの検査,42人(2.0%)が気管支鏡や手術など追加検査・治療に進んだものの,実際に肺がんであったのは31人(1.5%)のみであったという報告があります3)。この研究では高危険群(喫煙者や過去に喫煙歴のある人)を対象にしていますので,非高危険群ではさらに偽陽性率が高くなることが推察されます。『画像診断ガイドライン2016年版 第2版』では,たとえ低線量CT(管電流50 mAs以下)であったとしても,非高危険群に対する肺がん検診はグレードC2(科学的根拠がなく,行わないよう勧められる)となっています4)

 症例のように「腹部CTのついでに胸部CTも」と撮影してしまうと,当然通常の線量で施行されることとなり,被ばくの影響も大きくなります。胸部病変を積極的に疑う臨床所見がない場合には,撮影範囲をむやみに広げることは適切ではありません。

念のための検査を行うリスク

 「念のため」の画像検査を行ってしまいやすい原因の一つとして,「撮らずに見逃して訴えられたらどうしよう」という医療者側の心配があります。しかし,逆に「適応のない検査を施行するリスク」もあります。

 過去の裁判例には,不要な心臓カテーテル検査を施行したことに対して医療機関側が敗訴した例があります〔横浜地方裁判所2017年2月23日判決;平成28年(ワ)第1837号〕。カルテに虚血性心疾患を疑わせるような記載はありませんでしたが,虚血性心疾患の保険病名が付された状態で,とある疾患の術前検査として心臓カテーテル検査が予定されました。その後の精査の結果,手術は不必要と判明し中止となりましたが,患者さんには術前検査の心臓カテーテル検査を行う説明が十分なされないまま,術前検査の心臓カテーテル検査は予定通り施行されました。心臓カテーテル検査では大きな異常は認められませんでした。

 これに対し患者さんは,術前検査は不要になったにもかかわらず,その説明を怠り,検査の要否について選択の機会を与えないまま侵襲性の高い検査を行い,精神的苦痛を受けたと主張し,裁判を起こしました。最終的には裁判所は説明を怠った点に限定して損害を認め,医療機関側が30万円の慰謝料を支払うことになりました。

 また,重大性の低い疾患において,アレルギー歴を問診せずに造影CT検査を行い,造影剤によるアナフィラキシーショックで死亡した事案〔東京地方裁判所2003年4月25日判決;平成13年(ワ)第23558号〕において,裁判所は「直ちに生命の危険を生ずるような疾患ではなく,その症状も改善傾向にあり,本件検査の必要性は必ずしも高かったとは認め難い」として,問診を適切に行っていれば検査を中止していたとして死亡の責任を肯定した例もあります。疾患の重大性と検査の侵襲性のリスク・ベネフィットバランスに裁判所が言及している点が注目されます。

 そもそも,医療においては普遍的なリスク・ベネフィットバランス原則の下で,誰が最終判断者かという問題に帰着します。最終的判断者である患者さんに大きな不満が残れば紛争化しやすく,紛争になった場合には医学的必要性が高くなければ,この裁判例のように判断されてしまう可能性があることにも注意が必要です。

治療だけでなく,検査でも患者との共有意思決定を

 連載第1回(第3223号)にご紹介したように,米国をはじめ世界各国にて,エビデンスに基づく賢明な医療選択を行おうというChoosing Wiselyキャンペーンが始まっており,日本でも活動を開始しています。このキャンペーンでは特に,患者さんとShared Decision Making(共有意思決定)を行うことが重要な点として強調されていますが,検査は治療に比べて共有意思決定の実践がまだ少ないのが現状です。主治医,放射線科医,コメディカル,保険者,そして患者さんの皆が一緒になって検査のリスクとベネフィットを理解し,患者さんに必要な検査は何かを考え,画像検査を賢く選び,使う環境づくりがこれからますます重要となっていくと考えられます。

症例への対応

 指導医Bが研修医Aに患者の胸部症状を尋ねたところ,特にないとのことであった。疾患の存在を疑わない部位に対してCT検査を行うことは不適切であると研修医Aに説明し,腹部CTのみを撮影した。腹部CTでは虫垂は正常であり(),患者は帰宅,経過観察となった。

 腹部単純CT。正常な虫垂が確認される(矢頭)

念のため検査のリスクのポイント

●画像検査の撮影範囲を「念のため」に広げることは,リスク>ベネフィットとなり得る
●「検査を行わずに見逃した場合」だけでなく,「リスク・ベネフィットバランスを大幅に逸脱した検査を行った場合」にも法的リスクは生じ得る

(了)

参考文献
1)Jpn J Radiol. 2017[PMID:28916887]
2)Am Fam Physician. 2011[PMID:21661705]
3)JAMA Intern Med. 2017[PMID:28135352]
4)日本医学放射線学会編.画像診断ガイドライン2016年版 第2版.金原出版;2016.

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