医学界新聞

連載

2018.04.09



賢く使う画像検査

本来は適応のない画像検査,「念のため」の画像検査,オーダーしていませんか?本連載では,放射線科医の立場から,医学生・研修医にぜひ知ってもらいたい「画像検査の適切な利用方法」をレクチャーします。検査のメリット・デメリットのバランスを見極める“目”を養い,賢い選択をしましょう。

[第12回(最終回)]念のための検査のリスク

曽我 茂義(防衛医科大学校放射線医学講座)
越後 純子(国家公務員共済組合連合会虎の門病院医療安全部)
隈丸 加奈子(順天堂大学医学部放射線診断学講座)


前回からつづく

症例

 下痢と右下腹部痛で来院した60歳男性。研修医Aが診察したところ痛みは中等度であり,血液検査ではCRP 1.0 mg/dL(軽度上昇)の他には異常を認めなかった。超音波検査では虫垂炎の可能性を否定できず,腹部CTを撮影することにした。せっかくCTを撮るので,念のため胸部も含めて撮影することを指導医Bに提案した。

念のための画像検査は本当に有用か?

 この20年間の画像診断技術の進歩は著しく,画像検査の適切な利用が,迅速で正確な診断やより良い治療につながる点には議論の余地がありません。一方で,適応の吟味が十分なされていない画像検査の問題も注目されるようになりました。2017年に日本医学放射線学会が全国の放射線科教育病院に対して行った調査(165施設が回答)では,適応が不適切な画像検査として,「検査目的に関係のない部位まで撮影範囲を広げた検査」「スクリーニング目的の検査,あるいは撮影目的の不明確な全身撮影」が上位に挙がりました1)

 見逃しや誤診を防ぐために画像検査は有用ですが,症例のように本来の目的(症状部位)とは無関係の範囲を含めて撮影すると,その部位では重篤な疾患の検査前確率が低いために,偽陽性率が大きく上昇する危険性があります。偽陽性所見があると,それに起因する不必要な治療やフォローアップ,それに伴う患者の不快や不安などが惹起される可能性があります2)

 低線量CT検査による肺がんスクリーニングが行われた2106人の喫煙者のうち,約60%に結節などがみられ,1184人(56.2%)がフォローアップの検査,42人(2.0%)が気管支鏡や手術など追加検査・治療に進んだものの,実際に肺がんであったのは31人(1.5%)のみであったという報告があります3)。この研究では高危険群(喫煙者や過去に喫煙歴のある人)を対象にしていますので,非高危険群ではさらに偽陽性率が高くなることが推察されます。『画像診断ガイドライン2016年版 第2版』では,たとえ低線量CT(管電流50 mAs以下)であったとしても,非高危険群に対する肺がん検診はグレードC2(科学的根拠がなく,行わないよう勧められる)となっています4)

 症例のように「腹部CTのついでに胸部CTも」と撮影してしまうと,当然通常の線量で施行されることとなり,被ばくの影響も大きくなります。胸部病変を積極的に疑う臨床所見がない場合には,撮影範囲をむやみに広げることは適切ではありません。

念のための検査を行うリスク

 「念のため」の画像検査を行ってしまいやすい原因...

この記事はログインすると全文を読むことができます。
医学書院IDをお持ちでない方は医学書院IDを取得(無料)ください。

開く

医学書院IDの登録設定により、
更新通知をメールで受け取れます。

医学界新聞公式SNS

  • Facebook