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第2977号 2012年5月14日


外来診療
次の一手

第2回】「急に腰が痛くなって……」

前野哲博(筑波大学附属病院 総合診療科教授)=監修
小曽根早知子(筑波大学附属病院 総合診療科)=執筆


2973号よりつづく

 本連載では,「情報を集めながら考える」外来特有の思考ロジックを体験してもらうため,病歴のオープニングに当たる短い情報のみを提示します。限られた情報からどこまで診断に迫れるか,そして最も効率的な「次の一手」は何か,ぜひ皆さんも考えてみてください。


【症例】Sさん 45歳男性

見るからにつらそうな表情で入室してきた。

Sさん 「1時間前に急に腰が痛くなって……,いてて!」
Dr. M 「何をしていたときですか?」
Sさん 「職場の駐車場で車から降りて荷物を取ろうとした瞬間です。歩くのもつらくて……。こんなことは初めてです」


バイタルサイン:体温36.7℃,血圧168/90 mmHg,脈拍数88回/分(整)。

⇒次の一手は?

■読み取る

この病歴から言えることは?

45歳男性の腰痛の症例である。45歳だと,心血管疾患,悪性疾患があってもおかしくはない年齢だ。「荷物を取ろうとした瞬間」ということから,突然発症であろう。突然発症と言えば,病態生理からは,管(血管のほか尿管・胆管など)が詰まった,破れた,は外せない。筋骨格系でも,骨折,断裂,ヘルニアなど,何かが物理的に破壊された病態を考える。

■考える

鑑別診断:「本命」と「対抗」に何を挙げる?

「本命=急性腰痛症(ぎっくり腰)」。何といっても頻度が高い。明らかな受傷機転がなくても突然起こりうることから,「魔女の一撃」とも言われるのがこれである。「対抗=尿管結石」,さらに大穴として「大動脈解離」を挙げたい。突然発症で激しい痛みである点はいずれも合致する。大動脈解離は本命・対抗に比べれば頻度は低いが,致死的な疾患であり絶対に見逃せない。「圧迫骨折」を起こすには年齢的にまだ若く,「骨転移」も頻度は低い。神経症状がなければ緊急性は低いだろう。

■作戦

ズバッと診断に迫るために,次の一手は?

「安静時に痛みはありますか?」「下肢に症状はありますか?」

 尿管結石・大動脈解離などの筋骨格系以外の疾患は,安静時にも痛みがあり,痛みが体動で大きく変化することはない。安静時痛がなく,痛みが体動時のみに限定されれば,腰痛の原因は筋骨格系にあると断言できる。

 腰痛の原因となる筋骨格系疾患のうち,大部分を占める「本命」の急性腰痛症は,通常2週間以内に改善する。筋骨格系で見逃せない疾患は,病的な圧迫骨折や転移性骨腫瘍などであるが,下肢に神経症状がなければ緊急性は高くないと判断し,まずは2週間待つ。これで改善すれば急性腰痛症である。2週間待って改善しなければ,あらためて画像診断を含む精査を始める。

 つまり,腰痛患者で上記2つの質問への答えがいずれも「いいえ」であれば,まずは2週間対症療法で経過を見ることができる。

その後

 患者には安静時痛,下肢神経症状ともになく,急性腰痛症の診断で帰宅となった。翌日には何とか歩行できるようになり,3日後には仕事に行くこともできたとのことだった。

■POINT

急性発症の腰痛では,「安静時痛」「下肢神経症状」の有無を確認しよう!

つづく

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