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第2973号 2012年4月9日


外来診療
次の一手

第1回】「昨日から3回も吐いてしまいました」

前野哲博(筑波大学附属病院 総合診療科教授)=監修
小曽根早知子(筑波大学附属病院 総合診療科)=執筆


 外来と病棟の最大の違い――。それは,"外来患者は診断がついていない"ということです。主訴から始まる患者の病歴情報は,時に膨大なものになります。診療に時間的制約がある外来では,すべての情報を網羅的に集めるのは現実的ではなく,外来担当医は,情報収集と同時進行で鑑別診断を考えつつ,さらに集めるべき病歴や身体所見,必要な検査項目を手際よく絞り込んでいかなくてはなりません。

 このように,外来における臨床推論の大きな特徴は,「情報を集めながら考える」というリアルタイム性にあり,本連載ではこの思考ロジックに焦点を当てます。具体的には,最初に病歴のオープニングに当たる短い情報を「症例」として提示し,その限られた情報からどこまで診断に迫れるか,さらに診断を確定あるいは除外するために最も効率的な「次の一手」は何かを考えます。ぜひ皆さんも,自分ならどうするかを考えてみてください。その後,実際に行われたアプローチを提示します。もちろん正解は一つではありませんが,一連のプロセスを通して,外来特有の思考センスを感じ取っていただければと思います。

(前野哲博)


【症例】Aさん 23歳女性

Aさん 「昨日夕方から気持ち悪くなって3回も吐いてしまいました」
Dr. M 「ほかに症状はありますか?」
Aさん 「お腹も時々痛くなります。だんだん頭も痛くなってきて,熱も出てきました」
バイタルサイン:体温37.5℃,血圧112/70 mmHg,脈拍80回/分(整),呼吸数12回/分。

⇒次の一手は?

■読み取る

この病歴から言えることは?

 まず問診票の情報から,「23歳」と若く慢性疾患・悪性疾患の頻度は低いこと,妊娠可能女性であることがわかる。「昨日」から「発熱」しており,第一に考えやすい原因疾患は急性感染症だ。

 次に症状に注目すると,「腹痛」「頭痛」と症状が複数の臓器にわたっている。「嘔気」「発熱」は腹部・頭部どちらに原因があっても起こり得る非特異的な情報のため,「腹痛」「頭痛」のどちらが病態の中心かを考えるほうが近道だろう。もし「腹痛」が中心なら原因臓器は腹部であり,頭痛は発熱に随伴した二次的な症状と考えられる。一方「頭痛」が中心なら原因臓器は髄膜であり,腹痛は嘔吐の二次的な症状だろう。症状の性状に注目すると,腹痛に波があり間欠期があれば蠕動痛とほぼ判断できる。頭痛は「だんだん」に始まっており,突然発症ではないため脳血管障害は考えにくい。バイタルサインは,発熱以外には大きく狂っていないようである。

■考える

鑑別診断:「本命」と「対抗」に何を挙げる?

 ここまでの情報から,「本命=急性胃腸炎」「対抗=髄膜炎」が考えられる。「本命」の急性胃腸炎は,もちろん多くの疾患の除外は必要だが,何といっても頻度が高い。「対抗」の髄膜炎は急性胃腸炎に頻度は及ばないが,重症度が高く,発熱を伴う頭痛では外せない疾患である。

■作戦

ズバッと診断に迫るために,次の一手は?

「下痢はありますか?」

 下痢があれば,原因臓器は腹部であり,診断はズバリ「本命」急性胃腸炎。これでほぼ決まりだろう。一方,下痢がない場合は「本命」「対抗」どちらとも絞りきれない。さらなる情報収集が必要になる。

その後

 患者は,朝からぎゅーっと締め付けられる腹痛の後に軟便から水様便を排泄するようになったという。排便後には腹痛は軽減する。頭痛はあるが気になるほどではなくなってきた。

 患者は急性胃腸炎と診断され帰宅した。

■POINT

 "腹痛・嘔吐"は下痢を伴わない限り,急性胃腸炎と診断してはいけない。

つづく

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