医学界新聞

連載

2012.06.11

外来診療
次の一手

第3回】「今朝からめまいがするんです」

前野哲博(筑波大学附属病院 総合診療科教授)=監修
小曽根早知子(筑波大学附属病院 総合診療科)=執筆


2977号よりつづく

 本連載では,「情報を集めながら考える」外来特有の思考ロジックを体験してもらうため,病歴のオープニングに当たる短い情報のみを提示します。限られた情報からどこまで診断に迫れるか,そして最も効率的な「次の一手」は何か,ぜひ皆さんも考えてみてください。


【症例】Bさん 59歳女性

目を閉じてつらそうな表情で入室してきた。

Bさん「今朝起きたときから,めまいがするんです」
Dr. M「どのようなめまいですか?」
Bさん「じっとしていれば大丈夫なのですが,起き上がろうとすると視界がぐるっとするような……」


バイタルサイン:体温36.0℃,血圧118/58 mmHg,脈拍数78回/分(整)。

⇒次の一手は?

■読み取る

この病歴から言えることは?

「めまい」を主訴に受診した59歳女性である。一般に,患者の訴えるめまいには,「回転性」「前失神」「浮動感」の3つがある。中年女性であることから,高血圧,糖尿病など基礎疾患が隠れている可能性は十分にある。「視界がぐるっとするような」という表現から,症状はおそらく「回転性めまい」だろう。一方で,「起き上がろうと」したときにめまいが出現していることから,起立性低血圧などの前失神症状をめまいと表現しているのかもしれない。

 起立性低血圧の原因としては,不整脈など心原性や貧血のほか,降圧薬など薬剤性の可能性も考慮したい。つらそうではあるものの自力歩行で入室していること,「今朝から」と急性発症であることから,代謝性や変性疾患による平衡障害の可能性は低そうだ。

■考える

鑑別診断:「本命」と「対抗」に何を挙げる?

「本命」は良性発作性頭位変換性めまい症(BPPV)。安静時には出現せず,起き上がろうとしたときに「視界がぐるっとする」と表現されるめまいであり,頭位変換時の回転性めまいの症状が最も疑われる。「対抗」には,起立性低血圧などの失神に分類されるめまいを考えたい。

■作戦

ズバッと診断に迫るために,次の一手は?

「寝返りをうつとめまいはしますか?」

 寝返りは臥位から座位への変換を伴わない頭位変換であるため,これでめまいが誘発されるのであれば前失神症状を来す原因疾患はほぼ除外される。安静時に症状がなく,頭位変換で誘発され,安静にしていれば1分以内に症状が消失するならBPPVで決まりである。一方寝返りでは誘発されず,起き上がると症状が出現するなら前失神症状の可能性を考える必要がある。

その後

 患者は,寝返りをうつとめまいがするという。頭痛,難聴などはなく,Frenzel眼鏡で安静時には眼振がなく,頭位変換時に眼振が誘発され,1分以内に減衰した。BPPVと診断され帰宅した。

■POINT

BPPVは「寝返りでも出現する」めまいである!

つづく

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