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第2936号 2011年7月11日


「本物のホスピタリスト」をめざし米国で研鑽を積む筆者が,
その役割や実際の業務を紹介します。

REAL HOSPITALIST

[Vol.7] 病棟管理の専門教育2

石山貴章
(St. Mary's Health Center, Hospital Medicine Department/ホスピタリスト)


前回よりつづく

To be honest with you, I don't know exactly what's going on. However, I know that she needs ICU care for now.
(何が起きているのか,正直わからないんだけど。ただ,ICU管理が必要なことは間違いないと思う。)

Tell me more about the patient's condition, please.
(患者の状態について,もっと詳しく教えてください。)

 患者は70代後半の女性だった。発熱でER受診,肺炎として私のもとに入院となった。しかし,胸部X線上はさして異常所見がなく,また尿路感染等の所見もみられなかった。まずは肺炎として治療を開始していたのだが,そのうち便秘を訴え始めた。そうこうしているうちに呼吸困難となり,また嘔吐し始めた。

 その時点で初めて腹部X線上,イレウスの所見を示した。NGチューブを挿入して様子をみたのだが,呼吸苦がひどく,CO2の貯留が認められ始めたため,ICUに送ることにした。

 前回,私のレジデント時代の経験やホスピタリストとのかかわりを軸に,こちらのレジデント教育について触れてみた。実際こちらの医学教育にかかわると,そのダイナミックさにワクワクする部分が多々ある。では具体的にホスピタリストは,レジデントの能力向上のためにどのような取り組みをしているのだろうか。今回はこの疑問に答えてみたい。

 医学教育に限らず,実地教育上重要となるのは「スキルの向上」と「意欲の向上」の両輪であろう。ホスピタリストは,この両面からレジデントの能力向上に取り組むことになる。スキル面では,ホスピタリストの持つスキルを,OJT・Off-JT両方を通してレジデントに獲得させる。意欲面では,レジデントの年数・能力に合わせ,きめ細い指導から徐々にチームのパートナーとして扱うレベルまで,各段階で周到に各人の意欲を喚起する。それぞれを,より具体的にみてみたい。

 まずは,「スキル向上策」である。ここでは入院時の患者振り分けから入院,経過,そして退院という一連の流れのなか,ホスピタリストが常にレジデントと密接にかかわり,徹底したOJTを行っている。より具体的には以下の通りである。

1)患者の振り分け……この段階で,適切な患者の数あるいは重症度を考慮した患者分配を,担当ホスピタリストが行う(インターン中心のチームとシニアレジデント中心のチームとでは,患者分配も異なる)。
2)入院時……単なる電話報告にとどまらず,入院時から常にホスピタリストがレジデントチームとともに患者のもとに行き,また鑑別診断・検査・治療など行き届いたベッドサイドティーチングを行う。
3)経過管理……患者の状態の改善あるいは悪化時など,常にチームで回診し,アプローチすることで,レジデントたちに密接したOJTを日々行うことが可能。それによりレジデントは,ホスピタリストの思考過程にじかに触れることができる。
4)退院時……患者やその家族,あるいはプライマリ・ケア医へのアプローチの仕方を,常にホスピタリストの指導のもと,学ぶことができる。

 一方Off-JTには,関連文献の助言,学会発表あるいは学会誌への論文投稿の指導などがある。

 さてもうひとつの車輪,「意欲向上策」である。ここでは先ほど述べたように,レジデンシーの各段階で,周到に各人の意欲を喚起することをめざしている。

 具体的には,インターンレベルに対しては,より注意深く,細かい指導と確認を心がける。手取り足取りに近い指導とディスカッションを,ポジティブフィードバックを中心に行う。シニアレジデントレベルに対しては,患者の安全面を確認しつつ,自主性をある程度重んじた,よりパートナーに近い扱いをすることで,意欲を喚起する。無論,これは単に学年だけではなく,各人の実際のレベルに合わせた対応となる。たとえ学年では同じシニアレジデントだとしても,実力に応じてその扱いは少しずつ異なる。

Could it be an ileus due to bowel ischemia?
(腸虚血によるイレウスの可能性はないですか?)

That is a…… good point…….
(それは,いいポイントかも……。)

 患者をICUに送る際のディスカッションにおける,ICU担当のシニアレジデントとの会話である。経過がゆっくりなのと,あまりにさまざまな問題が少しずつ現れてきていたため,自分の中で,その鑑別がすっかり抜け落ちてしまっていた。そのコメントをもらい,正直,慌てた。

 すぐに腹部CTをオーダー。大動脈が石灰化で覆われており,上腸間膜動脈の血流低下が疑われそうな所見であった。その後の開腹では明らかな腸管の虚血は認められなかったものの,一時的な腸管虚血があったのだろうと,私の中ではほぼ断定している。それだけに,この鑑別ができず,このレジデントに遅れを取ったことは,悔しかった。はっきり,敗北と言っていい。

 このように,レジデント教育にかかわることで,いまだ自分が坂の途中であり,発展途上であることも,時折実感させられる。この未熟な私が,教育に携わっていることに対する恐れさえ,頭をもたげる。ただそれでも,やる気のある優秀なレジデントとのディスカッションは,たまらなく楽しいのである(時折このように,悔しい思いもするのだが……)。

 以上,「ホスピタリストを中心とした医学教育」を具体的にみてきた。最後にまた,ポイントをまとめて本稿を終わりとしたい。

Real Hospitalist虎の巻

ホスピタリストの役割とそれに伴う利点(4)
 意欲とスキルの両面からのレジデントの能力向上。スキル面では,ホスピタリストの持つスキルを,OJT・Off-JT双方を通してレジデントに伝授。意欲面では,レジデントの年数・能力に合わせ,各段階で周到に各人の意欲を喚起する。

セントルイス紹介Photoシリーズ第3弾,Washington University in St. Louis。医療従事者で知らないものはいないであろう,かのWashington Manualの発祥の地がこちらである。もっとも,写真はMedical Campusではなく,Main Campus(右)とその中にあるHall(左)。趣のある建物なので,ぜひ一度は訪れてみたい。

つづく

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