医学界新聞

連載

2011.08.08

「本物のホスピタリスト」をめざし米国で研鑽を積む筆者が,
その役割や実際の業務を紹介します。

REAL HOSPITALIST

[Vol.8] 「敵」との攻防

石山貴章
(St. Mary's Health Center, Hospital Medicine Department/ホスピタリスト)


前回よりつづく

This patient does not meet criteria for observation in the hospital.
(この患者はうちの会社における,観察入院のクライテリアさえ満たしません。)

Whaaat! That's crazy. This patient had a syncopal episode, not just dizziness.
(ええっ!! そんなばかな。単なる目眩でなく,実際の意識消失発作ですよ。)

 「男には負けるとわかっていても,戦わねばならぬ時がある」。

 これは映画か何かの台詞であるが,このような気分になることが,時折ある。「ホスピタリストには(保険会社に)負けるとわかっていても,(以下略)」といった感じである。今回は,そんなホスピタリストと保険会社や病院上層部との攻防の様子を描いてみたい。

 患者は24歳の女性。数秒間の意識消失のためERを受診。原因がはっきりせず,不整脈等を除外するため,テレメトリーフロア(心モニター専用フロア)に観察入院となった。しかし後日,彼女の加入する保険会社が,この支払いは認められない,とクレームを付けてきたのだ。その評価を行った保険会社の担当医師との電話での会話が,冒頭の台詞である。

 ここアメリカでは,数ある保険会社が患者の入院費を受け持つかどうか,きっちりと精査する。できるだけお金を払いたくない保険会社と,なんとかお金を受け取らねばならない病院との間で火花散る攻防があり,われわれホスピタリストはその間で奮闘することになる。冒頭のケースでは,この保険会社の医師が,観察入院をも認めない,と言ってきたわけだ。無性に,腹が立った。

 こちらで病院内主治医であるホスピタリストをしていると,このような保険会社所属の医師との電話での議論は,日常茶飯事である。カルテ記載のみの確認で,実際に患者を診てもいない医師に四の五の言われると,「事件は会議室で起きているんじゃない。現場で起きてるんだ!!」と叫んだ青島刑事の気持ちが,大変よくわかる。

 少しでも保険算定に有利になるよう,カルテ記載も病院側にチェックされる。記載の仕方で,保険会社が認める入院日数に差が出てくるためだ。病院の一部門がこのために,カルテ記載を細かくチェックしてくれている。これは,純粋に病院のファイナンスのためであり,決してわれわれホスピタリストに難癖を付けるためではない。しかし,正直うっとうしい。

 例えばSepsisという診断。これをカルテに記載するためには,厳密なクライテリアを満たしている必要があり,もし満たしていない場合は,即チェックされてしまう。診断のクライテリアなど,言葉尻の問題もあり,医学的な本質ではないと思うのだが,残念ながらこういったことにエネルギーを割かざるを得ない。また,POA(Present on Admission;入院時に存在)という言葉を診断の最後に付けておかないと,保険会社が認めないというケースもある。これも例えば,Sepsisという代わりに Sepsis,POAといった具合である。その診断名が患者の入院時には既に存在した,というこ

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