医学書院

検索
HOME週刊医学界新聞 > 第2932号 2011年06月13日

第2932号 2011年6月13日


「本物のホスピタリスト」をめざし米国で研鑽を積む筆者が,
その役割や実際の業務を紹介します。

REAL HOSPITALIST

[Vol.6] 病棟管理の専門教育

石山貴章
(St. Mary's Health Center, Hospital Medicine Department/ホスピタリスト)


前回よりつづく

Effective communication! It is the most essential, least expensive diagnostic tool.
(十分なコミュニケーション! 最も安価,かつ効果的な診断手段だ。)

Think about as many differential diagnoses as you can imagine. Consider all of them. Otherwise, you will miss one.
(でき得る限り,鑑別を考えろ。さもないと,見逃す。)

 私の所属する病院は教育病院,こちらで言うところのTeaching Hospitalである。この市中病院で,多くの若手医師が日々実践的な研修を受けている。私自身,ここで3年間の研修を受けた。一日患者を取るオンコール。半日取るショートコール。ICUローテーションでは,中3日での泊まりの夜間勤務。ヌーンカンファレンスやグランドラウンドでの発表,そしてジャーナルクラブ。きめ細かい鑑別の仕方から,エビデンスに基づく検査,そして治療の提示。密度の濃い3年間。とにかく,しごかれたと言っていい。

 そして冒頭の最初のせりふはわが師匠であるDr. Vaidyanから,二番目のせりふはプログラムディレクターから,当時口癖のように聞かされたものだ。これらの呪文は,私の体に染み渡るまで繰り返された。現在レジデンシーを経験中の若手ドクターたちも,皆この洗礼を受けているはずである。

 Dr. Vaidyanが新しいファカルティメンバーとなって以来,当院では,徐々にホスピタリストによる教育に重きが置かれるようになった。そして現在,彼が作り上げたホスピタリストグループの役割は,レジデント教育において,そのかなりの部分を占めている。レジデントたちは担当ホスピタリストのもと,チームとしてその手足となって働き,プラクティカルな患者管理を,日々学ぶのである。

 それは従来大学病院で行われていたような,各サブスペシャリティからアテンディングを月ごとに割り振り,朝のラウンドだけを一緒に行うような,通り一遍の総合内科教育ではない。Hospital Medicineのスペシャリストによる,より実践的な細かい指導であり,徹底したOJT(On the Job Training)である。これは,私がレジデントのときにもなかったものだ。

 従来型の教育システムに比べ,ホスピタリストがメインの指導者となったシステムに,医学生やレジデントがより高い満足度を示したというデータが,エモリー大学における調査で実際に示されている。その論文内(J Gen Intern Med.2004〔PMID: 14748855〕)で著者らは「総合内科における EBMに基づいた熱意ある教育等,トレーニングを受ける側にとってより価値のある特徴的な人格(specific characteristics)とその教師としての姿勢」を,その高い満足度の理由として挙げている。各大学病院も現在,ホスピタリストをその教育システムに取り入れ始めている。

He is somewhat lethargic, and confused, which is probably secondary to sedative medications.
(少し傾眠傾向で,混乱しています。たぶん,セデーションによるものだと思いますが。)

No. I think this patient needs a brain MRI. He is not confused, but has an expressive aphasia.
(いや,頭部MRIが必要だと思う。混乱ではなく,失語症状があるようだ。)

 それは,急性呼吸不全でICUに入院になった患者だった。抜管後,患者が傾眠状態であり,混乱しているようだとのレジデントからの報告であった。しかし診察した結果,私は失語症を疑った。患者は完全にこちらの言うことを理解しているのだが,言葉にできないようだった。Yes/Noでの質問に,患者はきちんと返答してくる。その後,予想通り頭部MRIにて,前頭部に脳梗塞が認められた。すぐにアスピリン投与を開始するとともに,神経内科にコンサルトがなされた。ほんの少しでもレジデント教育に貢献できたと思うと,やはり気分がいい。

Place yourself in a position for improvement. I can create such an environment.
(お前は,自分自身を成長させられるところに身を置け。俺なら,それをお前に与えられる。)

 レジデンシー修了の間際,進路に迷っていた私に,師匠がかけてくれた言葉である。そしてその言葉通り,彼は私を適切な環境に置き,そしていまだに成長できるよう引き上げてくれる。これは,私がレジデントであったときからなんら変わらない。彼を師匠と仰ぐゆえんである。

 そして私は,この教育システムに残り,今度は教える側に回ることで,自分自身をより成長させる道を選んだ。収入面だけでいえば比較にならないほど好条件の病院からオファーがあったにもかかわらず,だ。まだまだ発展途上の私にとって,師匠である彼の存在と,その彼が作ろうとしていたシステムは,それほどまでに魅力的であった。

 私のように研修時にかなり苦労したレジデント,平たく言えばまあ「落ちこぼれ」だが,そういう人材でも「やる気さえあるならば,そのポテンシャルを最大限に引き上げてやろう」という姿勢が,こちらの教育システムにはある。私はかつて日本で,外科の世界の「技術は目で盗め」という研修生活を送った身だ。両方を経験した上でそれらを振り返ったとき,こちらの教育システムを日本に浸透させたいと,最近,切に願うのである。

Real Hospitalist虎の巻

ホスピタリストの役割とそれに伴う利点(3)
 総合内科医であるホスピタリストによる,レジデントや医学生に密着した,病棟管理に関するきめ細かい医学教育。従来型のサブスペシャリティによる月ごとの割当ての当番制アテンディングに比較し,より高い満足度と教育の質が期待できる。

セントルイス紹介Photoシリーズ第2弾,ブッシュスタジアム。ご存じ,セントルイスカージナルスの本拠地である。試合日にはこのスタジアムまで,チームカラーである赤色の服を着込んだ人波で,文字通り道が赤く染まる。2006年には,24年ぶりにワールドシリーズを制し,市全体が熱狂に沸いた。筆者も記念Tシャツを購入した一人。

つづく

連載一覧