論理的思考(3)分解・分析して考える(井村 洋)
連載
2009.12.21
医長のためのビジネス塾
〔第11回〕論理的思考(3)分解・分析して考える
井村 洋(飯塚病院総合診療科部長)
(前回からつづく)
前回・前々回で,論理的思考の基本について説明してきました。論理的思考が診断や治療選択時に行う思考パターンと同様のものであることに気づかれたのではないでしょうか。実際に,論理的思考の解説書の中には,診断時の思考パターンに例えて説明しているものがあります。
では,そのような思考方法は,組織運営・経営の現場ではどのようなときに必要なのでしょうか。主たるもののひとつとして,原因分析・特定と解決方法を考える際が挙げられます。組織運営・経営における「診断・治療」を練り上げるときに使われるのです。
問題解決の成功率を高める4つのステップ
「問題がある」ということは,本来あるべき姿と現状との間に生じたギャップによって不都合な事態に陥っている状況だと定義できます。問題解決とは,その現状をあるべき姿にするための方策です。問題解決の成功率を高めるためには,いくつかのステップを踏んでいく必要があります(図1)。
図1 問題解決のステップ |
まずは,「何を考えなくてはならないか」についてしっかりと絞り込んでおくステップ1です。例えば,「小児科が減少している」という課題も,厳密に調査すれば「地域レベルで,夜間・休日に救急対応可能な小児科が減少」「比較的状態の安定している中学生を内科医が診療する体制の不備」がリアルな課題かもしれません。このように課題そのものを絞り込んでおくというプロセスはとても重要なのですが,見過ごしていることが多いような気がします。
次は,特定された課題を分解・分析していくことで,根本的原因を探り当てる原因分析のステップ2です。そして根本的原因の解決策をリストアップした後に解決策を選定するステップ3があり,さらにはその解決策を実行に結びつけていくステップ4となっています。
これらのステップが,問題解決にとって重要であることに異議を唱える方は少ないと思います。にもかかわらず,私たちの日常では,これらのステップを省略して刹那的な対策が打ち出されていることが少なくありません。
「入院患者数を目標レベルに増加」「マッチングの導入により生じた地方の医師不足に対して行う,県単位の研修医数制限の設定」「医療費高騰による財政圧迫に対する保険点数の一律削減」など,規模の小さなものから大きなものまで,いずれにおいても同じような落とし穴にはまっている感じがします。これらの打ち手が正しくないという指摘をしているのではありません。いずれの場合においても前述したような問題解決のプロセスを明確に感じとることができないために,打ち出される対策の有効性についても疑心暗鬼になってしまう,と言いたいのです。
原因分析に有用なイシューツリー
出血性ショックの場合には,「どこから出ているか」「どのくらい出ているか」という現状把握に加えて,「どうして出ているか」という原因分析を必ず行っているはずです。確実な対策を実施するためには,輸血による対症療法と並行して,根本的な原因の特定が欠かせないからです。
同様に,運営・経営における問題解決でも,現状分析とともに根本的な原因を突き止めることが重要です。特に,根本的な原因の追求は,確実性の高い解決策を立てるために必須です。その根本的原因を突き止めるための論理的思考ツールとして有用なのがイシューツリーです。
例を挙げて説明します。自分が経営している100円ショップの利益が思ったように伸びていない場合を想定してみてください。どこに原因があるのでしょうか。原因を特定するためには,利益を構成する要因に分解したイシューツリーが有用です(図2)。利益が下がっている原因は,大きく分けると,売上げが低下しているかコストが高すぎるかのどちらかです。売上げ低下の要因は,購入客数が低下しているか客購入単価が低下しているかになります。購入客数については,図示したようにさらに分解していくことができます。
図2 イシューツリーの一例 |
イシューツリーとは,このように上位から下位に向けて要因を漏れなく細分化しておくことで,根本的原因を特定するための仮説設定や具体的な調査を行うことを容易にするツールです。原因仮説を一つひとつ漏らさずに検討することが可能になり,根本的原因にたどり着く可能性が高まるのです。意識障害の成因診断時に,“AIUEOTIPS”と唱えて病態別に分解した上で,それぞれの可能性を検討して,最も該当する診断仮説を選定することが,重要な疾患を見落とすことなく高精度の診断にたどり着くための賢明な方策であることと,全く同じ発想です。
このイシューツリーを作るときに大事なポイントが,前回も紹介したMECE(Mutually Exclusive, Collectively Exhaustive;モレなくダブリなく,同レベルのもの)です。課題を要因に分解するときには,モレなくダブリなく同レベルにしておくことが重要です。なぜならば,モレがあれば大事な原因を見逃してしまうし,ダブリがあれば原因調査におけるムダを生み,同レベルでなければ検討時の混乱を生じる危険性を高めるからです。
MECEの様式で分解する
MECEについて,例を示して説明します。車の販売強化に際して,どの客層にどのようなプロモーションが有効かということを考える状況設定だとします。MECEの様式で客層を分類してみましょう。「男性:女性」は正解です。「収入別」も「年齢別」もOKです。しかし「勤め人:自営業」としてしまうと,学生やフリーター,定年者など多くの層を漏らしているのでMECEとは言えません。また,「アウトドア派:インドア派」では,ダブリもモレも生じてしまいます。
このように,ある集合体をMECEの様式で分解するためには,コツが必要です。ひとつは,テーマを定めた上で分ける方法です。例えば,業種別,出身県別,同居家族の有無別などです。さらには,年齢別,従業員数別,時間別,年収別,距離別など,数字を用いた分割方法があります。また,本連載第5回に紹介したマーケティングの4P(Product:製品,Price:価格,Place:流通様式,Promote:広報)や,第8回に紹介した3C(Company:自社,Consumer:市場,Competent:競合)など,定番のフレームワークを応用することも有効な方法です。
ただし,必ずしもすべての課題をMECEに分解しきれるとは限りません。その場合に大事なことは,完全にMECEになっていなくても,MECE感の漂う内容を並列に設定することなのです。そして,課題の文脈に沿った切り口でMECEに分解されていることも重要なポイントです。
(つづく)
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