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[第7回]創傷を処置しよう①
写真を見て・解いて・わかる皮膚排泄ケア「WOCドリル」創傷編
連載 間宮直子
2025.12.03
WOCドリルを担当するマミヤです。私は皮膚・排泄ケア認定看護師(WOCN)として,WOCNが在籍していない施設へケアの技術・知見を共有してきました。こうした経験を通して得たことを基に,皮膚・排泄ケアで間違いやすいポイントを中心に,適切なケアをドリル形式で解説していきます。
一緒に学習する臨床3年目看護師のさくらです。私が所属する病院にはWOCNはおらず,学生時代に学んだ方法や,代々引き継がれてきた病院独自の方法で皮膚・排泄ケアを行っています。患者さんのことを想うと,本当にこの方法で正しいのか自信がありません……。
前回まで「DESIGN-R®2020」での褥瘡評価を行うことを学びました。まだまだ迷うこともありますが,スコアから経過を共有できるので,みんなで褥瘡評価をしていこうと思います。ですが褥瘡の状態によって,軽症から重症まで幅広いため,洗浄や被覆方法が正しいのか迷うことがあり,新たな悩みとなっています。
たしかにそうですね。基本的な処置の手順は同じでも,滲出液の量,感染の有無,壊死組織の範囲や性状によって,処置方法は変わってきます。洗浄は,汚れを取り除くためのスキンケアの基本とされますが,褥瘡においてもガイドライン等で強く推奨される処置のひとつです。ここでは褥瘡の洗浄について学んでいきましょう。
問題 褥瘡の洗浄方法として不適切なのはどれ?
どれも炎症期の(きれいではない)褥瘡です。間違った洗浄をしているのはどれでしょうか。①~④から誤りを1つ探してください。
① 弱酸性洗浄洗剤の泡で創周囲10~20㎝の範囲を洗った
② たっぷりの微温湯で洗浄剤や汚れが落ちるように洗った
③ 少量の洗浄液(生理食塩水)と少量の洗浄剤の泡を使って優しく洗った
④ 異物とぬめりの強い創面・創縁部を指やガーゼを使って軽く擦りながら洗った
解説
褥瘡の「炎症期」についてまずは簡単に説明します。傷ができると「出血凝固期」「炎症期」「増殖期」「再構築期」と移行して治癒に向かいます。これを「創傷治癒過程」と言います。この「炎症期」の時期は,炎症細胞(細菌・異物を貪食するサイトカインやマクロファージなど)が傷を遊走して壊死組織や挫滅した組織に働きます。ここを早期に脱すると「増殖期(新生血管・肉芽などが作られ創が収縮する時期)」に移行するため,スムーズに治癒へ向かうことが期待できます。なかなか治癒に向かわない慢性創傷は,この「炎症期」が遷延していると考えられています1)。そのため「炎症期」を早期に脱するための適切な処置が必要となります。
処置のひとつである「褥瘡洗浄」の目的は,汚れを取り除き創傷環境を最適化することにあります。つまり,壊死組織やバイオフィルムなどの異物を洗浄で除去することで,悪化予防や治癒促進につなげます。また,仙骨部や尾骨部の褥瘡では,付着する排泄物の汚染も除去できるため,感染予防も期待できます。
①弱酸性洗浄洗剤の泡で創周囲10~20㎝の範囲を洗った
☞ 〇
弱酸性洗浄洗剤の泡を使って広範囲に洗います。
健康な皮膚表面は弱酸性です。これがスキンバリアとなり,さまざまな感染の防御に重要となります。ですから弱酸性の洗浄剤は皮膚への刺激が少ないだけでなく,菌増殖リスクを抑える方向に働きます。
創周囲の皮膚を洗浄するのは,水に不溶性のタンパク質や脂質などの汚れが付着しているためです2)。また周囲皮膚に汚染があると,創面への細菌の転移が容易になるため,感染リスクは高くなります。創周囲の汚れの残存は,ドレッシングの貼り付けにくさ,剝がれやすさにつながり,これも感染リスクを高めます。
②たっぷりの微温湯で洗浄剤や汚れが落ちるように洗った
☞ 〇
汚れのある褥瘡は十分な量の微温湯(37度前後)を使って洗浄します。
創洗浄は「壊死組織・バイオフィルム(細菌)・滲出液・便や尿・血液などを創面から除去する」ための基本的な処置です。これらの異物は十分な量の微温湯を流すことで“物理的”に除去されます3)。
微温湯(37度前後)で洗うメリットは,創周囲の血流や肉芽の代謝活性を維持し,創傷治癒が進みやすい環境を保てる点です。冷たい水で洗うと創面の温度が下がり,血流や白血球機能が低下し,治癒の遷延となります。
③少量の洗浄液(生理食塩水)と少量の洗浄剤を使って優しく洗った
☞ ×
汚れた褥瘡は周囲皮膚と創面を洗浄剤の泡を使って洗い,十分な微温湯で洗い流します。
清潔な生理食塩水で創部を洗浄しても,少量であれば汚れはとれません。十分な水圧,たっぷりの微温湯で洗い流せば,壊死組織やバイオフィルムなどを物理的に除去できます。一方,少量の水で洗うと汚れが残るだけでなく,擦ることで摩擦が強くなり,周囲皮膚の損傷につながることが懸念されます。
また,洗浄の際の泡は汚れを落とすだけでなくクッションの役割を果たします。洗う指と創面や周囲皮膚との摩擦やずれを減らすことが期待できます。
④異物が多くぬめりの強い創面と創縁部を指やガーゼ使って軽く擦りながら洗った
☞ 〇
壊死組織とぬめりが,強めの水圧でも落ちないときは,指やガーゼなどを使って軽い摩擦で汚れを洗い流します。
本来,壊死組織が多い場合は,医師や研修を受けた看護師*に依頼してデブリードマン(はさみや鋭匙などを使って不要な組織を除去する行為)をしてもらうことが推奨されており,ガーゼなどで強く擦ることは勧められているわけではありません。しかし,デブリードマンが難しい場合,泡を付けたガーゼで健常な組織を傷つけないよう摩擦を加えることは,“機械的”な異物除去となり有用な場合があります。出血しやすい創や痛みが強い場合はデブリードマンの補助的な方法とはいえ,十分な量と水圧の微温湯で洗うことが推奨されます。
答え: ③少量の洗浄液(生理食塩水)と少量の洗浄剤を使って優しく洗った
褥瘡がなかなか良くならなかったのは,正しい洗浄方法が行えていなかったからかもしれません。褥瘡の状態に応じた洗浄を実践することが,治癒の促進につながるのですね。
洗浄は「壊死組織・汚れ・バイオフィルム・滲出液などを創面から除去する」ための基本的な処置です。感染予防・治癒促進,さらには褥瘡評価の精密度を上げるためにも,被覆材を交換するたびにしっかり洗浄しましょう。では,「炎症期」褥瘡と「増殖期」褥瘡の洗浄の実際を見てみましょう。
「炎症期」の褥瘡は,たっぷりな微温湯と水圧で,周囲皮膚と創面の汚れをしっかり落とすことを目的にする。一方,きれいな褥瘡である「増殖期」は,周囲皮膚と創面に残存する外用薬や滲出液などの汚れを優しく落とす目的で洗浄をすればよいですね。
そうですね。汚れが強い炎症期褥瘡の洗浄は,先端の細いボトルなどを利用した水圧とたっぷりの微温湯で,しっかり流して異物などを取る(物理的除去),取れない部分などは触れて取り除く(機械的除去)イメージで洗ってください。洗浄は創傷処置の核心であると言えます。褥瘡の状態に応じた適切な方法で洗浄をしていきましょう。
今回のポイント
✓ 褥瘡の洗浄は,治癒促進・悪化予防のためには必須の処置である
✓ 炎症期の褥瘡は,たっぷりの微温湯と水圧を使ってしっかり洗う
✓ 弱酸性洗浄剤の泡を用いて洗うことが有用とされている
✓ 創面だけでなく周囲皮膚も洗う
✓ 褥瘡の状態(時期)に合わせた洗浄を行う
*医師の包括的な指示のもとで,創傷治療の一部を自ら判断して実施できる特定行為研修を修了した看護師。ここでの特定行為は,創傷管理関連の「褥瘡または慢性創傷の治療における血流のない壊死組織の除去」の行為を指す。
参考文献・URL
1)溝上祐子(編).ドレッシング材・外用薬の選び方と使い方 第2版.照林社;2021.
2)Ostomy Wound Manage. 2005[PMID:15695835]
3) 日本褥瘡学会 編.褥瘡予防・管理ガイドライン 第5版.照林社;2022.
間宮 直子(まみや・なおこ)氏
1997年に大阪府済生会吹田病院に入職。皮膚・排泄領域のケアを専門とし,04年に皮膚・排泄ケア認定看護師資格を取得する。その後,16年に創傷管理関連の特定行為研修修了,17年に滋慶医療科学大大学院医療安全管理学修士課程修了。11年より現職。
「高度な急性期病院でありつつ、医療・介護をトータルに支える地域密着型の病院機能も担う“二刀流の病院”を目指す」という病院のミッションの下,同じ医療法人グループの中にある高齢者施設,訪問看護のみならず多くの施設・機関にアウトリーチ活動を行っている。
所属学会は,日本創傷・オストミー・失禁管理学会(評議員),日本褥瘡学会(評議員・褥瘡認定師) ,日本フットケア・足病医学会(理事・学会認定師) ,日本認知症ケア学会(認知症ケア専門士) ほか。
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間宮 直子(まみや・なおこ)氏 済生会吹田病院副看護部長/皮膚・排泄ケア認定看護師
1997年に大阪府済生会吹田病院に入職。皮膚・排泄領域のケアを専門とし,04年に皮膚・排泄ケア認定看護師資格を取得する。その後,16年に創傷管理関連の特定行為研修修了,17年に滋慶医療科学大大学院医療安全管理学修士課程修了。11年より現職。
「高度な急性期病院でありつつ、医療・介護をトータルに支える地域密着型の病院機能も担う“二刀流の病院”を目指す」という病院のミッションの下,同じ医療法人グループの中にある高齢者施設,訪問看護のみならず多くの施設・機関にアウトリーチ活動を行っている。
所属学会は,日本創傷・オストミー・失禁管理学会(評議員),日本褥瘡学会(評議員・褥瘡認定師) ,日本フットケア・足病医学会(理事・学会認定師) ,日本認知症ケア学会(認知症ケア専門士) ほか。
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