医学界新聞

連載

2009.11.16

医長のためのビジネス塾

〔第10回〕論理的思考(2)最小基本構造

井村 洋(飯塚病院総合診療科部長)


前回からつづく

図1 直列の関係
 論理的思考を身につけるためには,その最小基本構造を常に意識しておく必要があります。その構成要素は,論点と結論と根拠です(図1)。

「論点」を明確にする

 論点は,仕事上の解決すべき問題や,達成すべき課題のこともあれば,日常生活における悩みの相談なども含まれます。いずれにしても,「今ある問題に対して,どうすべきなのか?」ということが発端になります。私たちの仕事においては,患者・家族から持ちかけられることのすべてが論点だと言えそうです。また,診療科の運営や病院機能にかかわることについても,常に論点だらけです。

 大事なことは,論点を明確にしておくことです。急性期の診療においては,論点は比較的明確です。腹痛や頭痛などの症状で受診している患者と医師の双方にとっては,症状改善,原因や適切な治療の探求が目的として共有されているからです。

 ところが,生活習慣病をはじめとする慢性疾患の場合には,少し様子が異なります。高血圧の患者を題材にとって考えてみましょう。高血圧のことをあまり知らない患者であれば,高血圧そのものを治してしまいたい,という希望を抱いていても不思議ではありません。医師がそのことを認識していなければ,「高血圧そのものは治癒しえない」という前提で診療を進めていくことになります。このように,診療開始当初から,患者・医師お互いの論点がずれてしまう危険性があるのです。そうならないようにするためには,最大の論点である「高血圧という状態に対して,どうすべきなのか?」について,患者と医師がそれぞれの意見を交わした上で,例えば「高血圧による弊害を回避するにはどうするべきなのか?」という具合に,絞り込んだより明確な論点を共有する必要があるのです。

 プロジェクトや会議などの場面では,論点の明確化はさらに重要になります。なぜならば,意向や視点の異なる多様な関係者が集まるからです。何が論点なのかについて,常時全員の共有を図り続けておかなければなりません。

論点に呼応する「結論」

 論点が明確になれば,次はそれに呼応する結論・主張が存在していなければなりません。

 「呼応している」ということの意味するものは2つあります。ひとつは,論点に沿った結論であるということ。もうひとつは,論点と結論との関係を容易にくみ取れるものであるということです。

 先ほどの高血圧を例にとってみます。「高血圧による弊害を回避するにはどうすべきか?」という論点を共有した次の段階で,「家庭血圧計を購入してください」といきなり切り出されると,多くの患者は困惑するのではないでしょうか。その提言そのものには比較的妥当性があり,また対策としても論点に沿ったものではあるのですが,いささか唐突な助言と思われても仕方がありません。なぜでしょうか。確かに論点に沿った...

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