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第2778号 2008年4月17日


看護のアジェンダ
 看護・医療界の“いま”を見つめ直し,読み解き,
 未来に向けたアジェンダ(検討課題)を提示します。
〈第40回〉
訪問看護の復権

井部俊子
聖路加看護大学学長


前回よりつづく

 第50回社会保障審議会介護給付費分科会(分科会長=東大名誉教授・大森彌,2008年3月25日開催)では,「介護保険制度導入後,在宅介護サービスとの競合の中でかえって伸びにかげりが見られるとされる訪問看護ステーションの復権」(尾形,2008)について検討された。介護給付費分科会ではたびたび訪問看護ステーションの伸び悩みが問題にされ,「これではこれからの在宅医療を支えていくことができない」という発言もあった。日本看護協会副会長として分科会に出席している私にとって,訪問看護ステーションが社会システムとして認知され,機能していくための体制をどのように確立していったらよいのかが最大のテーマである。

伸び悩む訪問看護事業

 分科会ではまず,厚生労働省老健局が準備した資料を用いて,訪問看護事業に関わる基本事項が説明された。

 2015年には第一次ベビーブーム世代が高齢者となり,自宅死亡が1.5倍増と仮定されるため,介護施設が現行の2倍整備されるなど多様な居住の場での在宅ケアと看取りの充実が鍵となる。また,今後は首都圏域の人口密集地域で高齢化が加速し,そのトップ3が,埼玉県(増加率80%)・神奈川県(60%)・東京都(38%)である。都道府県別にみた高齢者人口10万人当たりの訪問看護利用者数には4倍以上の開きがあり,最多は長野県,最少は香川県。訪問看護利用率が高い都道府県では在宅で死亡する者の割合が高いという(相関係数α=0.57)。

 訪問看護の市場は介護費全体の約2%(1300億円程度)であり,国民医療費全体の約0.1%(320億円程度)と,シェアが非常に小さい。訪問看護受給者数は2006年夏以降減少に転じている。訪問看護ステーション数は増加しているが,病院・診療所による訪問看護事業所数は減少しているため,訪問看護請求事業所総数は2003年6月以降減少している。2006年4月診療報酬改定で「訪問看護計画において,理学療法士等の訪問が保健師又は看護師による訪問の数を上回るような設定がなされることは適当ではない」とされたことから,2006年9月以降,PT・OT・STによる訪問看護は減少した一方,訪問リハビリテーションが大きく伸展している(訪問看護と訪問リハビリテーションの合計回数は横ばい)。そのほか,短時間の訪問看護は緩やかな増加傾向にあること,サテライトステーションの設置数割合の平均は3.8%(2005年)であり都道府県別のばらつきが大きいことなども説明された。

 では,就業者はどうか。就業看護職員総数は過去10年で3割程度伸び,全国で130.8万人が働いているが,訪問看護ステーションに就業する看護職員はわずか2%しかいない。就職を希望する学生のうち約2割は訪問看護事業者等への就業を望んでいるが,実際には新卒者の約8割が大学附属病院等の医療機関に就業している。2002年末現在の免許保持者数(176万6981人)から就業者数(121万7198人)を引くと,およそ55万人の潜在看護職員数がいると推計されることも付記された。

ビジネスモデル構築の必要性

 続いて,訪問看護の活性化対策について全国訪問看護事業協会副会長・伊藤雅治氏のプレゼンテーションが行われた。(貴重なデータが提示されたが,本稿では結論の部分を報告する。)

訪問看護ステーションの現状
・訪問看護ステーション設置数 約5480か所
・一訪問看護ステーションの看護職員数平均4.2人
・1件あたりの所要時間 平均123分
・利用者数 28万人程度
・介護保険におけるシェア 1270億円
・医療保険におけるシェア 390億円
経営に関する諸課題
・規模が小さく安定的な事業運営が困難
・全国的に事業所が偏在・不足
・マンパワー不足で新規利用者の受け入れが困難(人材不足により約4割のステーションが「訪問看護の利用依頼を断ったことがある」と回答している)
・報酬設定が低く採算が合わない
・診療報酬上,評価されていない内容が多い
・記録・請求事務が繁雑で業務に支障がある
・訪問看護サービスの内容・価値のPR不足

 そして,「10年後の2018年に向けて」青写真が提示される。「国民が最期まで安心して療養生活を送れるよう,24時間365日にわたり療養生活と在宅看取りの支援が可能な安定的なサービス供給を実現する」(訪問看護のミッション)ことをめざし,在宅死亡者割合を15%から25%に,訪問看護利用者割合を17%から50%に引き上げる。また,現在の訪問看護ステーションの大規模化・中規模化による安定的な24時間サービス提供基盤の整備を目標とした,日本看護協会,日本訪問看護振興財団,全国訪問看護事業協会の3団体共同提案がアクションプランとともに提示された(表)。

 訪問看護の活性化に向けたアクションプラン
  利用者把握の適正化 提供体制の確立とサービス質向上 事業経営の安定化
訪問看護業界 ・需要予測方法の確立
・需要把握方法の確立
・訪問看護イメージアップ戦略
・病院の退院調整機能の強化
・在宅療養支援診療所との連携強化
・ナースセンター機能強化(訪問看護への新人や再就職者の積極的採用)
・研修の充実と強化:訪問看護師の新卒/継続教育の支援
・訪問看護の機能(在宅移行,ターミナル)拡充
・ステーション管理者強化/支援
・コモンシステムの確立:訪問看護の周辺業務コモンシステム化による効率化の検討,試行,設置支援
・経営戦略コンサル
・事業規模拡大/複合化
・他職種の連携強化
・ステーション管理者強化/支援
行政 ・地域の在宅ケア需要予測方法の確立
・医療計画上の扱いの明確化
・事業所の整備支援
・退院調整機能の強化
・看護師確保策の推進
・看護師需給見通しにおける訪問看護の扱いの明確化
・僻地等での事業所の経営支援(移動の評価)
・コモンシステム設置/拡大支援
・記録/請求業務の簡素化
・衛生材料供給システムの改善
社会 ・在宅医療/訪問看護の普及啓発 ・民間企業の訪問看護への参入 ・IT業界/事務請負業者による参入
日本看護協会,日本訪問看護振興財団,全国訪問看護事業協会 共同提案(2008)

 訪問看護ステーションのビジネスモデルの構築が必要であると,スターバックスの進出をみるたびに私は考える。

つづく

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