医学界新聞

連載

2008.05.26



看護のアジェンダ
 看護・医療界の“いま”を見つめ直し,読み解き,
 未来に向けたアジェンダ(検討課題)を提示します。
〈第41回〉
「看護」の語り方

井部俊子
聖路加看護大学学長


前回よりつづく

 米国のジャーナリストであるスザンヌ・ゴードンは,『沈黙から発言へ』(早野真佐子訳,日本看護協会出版会,2002)のなかで,看護が社会的に広く認識されないのは,「非可視性」と「可視性」の問題ではなく,「沈黙」と「発言」の問題であると指摘した。このことを再び反すうすることになったのは,ある会合での体験であった。

看護の本丸を伝える

 病院における看護師の働きがいかに優れたものであるか,看護の機能が高度医療のなかでいかに拡大していくことが可能かといった主張と討議が活発に行われたその会合は,看護職以外の参加者に看護を「可視化」するための「発言」を必要としていると,私は強く思った。看護の役割拡大の主張は重要であり,看護師が自律して判断し実践をすることができる領域を示すことは理にかなっている。そのことを否定するつもりは毛頭ないのであるが,看護界から対外的にメッセージを伝えようとする際には看護の本丸を省略しないで言及することが必要なのだ。

 しかし,われわれ看護職は,看護の本丸はからだで知っているがゆえに,その部分を省略する傾向があることを自戒をこめて実感した。看護の本丸を置き去りにして外堀の拡張だけを願っているような誤解を招かないようにしなければならない。会合に出席している日本のジャーナリストや,看護師の活動を高く評価している病院管理者にも,看護の本丸とは何かを伝えておく必要がある。

「まとまった記述」と「ケアのタペストリー」

 わが国の看護の基本となる法令は保健師助産師看護師法である。保健師は「保健指導に従事することを業」とし(第二条),助産師は,「助産又は妊婦,じょく婦若しくは新生児の保健指導を行うことを業」とし(第三条),看護師は,「傷病者若しくはじょく婦に対する療養上の世話又は診療の補助を行うことを業」としている(第五条)。

 国際看護師協会(2002年,簡約版)は,「看護とは,あらゆる場であらゆる年代の個人および家族,集団,コミュニティを対象に,対象がどのような健康状態であっても,独自にまたは他と協働して行われるケアの総体である。看護には,健康増進および疾病予防,病気や障害...

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