- HOME
- 医学界新聞プラス
- 医学界新聞プラス記事一覧
- 2026年
- 医学界新聞プラス [第1回]失禁から皮膚を守ろう①
- 看護
医学界新聞プラス
[第1回]失禁から皮膚を守ろう①
写真を見て・解いて・わかる皮膚排泄ケア「WOCドリル」失禁編
連載 間宮直子
2026.11.04
本連載では,皮膚・排泄ケア認定看護師(WOCN)としてケアの技術・知見を地域の施設に共有するアウトリーチ活動を続けてきた筆者が,皮膚・排泄ケアで間違いやすいポイントを中心に,適切なケアをドリル形式で解説していきます。豊富な事例写真とともに皮膚・排泄ケアの要点を学べる,臨床看護師必見の連載です。
WOCドリルを担当するマミヤです。私は皮膚・排泄ケア認定看護師(WOCN)として,WOCNが在籍していない施設へケアの技術・知見を共有してきました。こうした経験を通して得たことを基に,皮膚・排泄ケアで間違いやすいポイントを中心に,適切なケアをドリル形式で解説していきます。
一緒に学習する臨床3年目看護師のさくらです。私が所属する病院にはWOCNはおらず,学生時代に学んだ方法や,代々引き継がれてきた病院独自の方法で皮膚・排泄ケアを行っています。患者さんのことを想うと,本当にこの方法で正しいのか自信がありません……。
今回から失禁ケアについて学んでいくのですね。失禁による皮膚トラブルはよく見かけますが,褥瘡との違いなど,ときどき判断に迷うこともあります。
まずは失禁で起こる皮膚トラブルの見方から,しっかり学びたいです。
失禁ケアでは,皮膚に起きている変化を正しく見極めることが大切です。それでは,失禁関連皮膚炎(incontinence-associated dermatitis:IAD)と,それによく似た皮膚症状との違いから学んでみましょう。創傷編でも簡単に紹介していますが,IADについて解説しますね。
IADは,尿または便,あるいはその両方が皮膚に接触することによって生じる皮膚炎です。尿や便が繰り返し接触すると,過剰な水分による浸軟や皮膚表面のpHの変化などによって皮膚のバリア機能が低下します。特に便に含まれる消化酵素は皮膚への刺激となり,さらに洗浄や清拭による摩擦が加わることで,皮膚障害が生じやすくなります。
ということは,IADはおむつ内に発生しているトラブルということですね。
そうなりますね。肛門周囲,会陰部,殿裂部,殿部,鼠径部など,尿や便が接触する部位にIADは発生します。主な皮膚症状は紅斑,浸軟,びらんなどで,疼痛や灼熱感,そう痒を伴うこともあります。また,皮膚障害が広範囲に及ぶ場合や,複数の部位に認められる場合もあります。
問題 : 失禁関連皮膚炎(IAD)はどれ?
殿部に発生している皮膚のトラブルです。IADはどれでしょうか。
① 尾骨の浅い損傷と仙骨部の紅斑
② 仙骨から尾骨周辺にかけての紅斑
③ 仙骨部と左殿部のまとまった小さなびらん
④ 殿部広範囲の紅斑
解説
① 尾骨の浅い損傷と仙骨部の紅斑
☞ ×
これは褥瘡です
仙骨部には紅斑が認められ,透明なプラスチック板で圧迫しても消退しない発赤が確認できることから(写真1),d1(創傷編第4回表 DESIGN-R®を参照)の褥瘡と判断できます。仙骨部は,おむつ内のインナーパッドがよれたことによる圧迫,尾骨部の損傷は浸軟のある皮膚にずれが加わったことでd2の褥瘡が発生したと推察されました。
ケアのポイント 寝衣やシーツのしわ,正しいおむつの装着による除圧,さらにベッド上でのずれを軽減するポジショニングが重要です。今回,肛門に近いd2の褥瘡は,滲出液が少なかったため撥水性のクリームを塗布し,早めのパッド交換をして上皮化しました。
② 仙骨から尾骨周辺にかけての紅斑
☞ ×
反応性充血です
透明なプラスチック板で圧迫すると発赤が消退(白く変化)することから,褥瘡ではなく反応性充血と判断できます(写真2)。発生要因として,ベッド上の便器挿入による広範囲の圧迫が推察されました。この反応性充血は,圧迫によって一時的に血流が減少し,圧迫解除後に血流が増加することで生じます。
ケアのポイント 褥瘡と同様,原因を見極めその原因を排除します。便器の使用時間や挿入方法を見直し,圧迫を軽減するとともに,発赤が消退するか継続して観察することが必要となります。
➂ 仙骨部と左殿部のまとまった小さなびらん
☞ ×
ヘルペス性の皮膚病変です
仙骨部から左殿部にかけて,小さなびらんがまとまって認められます。実は左大腿部にも同様の皮疹があり,帯状疱疹と診断されました。これは水痘・帯状疱疹ウイルスの再活性化によって生じ,神経の走行に沿って片側性に紅斑や小水疱が出現します。この症例では水疱が破れてびらんを形成し,治癒に向かっている状態と考えられます。
ケアのポイント 発症早期の活動期には抗ウイルス薬による治療を行います。 患部を清潔に保ち,摩擦や刺激を避けて皮膚を保護するとともに,すべての病変が痂皮化するまでは適切な感染対策を行います。また,疼痛の有無や皮膚の治癒経過を観察することが重要です。
④ 殿部広範囲の紅斑
☞ 〇
IAD です
殿部から会陰部にかけて,おむつが接触する範囲に一致して広範囲の紅斑が認められます。接触皮膚炎も疑いましたが,吸収許容量を超えたおむつが長時間接触していたことから,尿や便の刺激が持続したことで生じたIADと考えられました。
また,鼠径部には真菌症を疑う丘疹が認められました。IADによる皮膚のバリア機能低下や湿潤環境は,皮膚カンジダ症の併発につながります。紅斑周囲に小丘疹や小膿疱が散在する場合は,真菌症も疑い,必要に応じて真菌検査を行います。
ケアのポイント おむつの種類や交換間隔を見直し,排泄物との接触時間を短縮します。摩擦を避けた洗浄と皮膚保護剤によるスキンケアを行い,真菌症を合併している場合は,医師の診断のもと抗真菌薬による治療も必要です。
答え: ④殿部広範囲の紅斑
IADを見分けるには,皮膚の状態だけでなく,尿や便への曝露,圧迫・ずれ,感染の可能性などを確認することが大切です。これらの情報を組み合わせることで,IADなのか,褥瘡なのか,あるいは複数の要因が関与しているのかが見えてきます(表)。
今回,褥瘡と反応性充血の鑑別に使っていた,透明なプラスチック板で発赤部分を圧迫する「ガラス板圧診法」について,もう少し教えてください。
透明なガラス板だけでなく,紅斑部を指で軽く圧迫しても確認できます(指押し法:写真3)。紅斑部が白くなれば反応性充血,消退しなければd1の褥瘡を疑います。ただし,圧迫やずれの状況も確認する必要があります。
なるほど。でも,褥瘡の発生には失禁が関係していることも多いですよね。
IADと褥瘡が同時に発生することもあるのでしょうか?
もちろんです。失禁によって皮膚が浸軟すると,摩擦やずれによる損傷を受けやすくなります。また,IADと褥瘡が同じ部位に併存することも少なくありません。ですから,「圧迫・ずれ」と「尿・便」による刺激の両方を考える必要があります。
そうすると,皮膚障害を見分けるだけでなく,複数の原因が重なっていないかを考えることも必要なのですね。ケアも違ってくるのでしょうか。
褥瘡では除圧やずれの軽減,IADでは排泄物の接触時間を短くすることや皮膚の洗浄・保護が基本です。両方が関与していれば,それぞれの原因に対応するケアが必要になります。
ところで,IADの「皮膚障害の程度」を客観的に評価する方法はあるのでしょうか?
IADの皮膚状態をスコア化できる「IAD重症度評価スケール(IAD-set)」があります。具体的な評価方法は,また別の機会に一緒に学びましょう。今回,大切にしてほしいのは,皮膚障害を見分けるだけで終わらず,「なぜ生じたのか」を考えることです。発生要因がわかれば,必要なケアも見えてきます。
これからも一緒に失禁ケアを学んでいきましょう!
今回のポイント
✓ おむつ内の紅斑や皮膚障害が全てIADとは限らない
✓ 皮膚の状態だけでなく,尿・便への曝露状況も確認する
✓ IADと褥瘡は併存するため,複数の発生要因を考える
✓ 皮膚障害の発生要因を見極め,適切なケアにつなげる
参考文献
1)日本創傷・オストミー・失禁管理学会 編:『IADベストプラクティス』.照林社.2019.

間宮 直子(まみや・なおこ)氏 大阪府済生会吹田病院 特定認定看護師室 室長 / 皮膚・排泄ケア認定看護師
1997年に大阪府済生会吹田病院に入職。皮膚・排泄領域のケアを専門とし,04年に皮膚・排泄ケア認定看護師資格を取得する。その後,16年に創傷管理関連の特定行為研修修了,17年に滋慶医療科学大大学院医療安全管理学修士課程修了。11年より同院副看護部長,26年より現職。
「高度な急性期病院でありつつ、医療・介護をトータルに支える地域密着型の病院機能も担う“二刀流の病院”を目指す」という病院のミッションの下,同じ医療法人グループの中にある高齢者施設,訪問看護のみならず多くの施設・機関にアウトリーチ活動を行っている。
所属学会は,日本創傷・オストミー・失禁管理学会(評議員),日本褥瘡学会(評議員・褥瘡認定師) ,日本フットケア・足病医学会(評議員・治療認定師),日本認知症ケア学会(認知症ケア専門士) ほか。
タグキーワード
いま話題の記事
-
データから見る研修医の至適な労働環境
基本的臨床能力評価試験(GM-ITE®)に基づくエビデンス・レビュー寄稿 2026.11.03
-
VExUS:輸液耐性が注目される今だからこそ一歩先のPOCUSを
寄稿 2025.05.13
-
ピットフォールにハマらないER診療の勘どころ
[第22回] 高カリウム血症を制するための4つのMission連載 2024.03.11
-
取材記事 2026.10.20
-
医学界新聞プラス
[第4回]DESIGN-R®2020を使ってみよう①
写真を見て・解いて・わかる皮膚排泄ケア「WOCドリル」創傷編連載 2025.09.03
最新の記事
-
データから見る研修医の至適な労働環境
基本的臨床能力評価試験(GM-ITE®)に基づくエビデンス・レビュー寄稿 2026.11.03
-
寄稿 2026.11.03
-
「考えて動ける」看護師をどう育てるか
救急現場の教育と組織づくり対談・座談会 2026.10.27
-
産後うつを未然に防ぐには
周産期メンタルヘルス支援の最前線
村上寛氏に聞くインタビュー 2026.10.27
-
MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
2026年10月27日公開分書評 2026.10.27
開く
医学書院IDの登録設定により、
更新通知をメールで受け取れます。