医学界新聞

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寄稿 矢島知治

2026.11.03 医学界新聞:第3590号より

 医学生の臨床実習は,見学型から診療参加型に,専ら大学病院で行う形式から学外実習を含むスタイルに変わりつつあります。しかしながら,学外施設における診療参加型臨床実習の内容については,派遣元の大学も,受け入れ側の医療機関も手探りということが少なくありません。そうした中で本学は,診療参加型臨床実習に充てる6ターム(4週間を1タームとし,5年次,6年次にそれぞれ3タームを課す)のうち付属病院での実習は2タームにとどめ,残り4タームを長期学外臨床実習,うち少なくとも1タームを遠方(現居住地から通うことのできない地域)での宿泊を伴う実習とすることを学生に求めています。本稿では,本学が学外実習の拡充に注力してきた経験を踏まえて,医学生の学外実習を効果的に実践していくためのポイントを紹介します。

 診療参加型臨床実習は,医学生が診療チームの一員として参加し,指導医からのフィードバックを通じて臨床基本技能を取得していくことをめざしています。「診療参加」という言葉からイメージされがちなのは採血や縫合などの「手技」に重きを置いた実習かと思います。けれども手技は研修医になってから習得しても遅くありません。本学では,研修医として多忙な日々を送るようになると習得が難しくなる「医師としての頭の使い方」の鍛錬こそが最重要テーマであるととらえ,「手技は診療参加型臨床実習の必須メニューではない」との立場を取っています。もちろん,医学部の臨床実習において実施可能な医行為についてまとめた研究報告書(いわゆる門田レポート)には医学生のうちに経験すべき手技がさまざまに列記されていますが,実習を担う指導医の判断によって学生がさせてもらえ得る手技の「上限」として,本学ではそれらの手技を位置付けました。

 具体的には,on the job trainingを通じ,診療チームの一員として問診や身体診察といった患者さんからの情報収集,カルテ記載やプレゼンテーションなどの情報共有技能の習得に重点を置いた実習としています。患者さん一人ひとりに対して最善策が模索される実臨床で役割を担うことにより,学生自身が患者さんにとっての最善の医療を希求する姿勢と考え方(EBM)の習得も重要な学習事項です。

 内科系の診療科における実習ではこのコンセプトがほぼ当てはまりますが,手術見学が実習において重要な位置を占める外科系診療科ではアレンジが必要です。それでも「医師としての頭の使い方」が学びの最重要事項となります。診療方針(術式を含む)の決定プロセス,耐術能や術後経過の評価方法などを理解しながら自分のものにしていくということです。診療参加という点では,朝一番で担当の術後患者さんのもとへ赴き,看護記録,ドレーン内容物などの確認とともに医療面接と身体診察によって必要な情報を収集し,それに対する解釈とともに指導医に上申する,というのが期待される実習メニューになります。

 内科系,外科系いずれの場合であっても,診療参加型臨床実習における伸びしろを規定するのは指導医の先生からのフィードバックです。学生が学びを深めるためにも,受け入れ側の施設の先生方には,フィードバックの機会を可能な限り多く用意していただけますと幸いです。

診療参加型臨床実習は,「医師としての頭の使い方」を鍛錬するために臨床現場で行うon the job trainingです。実践とフィードバックによって学生は大きく成長します。


 依頼は,メールや手紙で行うことがほとんどです。打診時の冒頭で必ず記載するのは,あえて学外実習を行うことの意義です。大学病院では大学病院ならではの医療が展開されているので,学びの場を限定してしまうと内容が偏ってしまう恐れがあります。それを回避するには学外実習が必要であること,そして地方の施設や診療所,在宅診療クリニックにはそうした施設ならではの重要な学びがあることをお伝えしています。

 それでも意図が伝わりにくい状況もありましたので,マニュアルとも呼べる20頁弱の「指導の手引き」を2025年に作成し,「問診,身体診察,カルテ記載,プレゼンテーション,EBMの実践,プロフェッショナリズムの6項目を卒後臨床研修開始に支障のないレベルに到達させる」という目指すべきゴールと,そのために指導いただきたい内容と指導法を明記しました。

 手引きの中には,ロールモデルとなる指導医と一期一会の出会いをすることにも大学として重きを置いている旨を記載しています。実際のところ,地方の実習を必須としてから地方の病院の初期臨床研修医になる者が卒業生の3割を占めるようになっているので,実習が学生のその後の人生に及ぼす影響は小さくなさそうです。

学外施設ならではの学びの重要性と求める指導内容を明記した文書で依頼しています。

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 本学の付属病院における実習でも評価を厳格に行っているものの,それでも学外施設で新たに態度不良を指摘される学生がいます。多くの学生がいる大学病院よりも学生が1人しかいない学外施設のほうが,学生の態度不良が顕在化しやすいのでしょう。態度不良な学生が,そのまま進級あるいは卒業ということがあってはならない,というのは医学教育に携わる方の共通認識のはずです。

 本学では,以前,学生の評価を「S,A,B,C,D」の5段階にしていました。最低評価であるDが下された学生は一人もいなかったものの,C評価が下された学生に対する指導医からのコメントには非常に厳しい言葉が並んでいました。留年に直結しかねないD評価をつけることのハードルの高さは想像に難くありません。そこで,評価を「5,4,3,2,1」の5段階に変更し,単一の施設の評価で留年とはせず,「単位取得の可否は3タームにわたる臨床実習の評価点の平均が3以上か未満かで判定」することとしました。低評価がついても次タームで態度を改めれば挽回できるシステムによって,学生の態度改善を促すということです。レッドカードでなくイエローカードというイメージとも言えます。この新システムを周知することで,1あるいは2といった評価を受ける学生が毎年3人程度現れるようになりました。

 特筆すべきはその後の経過です。低評価を受けた学生は今のところ例外なく次タームから4以上の高評価を受けているので態度改善が達成できていそうです。本学の卒業生の3割は付属病院の研修医になりますが,臨床実習の評価システムを変更してからは研修医の問題行動が目立たなくなっているので,厳格な評価に基づく学生時代の態度改善が卒業後も継続しているということにもなりそうです。

厳格な評価によって「態度改善なくしては卒業がかなわない」との状況を作り出すことで,学生の態度改善を強力に促しています。

学外ならではの学びと,学外ならではの評価を含む診療参加型臨床実習をカリキュラムの重要な構成要素として位置付けて学外施設の先生方のお力添えを賜ることが,本学の使命である「良き医師」の育成に欠かせない,というのが日々感じていることです。


杏林大学医学部医学教育学 教授

1992年慶大医学部卒。2004年より同大消化器内科で学生教育を担当し,05~11年まで7年連続で同大医学部Best Teacher Awardを受賞。15年に杏林大医学部医学教育学准教授に就任し,20年より現職。既成概念にとらわれない教育の開発を信条としている。

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