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写真を見て・解いて・わかる皮膚排泄ケア「WOCドリル」創傷編

連載 間宮直子

2025.06.25

医学界新聞プラスにおける,臨床看護師向けの連載『写真を見て・解いて・わかる皮膚排泄ケア 「WOC」ドリル』では,皮膚・排泄ケアが求められる事例に直面した際の対応を解説していきます。

第一弾は創傷編!今後,ストーマ編,失禁編も展開していきます!!

Example ImageWOCドリルを担当するマミヤです。私は皮膚・排泄ケア認定看護師(WOCN)として,WOCNが在籍していない施設へケアの技術・知見を共有してきました。こうした経験を通して得たことを基に,皮膚・排泄ケアで間違いやすいポイントを中心に,適切なケアをドリル形式で解説していきます。
Example Image一緒に学習する臨床3年目看護師のさくらです。私が所属する病院にはWOCNはおらず,学生時代に学んだ方法や,代々引き継がれてきた病院独自の方法で皮膚・排泄ケアを行っています。患者さんのことを想うと,本当にこの方法で正しいのか自信がありません……。

Example Imageどの創傷かを見極めることがまずは大事なのは理解しているのですが,どれも同じように見えてしまいます…。

褥瘡を含む創傷ケアにおいて,正しい処置を行い創傷が軽快しても,すぐに悪化や再発することってありませんか。

こうしたことを予防するには,発生した原因を把握し,それらを排除するなどのケア計画を立てなければなりません。そのためにも,まずは創傷を知ることが必要です。まずは,「創傷の種類」を理解しましょう。そこで第1回では,さまざまな創傷の定義を学びながら,「褥瘡」を探してみましょう。

問題 褥瘡はどれ?

Example Imageこれらのなかから,「褥瘡」という創傷を探すわけですね。
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①殿部にできた発赤
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②左前腕にできた裂傷
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③下腿内側にできた潰瘍
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④左大転子部にできた潰瘍

解説

Example Imageでは,それぞれの創傷について解説していきましょう。
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水様便が数日間続き,おむつ汚染がありましたので,これは「失禁関連皮膚炎」(Incontinence Associated Dermatitis:IAD)です。
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尿または便(あるいは両方)が皮膚に接触することにより生じる皮膚炎をIADと呼びます。
この場合の皮膚炎とは,皮膚の局所に炎症が存在することを示す広義の概念であり,その中に,いわゆる狭義の湿疹・皮膚炎群(おむつ皮膚炎)やアレルギー性接触皮膚炎,物理化学的皮膚障害,皮膚表在性真菌感染症も包括します1)

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菲薄した皮膚の高齢者が,転倒して強く左前腕をぶつけたときに発生したものなので, これは「スキン-テア」です。
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摩擦・ずれによって,皮膚が裂けて生じる真皮深層までの損傷(部分層損傷)をスキン-テア(皮膚裂傷)といいます。なお、外力が関係する天疱瘡,先天性表皮水疱症等の創傷については,疾患に由来するものと判断しがたいものの,スキン-テアに含めるとされています2)
スキン-テアが生じやすい具体的な場面としては,絆創膏を剥がすとき,車いす等の移動介助時にフレームで擦れたとき,体位変換時に身体を支持したときなどです。高齢者の四肢に発生しやすい外傷性創傷であるともいえます。

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下肢のむくみが強くなったときに発生しました。周囲皮膚の色素沈着があることから、,これは「静脈性潰瘍」です。
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静脈性潰瘍は,下肢静脈圧が高い状態で慢性的に維持されることによって生じる潰瘍です。下腿静脈瘤や深部静脈血栓症が主な基礎疾患ともいわれています。また,肥満や高身長,中年女性や立ち仕事の職種に多いのも特徴です。
潰瘍は下腿下3分の1の内側に好発するといわれていますが,足背や下腿外側にも形成し,広範囲になることもあります。症状としては皮膚の変色や痒みが見られます。潰瘍に感染を伴うと痛みが出てくることがあり,周囲皮膚は色素沈着、肥厚、硬化を認めます3)

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この創傷が「褥瘡」です。

この方は85歳男性,独居です。左向きの状態で数日間動けなかったようです。肺炎と脱水で救急搬送され,低栄養も著しく入院となりました。この褥瘡の原因は左大転子という骨突出部位への「長時間の圧迫」によって生じた組織の虚血,すなわち阻血性障害が原因です。そこに,長時間倒れていたことによる下着の汚染や熱発・発汗による皮膚の浸軟(湿潤),脱水による阻血や低栄養も誘因になったと考えられます。

答え ④左大転子部にできた潰瘍

Example Imageなるほど。まずは除圧ですよね。
Example Imageそうですね。ケア計画は,除圧だけでなく,皮膚の清潔や栄養の改善も考慮に入れて立てる必要があります。また,褥瘡処置は壊死組織を排除しながら感染を制御することが必要になります。外用薬としてはスルファジアジン銀(抗菌外用薬)などを使用して毎日経過をみるのがよいでしょう。

日本褥瘡学会の定義では,「身体に加わった外力は骨と皮膚表層の間の軟部組織の血流を低下,あるいは停止させる。この状況が一定時間持続されると組織不可逆的な阻血性障害に陥り褥瘡になる」とされています4)

しかし実際には単なる阻血だけにとどまりません。「圧迫」で微小血管が閉塞することによって起こる組織の阻血壊死(虚血壊死)だけでなく,組織が引っ張られるせん断力,すなわち「摩擦・ずれ」,皮膚の過度な「湿潤」による脆弱化などが複合的に関与するものと考えられています。

創傷には,さまざまな種類があります。創傷の原因(さらに要因)を把握し,それらを可能な限り排除するようにします。創傷の種類を知れば,ケア計画は立案しやすくなります。


参考文献

1)日本創傷・オストミー・失禁管理学会(編).IAD-setに基づくIAD予防と管理 IADベストプラクティス.照林社;2019.pp6-10.
2)日本創傷・オストミー・失禁管理学会(編).ベストプラクティス スキン-テア(皮膚裂傷)の予防と管理.照林社;2015.pp6-8.
3)大浦紀彦.下肢救済のための創傷治療とケア.照林社;2011.pp50-1.
4)日本褥瘡学会(編).褥瘡予防・管理ガイドライン.照林社;2009.pp18-9.

 

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済生会吹田病院副看護部長/皮膚・排泄ケア認定看護師

 1997年に大阪府済生会吹田病院に入職。皮膚・排泄領域のケアを専門とし,04年に皮膚・排泄ケア認定看護師資格を取得する。その後,16年に創傷管理関連の特定行為研修修了,17年に滋慶医療科学大大学院医療安全管理学修士課程修了。11年より現職。
 「高度な急性期病院でありつつ、医療・介護をトータルに支える地域密着型の病院機能も担う“二刀流の病院”を目指す」という病院のミッションの下,同じ医療法人グループの中にある高齢者施設,訪問看護のみならず多くの施設・機関にアウトリーチ活動を行っている。
 所属学会は,日本創傷・オストミー・失禁管理学会(評議員),日本褥瘡学会(評議員・褥瘡認定師) ,日本フットケア・足病医学会(理事・学会認定師) ,日本認知症ケア学会(認知症ケア専門士) ほか。

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