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第76回日本東洋医学会学術総会の話題から

取材記事

2026.07.14

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●写真 会頭を務めた貝沼茂三郎氏

第76回日本東洋医学会学術総会が,富山大学の貝沼茂三郎会頭(写真)のもと,「東洋医学の発展――次世代への新たな挑戦」をテーマに,富山国際会議場(富山市),他で開催された。本紙では,貝沼氏による会頭講演「東西医学の二刀流が当たり前となる世界を目指して」の模様を報告する。


 

漢方に傾倒したきっかけであるC型慢性肝炎に対するインターフェロン療法と麻黄湯の併用療法の話題1~4)を導入に講演を始めた貝沼氏は,自身がこれまで臨床・研究の両輪で取り組んできた知見を交えながら,今後の東洋医学が推進すべき課題と展望を列挙した。

漢方医学的病態の客観化に向けた多角的アプローチ

「漢方を極める上で,漢方医学的な病態をいかに客観化していくかが非常に重要だ」と説く氏は,これまで取り組んできた客観的評価の成果を順に解説した。舌画像解析システム(Tongue Image Analyzing System:TIAS)を用いた研究では,舌中央部の赤み・黄色みが胃炎のリスクと,舌苔の黄色みが逆流性食道炎のリスクと相関することを示した5,6)。また,心拍変動のスペクトル解析を用いて心臓自律神経機能を半定量的に評価し,睡眠周期に関連するULF(超低周波)成分の変化が柴胡剤の有効性予測因子となる可能性を報告7,8)。さらに,生体インピーダンス法を用いた体成分分析により水毒を客観的に評価9)するなど,多角的なアプローチによる漢方医学的な病態の客観化の成果を示した。

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基礎研究から探る伝統的治療のメカニズム

優れた臨床は基礎研究に裏打ちされる。古典に基づく治療の実践として,氏は大黄の積極的な活用に言及した。O157などの感染性腸炎に対する大黄の有効性について,腸管出血性大腸菌感染症のマウスモデルを用いた研究を紹介10)。大黄が腸管粘膜への細菌付着量を減少させ,炎症を抑えて死亡率を下げるという結果に言及し,急性期における漢方薬投与の科学的意義を強調した。

「東西医学の二刀流」を実践できる医師の育成

漢方薬の処方医の裾野を広げるための卒前・卒後教育の重要性についても,講演の中で多くの時間が割かれた。富山大学では「富山大学医学部卒業の医師は,どの診療科でも漢方医学的な病態を考えて漢方処方ができる」ことを卒前教育の到達目標に,参加型の外来実習を徹底している。学生が主体的に診察・プレゼンを行い,指導医がフィードバックを繰り返す実践的なトレーニングや,双方向のアクティブラーニングによる症例検討会を導入しているという。一方で,全国的に見ると,臨床実習で学生が漢方診療に陪席する大学が少数に留まる現状があり,「座学だけでなく,臨床の現場で漢方的な考え方を涵養していく環境づくりが重要である」と氏は訴えた。

大規模臨床試験の実現に向けた挑戦

最後に,漢方医学が現代医療に定着するための最大の壁として,ランダム化比較試験の実施困難性を挙げた。貝沼氏は現状を打破すべく,軽度アルツハイマー型認知症に対する八味地黄丸の有効性と安全性を評価する多施設共同ランダム化比較試験の計画を発表。「誰かがこの壁を突破しなければ漢方の未来はない」と力説し,研究資金の調達のために岐阜県飛騨市と連携してふるさと納税の枠組みを活用したクラウドファンディングによる取り組みを紹介。参加している医療者に支援を強く呼び掛けた。「10年後には臨床医の過半数が漢方医学的診断に基づいて処方ができるシステムを構築し,その先には世界においても東西医学の二刀流が当たり前となることを目指したい」と今後の展望を語り,発表を締めくくった。


参考文献
1)Am J Chin Med.2002[PMID:12230024]
2)Phytomedicine.2002[PMID:12222653]
3)Phytomedicine.2004[PMID:14971716]
4)Hum Psychopharmacol.2004[PMID:15181651]
5)BMC Complement Altern Med.2015[PMID:26474972]
6)Kainuma M,et al.Objective tongue color and gastroesophageal reflux disease: Cross-sectional study.Traditional & Kampo Medicine.2019;6(1):19-25.
7)Circ J.2014[PMID:24989336]
8)Murakami A,et al.Heart rate variability as a predictor of the outcome of treatment with kampo medicines that include Bupleuri Radix (Saiko).Res Rev Pharm Sci.2016;5(4):1-8.
9)BMC Complement Altern Med.2016[PMID:27770788]
10)Microb Pathog.2013[PMID:24120399]