- HOME
- 医学界新聞プラス
- 医学界新聞プラス記事一覧
- 2025年
- 医学界新聞プラス [第2回]房室中隔欠損症(AVSD)(後編)
医学界新聞プラス
[第2回]房室中隔欠損症(AVSD)(後編)
『病態・類似疾患別 心エコー図検査のルーティン』より
連載 小谷 敦志
2025.07.25
病態・類似疾患別 心エコー図検査のルーティン
心エコー図検査で遭遇する類似疾患の鑑別を正しく行うため,ソノグラファー目線で企画した「臨床検査」誌66巻4号(2022年4月・増大号)が,パワーアップして単行本に生まれ変わりました。
心エコー図検査において,初学者が類似する疾患群を鑑別し診断することは困難ですが,疾患の病態を知っていれば,病変を特定できる場合があります。『病態・類似疾患別 心エコー図検査のルーティン』では,各項目ごとに病変の特徴と診断のポイント,心エコー図評価のための病態と分類,心エコー図検査の進め方,心エコー図所見の鉄板フレーズの順にまとめられており,心エコー図の評価・計測に即役立ちます。
「医学界新聞プラス」では,本書より「房室中隔欠損症(AVSD)」についてピックアップし,ご紹介します。
心エコー図検査の進め方
1.左右房室弁の高さ(共通房室接合の形態確認)
【評価断面】 胸骨左縁四腔断面,心尖部四腔断面,心窩部四腔断面
【評価時相】 房室弁閉鎖時が評価しやすい.
正常では左右の房室接合部は分離されており,三尖弁と僧帽弁の付着する高さが異なるが,AVSDでは共通房室接合の形態をとり,1つの共通房室弁であるため,左右の房室弁の高さが同じであることを確認する(図2a,c).
a:心尖部四腔断面.心房中隔一次孔欠損.Bモード法(左)とカラードプラ法(右)の同時相画像.欠損孔を通過する左房-右房短絡血流を観察する.また,scoopingの影響により,中隔に付着する房室弁が同じ高さにあることことがうかがえる.
b:胸骨左縁四腔断面(左房-右房短絡血流).Scoopingの影響により,中隔に付着する房室弁が同じ高さにあることことを確認する.
c:心尖部四腔断面(左側房室弁逆流).左側房室弁前尖にクレフトを認め,同部位から左室側に吸い込み血流(PISA)を形成する重度の左側房室弁逆流を観察する.心室中隔側にクレフトによる切れ込みがある.
d:胸骨左縁左室長軸断面.Scoopingによる長い左室流出路(goose neck sign)の存在と狭窄の有無を観察する.本例では左室流出路狭窄は認めない.
e:胸骨左縁左室短軸断面僧帽弁口レベル(左側房室弁逆流).Bモード法(左)とカラードプラ法(右)の同時相画像.Bモード法とカラードプラ法の同時相画像では,Bモード法でクレフトが確認できる.心室中隔側にクレフトによる切れ込みがある.
破線囲み:長い左室流出路,AVSD:atrio-ventricular septal defect(房室中隔欠損症),PISA:proximal isovelocity surface area,IAS:interatrial septum(心房中隔)
2.解剖学的分類の診断
【評価断面】 胸骨左縁四腔断面,心尖部四腔断面,胸骨左縁左室短軸断面大動脈弁口レベル近傍,心窩部四腔断面,心窩部矢状断面,胸骨右縁水平断面
【評価時相】 時相は問わない
完全型や中間型は無治療では長期生存は困難であり,成人で遭遇することはない.したがって,成人では不完全型や移行型がほとんどである.どちらも心房中隔一次孔欠損を有するため,心房中隔下方の房室弁直上に欠損孔が存在する.いずれもカラードプラ法をガイドに短絡血流を確認し,欠損部位を同定する.
3.欠損孔径の計測
【評価断面】 胸骨左縁四腔断面,心尖部四腔断面,心窩部四腔断面,胸骨右縁水平断面
【評価時相】 拡張早期が基本
心房中隔一次孔欠損の欠損孔径を計測する.欠損口径が最大に描出される心尖部四腔断面とそれに直交する断面の2断面以上でそれぞれの最大値を計測し,長径と短径とすることが望ましい.近年では一度に直交断面を記録できる超音波装置が登場し,アプローチしだいで簡単に対象部位の直交画像が記録できるようになった(図3).
心尖部四腔断面.左画像のカーソル部の直交断面が右側にリアルタイムで描出されている.カーソルは心房中隔一次孔欠損を捉えており,直交断面では長径と短径が計測可能である.
緑色破線:カーソル,黄色破線囲み:心房中隔一次孔欠損.
4.短絡血流方向の確認
【評価断面】 欠損孔径の計測に準じる.
【評価時相】 全周期で確認する.
ASDは,左房-右房短絡血流をカラードプラ法または血流波形で確認する.カラードプラ法を用いるため,エコービームと心房中隔に平行となる心尖部アプローチ(図2a)よりも,胸骨左縁四腔断面(図2b)や心窩部アプローチによる評価がよい.
5.左側房室弁(僧帽弁)の評価
【評価断面】 胸骨左縁左室長軸断面,胸骨左縁左室短軸断面僧帽弁口レベル,心尖部アプローチ(四腔断面,二腔断面,交連部断面,長軸断面)
【評価時相】 収縮期時相
クレフト由来の左側房室弁(僧帽弁)逆流は,カラードプラ法で弁尖先端から流出するように観察され,Bモード法でクレフトが観察できることが多い(図2e).このため,逆流面積は広く,左室側に吸い込み血流(proximal isovelocity surface area:PISA)が観察される場合が多い(図2c).同時に左側房室弁(僧帽弁)の心室中隔側にクレフトの切れ込みを有することを確認する.
6.房室弁付着下方偏位(scooping)の観察
【評価断面】 胸骨左縁左室長軸断面,心尖部長軸断面,胸骨左縁左室短軸断面左室流出路レベル,心窩部長軸断面
【評価時相】 特になし
左室流入路より左室流出路のほうが長い(血管造影ではgoose neck signと呼称)は,胸骨左縁左室長軸断面あるいは心尖部長軸断面で確認する.同時に左室流出路の狭小化も確認する.その際,カラードプラ法を併用し,左室流出路に加速血流(乱流や折り返し)がないか観察する.また,断層法での観察と左室流出路のドプラ血流波形を併せて記録することで,狭小化の程度を判定しやすい.
(小谷 敦志)
病態・類似疾患別心エコー図検査のルーティン[Web動画付]
心エコー図検査の計測項目・評価断面・評価時相・基準値を明記!
好評を博した『臨床検査』Vol.66 No.4(2022年4月・増大号)「計測する項目と記録断面がわかる! 病態別・類似疾患別心エコー検査のルーティン」の待望の書籍化! 異常のグレードがわかるweb動画158本を掲載、構造的心疾患(SHD)の経カテーテル治療後評価にも対応、心エコー図検査のレポート作成時に使える“鉄板フレーズ”を掲載し、より一層充実しました。心エコー図検査に必携の1冊です。
目次はこちらから
タグキーワード
いま話題の記事
-
医学界新聞プラス
[第1回]心エコーレポートの見方をざっくり教えてください
『循環器病棟の業務が全然わからないので、うし先生に聞いてみた。』より連載 2024.04.26
-
医学界新聞プラス
[第2回]アセトアミノフェン経口製剤(カロナールⓇ)は 空腹時に服薬することが可能か?
『医薬品情報のひきだし』より連載 2022.08.05
-
医学界新聞プラス
[第1回]ビタミンB1は救急外来でいつ,誰に,どれだけ投与するのか?
『救急外来,ここだけの話』より連載 2021.06.25
-
医学界新聞プラス
[第1回]PPI(プロトンポンプ阻害薬)の副作用で下痢が発現する理由は? 機序は?
『医薬品情報のひきだし』より連載 2022.07.29
-
医学界新聞プラス
[第3回]冠動脈造影でLADとLCX の区別がつきません……
『医学界新聞プラス 循環器病棟の業務が全然わからないので、うし先生に聞いてみた。』より連載 2024.05.10
最新の記事
-
対談・座談会 2025.07.08
-
対談・座談会 2025.07.08
-
地域の皮膚・排泄ケアの質向上を実現する
WOCナースのアウトリーチ活動を全国へ対談・座談会 2025.07.08
-
FUSという新たな疾患概念
多様な体型を肯定する社会をめざして
田村 好史氏に聞くインタビュー 2025.07.08
-
インタビュー 2025.07.08
開く
医学書院IDの登録設定により、
更新通知をメールで受け取れます。