日本高度実践看護学会が描く未来像
藤原 由佳氏に聞く
インタビュー 藤原 由佳
2025.12.09 医学界新聞:第3580号より
2025年4月,日本専門看護師協議会は名称変更し,日本高度実践看護学会として新たな一歩を踏み出した。医療の高度化や超高齢社会の進展に伴い,複雑化・多様化する健康課題に応える高度実践看護師の重要性は一層高まっており,今回の名称変更は近年の時代の流れを象徴しているとも言える。理事長に就任した藤原氏に,名称変更に至った背景や学会の今後の方向性について話を伺った。
職能団体から学術団体への転換
――日本専門看護師協議会から日本高度実践看護学会へと名称変更が行われました。名称変更が検討され始めたきっかけを教えてください。
藤原 専門看護師(Certified Nurse Specialist:CNS),診療看護師(Nurse Practitioner:NP)や特定行為研修修了者など,さまざまな資格を持つ看護師が増加してきたことを受け,高度実践看護師(Advanced Practice Nurse:APN)制度を検討するAPN推進制度委員会が日本看護系学会協議会内に立ち上がったことがきっかけの一つです。同委員会ではCNSに関する検討もなされるのですが,日本専門看護師協議会は学術団体ではなく職能団体であったために,日本看護系学会協議会の会員にはなれず,また委員会への参加の基本要件も満たせず,当初は意見聴取のみにとどまっていました。この委員会への参加要件を満たし,APN制度の議論に主体的にかかわることが名称変更の狙いの一つです。学術団体化に伴い,今後は高度実践看護を学術的に追求する研究も推進していきます。
――協議会内での名称変更の議論は円滑に進んだのでしょうか。
藤原 学術団体化に関しては比較的スムーズに理解を得られました。名称については「高度実践看護学会」にするのか,「専門看護師学会」にするのかで意見が割れたものの,CNSは資格名称であるため,学術・学問を追求する学会の名称には適当でないとの結論に落ち着き,「日本高度実践看護学会」という名称になったのです。協議会時代の会員はCNSの資格を有している人に絞られていましたが,名称変更後はCNSに限らず,NPをはじめとする高度実践看護師や育成にかかわる教育者,および高度実践看護に興味のある看護師など多くの方に門戸が開かれました。さまざまな視点から高度実践看護について学術的な議論が展開されていくことを期待しています。
高度実践看護学会ならではの価値を
――新しい体制の中で,新規会員と日本専門看護師協議会時代からの継続会員それぞれに対する学会独自の価値をどのようにとらえていますか。
藤原 高度実践看護を追及しつつ, CNSおよびNP両者に必要性を感じてもらえる学会活動が求められるはずです。臨床での実践を可視化したり,CNS・NP双方の実践の高度な部分はどこにあるのかを学術的に明確にしたりする場にしていきたいと考えています。異なる視点からディスカッションすることで,それぞれの資格単独では見えなかった知見が得られるはずです。アカデミックに高度実践看護を進化させられる点が本学会ならではの価値になると考えています。さらなる価値提供は今後より一層検討していきたいです。
――学会Webサイトでは研究活動を進め,国の政策にもアプローチしていくことも挙げられていましたね。
藤原 CNSもNPも現場で専門性を発揮していますが,日々の実践の効果を可視化することはあまり進んでいない印象があります。APNとしての実践の成果について論文化されているものは実践報告や事例報告が多く,症状緩和や合併症の減少など明確なアウトカムを基準とした論文は少ないのが現状であり,APNの意義が医療全体に伝わりきっていないととらえています。ハードルは高いですが,データを取って論文化していくことがこれから必要になるはずです。その蓄積でAPNが他の看護師と比較してより良いケアが行えていることを示せれば,政策への反映にもつながります。まずはAPNの意義に関するエビデンスづくりのための研究活動を積極的に行いたいです。
同じテーブルで高度実践看護を追求する
――2025年8月には第1回の学術集会が開催されました。参加者の反応はどうでしたか。
藤原 協議会時代の学術集会ではお会いできなかったNPの方とも話す機会がありましたが,「この形になってよかったね」と言っていただけることが多かったです。シンポジウムでもCNSとNP間で意見交換が盛んに行われ,縦割りだったCNSとNPを今回の名称変更でつなげられたように感じました。相互の交流を根付かせ当たり前の状態にしていけたらと思います。
――CNSとNPが共に考え,高度実践看護とは何かを追求していく組織体制がポイントになりそうですね。
藤原 その通りです。高度実践看護を共に追求する中で,APNとして共通して力を発揮する領域や,CNSあるいはNP独自で専門性を発揮する領域が明らかになっていくと思います。今のところAPNの意義がエビデンスをもとに明確に示せていない部分もあるので,CNSとNPにおける共通点やそれぞれが特化している点を議論することで,この学会が高度実践看護についてエビデンスを構築していく場になると,今年の学術集会で自分の中でもイメージがつきました。
――今後学会をどう発展させていきたいですか。
藤原 私個人のとらえ方ですが,CNSとNPでそれぞれの役割は大切にしながらも,分けて考えるのではなく,より良い高度実践看護は何なのかを一緒に探求していく学術的な場として発展させていきたいです。今回の名称変更に伴って「高度実践看護」というテーマの下,CNSとNPが同じテーブルで話をする場を作ることができました。やっとスタート地点に立てたと思っています。CNSであってもNPであっても,国民の健康に貢献するという最終的なゴールは一緒だと思います。手を取り合って同じ方向に進んでいける気がしています。
*
藤原 医療・ケアを取り巻く状況は複雑化し,人々の健康問題は個別化・多様化しています。このような時代だからこそ,個人,家族および多様な集団の保健医療アウトカムに影響を与えるAPNが必要とされています。人々の健康の維持・増進,QOLの向上に向けて取り組んでいければと思います。
(了)

藤原 由佳(ふじわら・ゆか)氏 一般社団法人日本高度実践看護学会 理事長
2005年にがん看護CNSの認定を受け,三木市立三木市民病院(当時)にてがん看護CNSとして活動後,2009年神戸大病院がん相談室(相談支援センター)で勤務する。同院副看護部長を経て,19年より看護部長に就任。任期満了後は地域を軸に活動を始め,現在は医療法人社団清水メディカルクリニックに在籍する。25年より現職。。
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