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『病態・類似疾患別心 エコー図検査のルーティン』より

連載 小谷 敦志

2025.07.18

 心エコー図検査で遭遇する類似疾患の鑑別を正しく行うため,ソノグラファー目線で企画した「臨床検査」誌66巻4号(2022年4月・増大号)が,パワーアップして単行本に生まれ変わりました。
 心エコー図検査において,初学者が類似する疾患群を鑑別し診断することは困難ですが,疾患の病態を知っていれば,病変を特定できる場合があります。『病態・類似疾患別 心エコー図検査のルーティン』では,各項目ごとに病変の特徴と診断のポイント,心エコー図評価のための病態と分類,心エコー図検査の進め方,心エコー図所見の鉄板フレーズの順にまとめられており,心エコー図の評価・計測に即役立ちます。
 「医学界新聞プラス」では,本書より「房室中隔欠損症(AVSD)」についてピックアップし,ご紹介します。

病変の特徴と診断のポイント1,2)

 房室中隔欠損症(atrio-ventricular septal defect:AVSD)は,心内膜床欠損(endocardial cushion defect:ECD)や共通房室弁口などと呼ばれてきたが,現在はAVSDに統一されている.房室弁の形態により完全型と不完全型に分類され,完全型のほうが不完全型よりも多い.ダウン症候群の約40%が先天性心疾患を合併し,それらのうち40%は完全型である.完全型は心室中隔欠損症(ventricular septal defect:VSD)と房室弁逆流,肺高血圧症などにより長期生存は困難であり,成人の心エコー図検査で初めて発見されるAVSDのほとんどは不完全型である.不完全型は,Ⅱ音の固定性分裂と心尖部の汎収縮期雑音を聴取する.心電図では刺激伝導路の欠損による心房粗細動,房室ブロックを認めるが,心房中隔欠損症(atrial septal defect:ASD)と異なり,左軸偏位を認めることが特徴である.心エコー図検査は,心房・心室間交通の部位,共通房室弁の詳細を把握できるため診断価値が高い.MRIでは心室容積および房室弁逆流の定量的評価が可能である.心内形態,肺血管抵抗(pulmonary vascular resistance:PVR)の評価の目的で心臓カテーテル検査が行われる.左室流入路より流出路が長い心室中隔流入部欠損による房室弁付着下方偏位(scooping)のため,左室造影ではgoose neck signがみられることが特徴である.

心エコー図評価のための病態と分類

心エコー図評価を意識した病態1~3)
 正常では,左右の房室接合部は分離され三尖弁と僧帽弁を有するが(図1a)4),AVSD(図1b,c)4)では,房室は1つの共通房室接合の形態をとり,僧帽弁と三尖弁が5つの弁葉によって形成された1つの共通房室弁である.不完全型では左側房室弁は裂隙(クレフト)を有し,房室弁逆流を生じる.房室弁が付着する房室中隔(房室膜性中隔および房室筋性中隔)*1 の組織欠損を伴うため,左房-右房短絡血流(シャント)を呈する.房室弁の形態により完全型と不完全型に分類される.完全型は心房中隔から心室中隔にまたがる大きな欠損のため例外なく肺高血圧症がみられ,共通の前尖と後尖が分離した共通房室弁を形成し,房室弁逆流を生じる.左室から左房,右室から右房への逆流がみられるうえ,共通房室弁を介して心房中隔を越える逆流が観察され,結果的に左室-右房短絡血流の一部となる.ほかの短絡疾患と同様に肺うっ血による呼吸器系の症状,体静脈系のうっ血などを生じ,心臓は著明に拡大する.不完全型は一次孔欠損のASDのため,右室の容量負荷と肺血流量の増加に加え,クレフトに伴う左側房室弁(僧帽弁)逆流は左房-右房の短絡血流となり,右房や右室の拡大である程度代償されるが,重度の逆流では左房の容量負荷や左心不全となる.

1-図1.JPG
図1 房室弁欠損の分類と形態

a:正常.房室弁は僧帽弁と三尖弁に分割され大動脈は両弁に楔入,乳頭筋は左前方と右後方に位置する.
b:完全型.弁輪・弁口ともに共通房室弁となり,5葉の弁尖となる.乳頭筋は前後に偏位し,大動脈は楔入せず前方に偏位する.
c:不完全型.共通前尖と共通後尖が線維性結合組織で連続,2弁口となる.クレフトが中隔側に向けてあり,乳頭筋は前後の位置に偏位,大動脈は楔入せず前方に偏位する.
MV:mitral valve(僧帽弁),TV:tricuspid valve(三尖弁),Ao:aorta(大動脈)
〔Suzuki K, et al:Morphometric analysis of atrioventricular septal defect with common valvar orifice. J Am Coll Cardiol 31:217,1998より作成〕

分類
 AVSDでは,共通房室弁を形成する完全型*2と,房室弁が左右に分かれた不完全型に分類される(図1)4).一方,房室弁口が1つの完全型に対して,房室弁口を2つ有する中間型,移行型,不完全型(部分型)の4分類とするものもある(表1)

スクリーンショット 2025-07-14 113106.png

表1 房室中隔欠損の分類
完全型は,前後の共通弁尖と左右の側方弁尖で構成される共通房室弁を有し,房室弁口(房室弁輪)数は1つでASDとVSDを有する.不完全型(部分型)は,心室中隔の頂上に付着した房室弁は左右2つに分かれ,左室側房室弁(僧帽弁)にクレフトによる逆流を生じる.ASDを認めるもののVSD(流入部欠損)はないことが多い.中間型,移行型は,房室弁口を2つと流入部欠損型VSDを有した不完全型に含まれる.
ASD:atrial septal defect(心房中隔欠損),VSD:ventricular septal defect(心室中隔欠損),RV:right ventricle(右室),RA:right atrium(右房),LV:left ventricle(左室),LA:left atrium(左房),RPV:right pulmonary vein(右肺静脈),LPV:left pulmonary vein(右肺静脈)

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 AVSDの特徴的な形態を以下に示す6~8)
①共通房室接合部形態をとり,左右の房室弁は同じ高さとなり両心室にまたがる5つの弁葉により形成された共通房室弁(図2a,b)
②心房中隔一次孔欠損(図2a,c)
③心室中隔流入部欠損(不完全型では認めない)
④房室弁付着下方偏位(scooping)*3
⑤左室流入路より左室流出路のほうが長い(goose neck sign)*3(図2d)
⑥左側乳頭筋の位置が逆時計方向に移動
⑦左側房室弁(僧帽弁)の心室中隔側にクレフトの切れ込みを有する(図2c,e)
⑧左室流出路の狭小化
 

1-図2.JPG
図2 AVSD不完全型の例

a:心尖部四腔断面.心房中隔一次孔欠損.Bモード法(左)とカラードプラ法(右)の同時相画像.欠損孔を通過する左房-右房短絡血流を観察する.また,scoopingの影響により,中隔に付着する房室弁が同じ高さにあることことがうかがえる.
b:胸骨左縁四腔断面(左房-右房短絡血流).Scoopingの影響により,中隔に付着する房室弁が同じ高さにあることことを確認する.
c:心尖部四腔断面(左側房室弁逆流).左側房室弁前尖にクレフトを認め,同部位から左室側に吸い込み血流(PISA)を形成する重度の左側房室弁逆流を観察する.心室中隔側にクレフトによる切れ込みがある.
d:胸骨左縁左室長軸断面.Scoopingによる長い左室流出路(goose neck sign)の存在と狭窄の有無を観察する.本例では左室流出路狭窄は認めない.
e:胸骨左縁左室短軸断面僧帽弁口レベル(左側房室弁逆流).Bモード法(左)とカラードプラ法(右)の同時相画像.Bモード法とカラードプラ法の同時相画像では,Bモード法でクレフトが確認できる.心室中隔側にクレフトによる切れ込みがある.
破線囲み:長い左室流出路,AVSD:atrio-ventricular septal defect(房室中隔欠損症),PISA:proximal isovelocity surface area,IAS:interatrial septum(心房中隔)


*1    房室中隔:正常では,僧帽弁と三尖弁中隔尖の心室中隔付着部位は,三尖弁中隔尖のほうがやや心尖部側に付着している.僧帽弁付着部と三尖弁中隔尖の付着部の中隔のことを房室中隔といい,左室と右房を隔てている.
*2    完全型に対するRastelli分類5):完全型は,心室中隔上に位置する弁の腱索の付着部位からRastelliらにより3つに分類される.
A型:共通前尖が左右に分かれている.
B型:A型とC型の中間型
C型:共通前尖が左右に分かれていない(左側が大きく右室側にまたがり,右側がきわめて小さい).前尖は心室中隔に付着しておらずfree-floatingである.
 A型が約65%,B型が35%,C型が5%の発生頻度で,C型の多くはダウン症候群である.
*3    scoopingとgoose neck sign7,8):房室弁付着下方偏位(scooping)によって流入部中隔欠損部は心尖部方向へ掘れ込んだ形態となり,心室中隔の流入部と心尖部間の短縮および心尖部と流出部間の延長(inlet/outlet disproportion)により,左室血管造影では左室流出路が長く観察されるgoose neck signとなる.その結果,左室房室弁共通前尖の突出により,左室流出路の狭小化が生じる.

文献

1)日本循環器学会,他:2015-2016年度活動 成人先天性心疾患診療ガイドライン(2017年改訂版),2018
    https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2017/08/JCS2017_ichida_h.pdf(最終アクセス:2024年8月1日)
2)日本循環器学会,他:2017-2018年度活動 先天性心疾患並びに小児期心疾患の診断検査と薬物療法ガイドライン(2018年改訂版),2019
    https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2020/02/JCS2018_Yasukochi.pdf(最終アクセス:2024年8月1日)
3)髙橋長裕:図解 先天性心疾患 血行動態の理解と外科治療 第2版,医学書院,2007
4)Suzuki K, et al:Morphometric analysis of atrioventricular septal defect with common valvar orifice. J Am Coll Cardiol 31:217,1998
5)Rastelli G, et al:Anatomic observations on complete form of persistent common atrioventricular canal with special reference to atrioventricular valves. Mayo Clin Proc 41:296-308,1966
6)Becker AE, et al:Atrioventricular septal defects: What’s in a name? J Thorac Cardiovasc Surg 83:461-469,1982
7)Wakai CS, et al:Pathologic study of persistent common atrioventricular canal. Am Heart J 56:779-794,1958
8)Blieden LC, et al:The “goose neck” of the endocardial cushion defect: anatomic basis. Chest 65:13-17,1974

(小谷 敦志)

 

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