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医学界新聞プラス
[第3回]陽性対照組織も検体組織も染色されない場合の考え方――抗体試薬の選択に問題がある
『免疫染色パーフェクトガイド[Web動画付]』より
柳田絵美衣
2023.11.24
免疫染色パーフェクトガイド[Web動画付]
正しく検体処理をしているはずなのにうまく染色されない――。このような際に染色工程のどこに問題があり,どう対応すれば改善するかをあなたはすぐ見抜けますか。新刊『免疫染色パーフェクトガイド[Web動画付]』では免疫染色の原理といった基本を押さえつつ,検体や機器などの取り扱いによる染色結果の違いや染色がうまくいかない原因と解決策について,豊富な写真や動画と共に解説しています。免疫染色を行う際に実際に“困った”シチュエーションごとに対応法を解説しているので,病理検査の現場で実践的に活用できる点が本書の特長です。
「医学界新聞プラス」では,「第Ⅰ章 知っておきたい免疫染色の原理」「第Ⅱ章 目でみる免疫染色良い例・悪い例」「第Ⅲ章 こんなときどうする? 免疫染色の“困った”を解決」の内容を一部抜粋し,全3回でご紹介します。
※本書は雑誌『検査と技術 46巻9号(2018年9月)増刊号 免疫染色クイックガイド』の内容を基に制作されています。
KEYWORD 抗体分子,抗体用途(IHC-P,IHC-F),抗体の選択,データシート,交差性,二次抗体の分子量
抗体の選択ミス
原理・原因
図1のように,抗体分子IgGは重いペプチド(H鎖:heavy chain)と軽いペプチド(L鎖:light chain)からなる.H鎖の約3/4,L鎖の約半分の構造は類似性が大きいが,残りの部分の構造は分子によって大きく違っている.この部分を可変部といい,この構造の違いが対応できる抗原の選択を担う.つまり,図2のように,可変部の構造と目的の抗原の抗原決定基(エピトープ)が合致すれば結合して抗原抗体反応を起こすが,一致しなければ結合できず抗原抗体反応は起こらない.免疫染色を実施しても,一次抗体が目的の抗原と結合できなければ染色は陰性となる.

抗体Xと抗体Yの可変部と目的の抗原の抗原決定基(エピトープ)のイメージ.

抗体Xの可変部と抗原のエピトープが一致するため,抗体Xと抗原は結合して抗原抗体反応を起こすことができる(上).一方,抗体Yの可変部と抗原のエピトープは不一致なため,抗体Yと抗原は抗原抗体反応を起こすことができない(下).
ミス回避のためのポイント
免疫染色を行う際は,目的の抗原に対応した一次抗体であるかを確認することが重要である.例えば,T細胞の局在を証明したいときは,抗CD3抗体を用いる.抗CD20抗体を使用してもT細胞は検出できない(T細胞に発現している蛋白はCD3であり,CD20はB細胞に発現している蛋白である).目的の細胞が発現している蛋白は何かを必ず確かめる必要がある.
用途(アプリケーション)違い
原理・原因
使用する抗体の濃度は,その抗体と目的の抗原との親和性や用途によって変動する.表1に示すように,抗体の種類と用途によって使用抗体の濃度に大きな差がある.免疫染色〔免疫組織化学(immunohistochemistry:IHC),免疫細胞化学(immunocytochemistry:ICC)〕は他の用途と比較すると,使用抗体の濃度が高いことがわかる.そのため,ウエスタンブロット(Western blot:WB)法用の抗体を用いても,濃度が低すぎて染色されないこともあるので注意が必要である.
EIA:enzyme immunoassay,ELISA:enzyme-linked immunosorbent assay,IP:immunoprecipitation.
ミス回避のためのポイント
一次抗体にはデータシートが添付されており,表2のような内容が記載されている.“用途”にIHCやICCの記載があるか確認しておくと,免疫染色で安心して使用することができる.また,IHC-Pはパラフィン切片の免疫染色,IHC-Frは凍結切片の免疫染色,IHC-Fはホルマリン個体検体の免疫染色として区別して記載されている場合もあるので,その場合は染色する検体がパラフィン切片なのか凍結切片なのかを確認して抗体を選択する.
メーカーや抗体の種類によって,データシートの記載内容に若干の差異はある.また,データシートに抗体の推奨濃度が記載されていない場合もある.抗体を選択する際は,データシートの内容もしっかり確認し,情報が詳細に記載されているものを選ぶと,実際の染色時の参考となる.データシートはインターネットでも確認できるものが多いので,抗体を購入する前にチェックしておくことをお勧めする.
一次抗体のデータシートに記載されている内容.メーカーや種類によって記載内容に差異がある.
ヒトと交差性のない一次抗体を使用している
原理・原因
ヒトの抗原と反応しない(交差性のない)一次抗体を用いた場合,図3の左図のようにエピトープが一次抗体の結合部位に適合できず,抗原抗体反応が起こらない.また,一次抗体が抗原に結合していなければ,二次抗体も結合できない.酵素抗体法の間接法では,酵素は二次抗体に標識されているため,二次抗体が結合できなければ発色剤を用いても発色することはない.

同じ蛋白(抗原A)であっても,動物種によってエピトープが異なる場合,その動物種に交差性のない抗体は抗原と結合できない.また,一次抗体がヒトと交差しても,その一次抗体の動物種に対する(二次)抗体でなければ結合できず,この場合も偽陰性となる.
ミス回避のためのポイント
一次抗体の反応忘れや,ヒトと交差反応のない一次抗体を使用していることに気づくためには,染色する際に必ず染色コントロールも検体とともに染色する.陽性となるはずの細胞が陽性を示さなければ,染色に問題があることに気づくことができる.
ヒトの抗原との反応(交差性)の有無は,抗体を購入する際に必ず確認しておく.現在は,インターネットでもデータシートが確認できる抗体が多いので,購入前にチェックする.もしくは,“anti-human ○○ antibody”とヒトの抗原を目的とした一次抗体を購入すると間違いない.
抗体分子の大きさが不適切
原理・原因
分子量が大きな分子は,分子量が小さな分子と比べ,細胞内への浸透性が悪い.そのため,分子量の大きなポリマー試薬を使用すると,核内に存在する抗原(一次抗体と結合している状態)までたどり着きにくく,結合しにくい.
実際の染色例
図4はリンパ節でのKi-67(clone:MIB-1)染色で,図4aは分子量の大きなポリマーを使用したHRP(horseradish peroxidase)標識ポリマー試薬を用いた場合の染色性である.図4bは分子量の小さなポリマーを使用したHRP標識ポリマー試薬を用いた場合の染色性であるが,図4aの染色性よりも染色強度が強く,陽性細胞数も多い.同じ検体,同じ一次抗体を使用し,染色工程も全く同じである両者だが,ポリマーの分子量の大きさの違いにより,染色結果に大きな差がみられる.Ki-67は陽性細胞数(Index)が診断にかかわる場合があるため,この染色性の差は非常に問題となる.
a:分子量の大きなポリマーを使用したHRP標識ポリマー試薬を用いて染色した場合.
b:分子量の小さなポリマーを使用したHRP標識ポリマー試薬を用いて染色した場合.
bに比べ,aでは染色強度が弱い.
ミス回避のためのポイント
膜蛋白の検出に細胞内への浸透性は影響しないため,膜蛋白を目的とした染色ではポリマーの分子量は問題とはならない.また近年では,ポリマー試薬が改良され,小さな分子量ポリマーが使用されており,分子量の大きさの差による影響はほぼないといえるが,メーカーや試薬によっては起こり得るため注意したいポイントである.
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