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[第3回]心エコー読影力がアップする! 厳選症例③
『国循・天理よろづ印 心エコー読影ドリル【Web動画付】』より
連載 泉知里
2021.09.17
国循・天理よろづ印 心エコー読影ドリル【Web動画付】
患者さんの負担が少なく,小さな異常の発見にもつながる心エコー図検査。日常診療の中で「自分の撮ったエコーの診断が正しいか答え合わせしたいけど,周りに聞ける人がいない……」と思ったことはありませんか? そんな声に応えるために誕生した問題集が『国循・天理よろづ印 心エコー読影ドリル』です。本連載では,本書で扱う50症例の中から3症例を紹介します。診断に自信をつけるため,あるいは自分の力試しのために,ぜひチャレンジしてください!
※ 掲載動画は予告なしに変更・修正,配信停止する場合がございます.
Case 39 難易度 ★★★
70歳代後半,女性.
1週間持続する微熱と悪心で近医受診し,イレウス疑いで抗菌薬を投与された.2日で解熱したが,翌朝に左半身のしびれ,構語障害が出現したため救急搬送された.心原性塞栓が疑われ,経胸壁心エコー図検査が施行された.
【身体所見】血圧154/84mmHg,心拍数72 bpm,体温36.2℃,心雑音なし,呼吸音正常
【血液検査】白血球5,100/mm3(Seg 65%,Band 1%,Eo 3%),CRP 3.9mg/dL,Hb 12.1g/dL,腎機能・肝機能正常
【画像検査】頭部MRIで,橋正中部右側・両側前大脳動脈領域に急性期脳梗塞巣あり.
Q1 この症例の心エコー所見として正しいものをすべて選べ.
- ① 僧帽弁輪石灰化がみられる.
- ② 僧帽弁後尖の逸脱がみられる
- ③ 僧帽弁前尖に可動性構造物が付着している.
- ④ 僧帽弁輪に可動性構造物が付着している.
- ⑤ 僧帽弁狭窄がみられる.
Q2 この疾患について正しいものをすべて選べ.
- ① 透析患者に高頻度にみられる.
- ② リウマチ性僧帽弁疾患に高頻度にみられる.
- ③ 脳梗塞の合併が多い.
- ④ 悪性疾患の合併が多い.
- ⑤ 感染が合併した場合,起因菌はStreptococcus viridansが多い.
- ① 僧帽弁輪石灰化がみられる.
- ② 僧帽弁後尖の逸脱がみられる
- ③ 僧帽弁前尖に可動性構造物が付着している.
- ④ 僧帽弁輪に可動性構造物が付着している.
- ⑤ 僧帽弁狭窄がみられる.
- ① 透析患者に高頻度にみられる.
- ② リウマチ性僧帽弁疾患に高頻度にみられる.
- ③ 脳梗塞の合併が多い.
- ④ 悪性疾患の合併が多い.
- ⑤ 感染が合併した場合,起因菌はStreptococcus viridansが多い.
- ★ MACは,小さな石灰化から,心臓腫瘍と間違われるような大きなもの,内部が一部溶解している乾酪性(caseous)MACまで,さまざまである!
- ★ MACは,一部が剝がれたり,血栓の付着,疣腫の付着などにより,脳梗塞の原因となりうる!
答えと解説
Q1 この症例の心エコー所見として正しいものをすべて選べ.
Answer 1:
① 僧帽弁輪石灰化がみられる.
④ 僧帽弁輪に可動性構造物が付着している.
解説
発熱後に多発性脳梗塞を生じた症例である.心エコー断層像では,輝度の高い径12×10mmの可動性腫瘤が僧帽弁輪(後尖側)に付着している(図A~C黄矢印).弁輪自体が石灰化しており,可動性腫瘤も輝度が高い.一方で,弁尖自体は大きな変化はなく,僧帽弁逆流も軽度で,ドプラ上も僧帽弁狭窄の所見はみられない.以上より,②「僧帽弁後尖の逸脱がみられる」,③「僧帽弁前尖に可動性構造物が付着している」,⑤「僧帽弁狭窄がみられる」は誤りで,①「僧帽弁輪石灰化がみられる」,④「僧帽弁輪に可動性構造物が付着している」は正しい.
では,この可動性腫瘤に関して,どんな可能性があるだろうか?
(左から) 図A 胸骨左縁長軸像, 図B 胸骨左縁短軸像, 図C 心尖部四腔像[画像はクリックで拡大]
図A~Cともに可能性腫瘤を認める(黄矢印).
Q2 この疾患について正しいものをすべて選べ.
Answer 2:
① 透析患者に高頻度にみられる.
③ 脳梗塞の合併が多い.
解説
僧帽弁輪石灰化(mitral annular calcification:MAC)は主に後尖側の弁輪で頻度が高く,透視でみると馬蹄形を呈している石灰化がよくわかる.MACは小さな石灰化(図1a)がみられるものから,大きな石灰化腫瘤(図1b),やや輝度が低く乾酪性(caseous)MACと考えられるようなもの(図1c, d)までさまざまである.
図1 さまざまなMACの種類[画像はクリックで拡大,動画はこちらから]
a:小さな石灰化がみられる(黄矢印).
b:大きな石灰化腫瘤がみられる(黄矢印).
c, d:やや輝度が低く,乾酪性MACと考えられる(黄矢印).
MACのある患者では,脳梗塞の合併が多いことが報告されている.その理由として,高齢や透析患者など,そもそも脳梗塞の危険因子を多く持っている人にMACの合併が多いということもあるが,それ以外に,MAC自体の一部が剝がれて塞栓源になることや,表面に凹凸があるMACに血栓が付着したり,菌血症の際に菌が付着して疣腫を形成したりすることが,その原因とされている.また,MACによって僧帽弁狭窄症(mitral stenosis:MS)が合併すれば,左房血栓による塞栓症のハイリスク患者となる.よって①「透析患者に高頻度にみられる」,③「脳梗塞の合併が多い」は正しい.
この症例においても,MACの一部が剝がれた可能性や,血栓である可能性,また発症前に発熱が持続していたこともあり,疣腫である可能性もある.MACに合併する感染性心内膜炎は,ブドウ球菌(Staphylococcus sp.)が起因菌のことが多く,弁輪部膿瘍・心筋膿瘍の合併が多いため,死亡率が高いことが報告されている.よって⑤「感染が合併した場合,起因菌はStreptococcus viridansが多い」は誤り.
また,疣腫は左房側に付着することが多いが,石灰化を伴うため経胸壁心エコー図検査では音響陰影により検出率が低いことも注意を要する.その場合,経食道心エコー図検査が有用である.
MACに関して最近注目を浴びているのは,MACによるMSである.以前はMSというとほとんどがリウマチ性であったが,超高齢社会においてはMACによるMSが増加している.MACによるMSでは,弁尖自体の変化は軽度で,MACにより弁尖の動きが制限されることによって生じる.したがって,手術介入の際には僧帽弁置換術が必要になるが,MACのため縫合不全が生じやすく,縫合可能な程度にまでMACを切除する必要がある.しかしその場合,弁輪部にある刺激伝導系や左回旋枝・冠静脈洞を傷つけたり,心筋穿孔を生じたりする可能性があり,注意が必要である.リウマチ性僧帽弁疾患や悪性疾患との直接的な関連はなく②「リウマチ性僧帽弁疾患に高頻度にみられる」,④「悪性疾患の合併が多い」は誤り.
本症例はすでに抗菌薬が投与されていたため,血液培養は陰性ではあったが,MACに伴う感染性心内膜炎を疑い,可動性腫瘤のサイズが大きいことから,塞栓症予防の目的で外科手術を施行した.僧帽弁尖自体は正常であったが,弁輪部に25×25mmの脆い疣腫が付着しており,疣腫を取り除くと膿状の液が溜まっている腔があった.疣腫と一部弁輪部の石灰化を切除した.図2にその組織像を示す.石灰化の中に多数の炎症細胞とフィブリンの析出がみられた.
図2 本症例の弁輪部石灰化部分の組織像[画像はクリックで拡大]
最終診断: 僧帽弁輪石灰化(MAC),感染性心内膜炎
Learning Point
国循・天理よろづ印
心エコー読影ドリル
こんな問題集がほしかった!
心エコー読影力が必ずupする50症例、動画185本付!
<内容紹介>こんな問題集がほしかった! 心エコー読影力が必ずupする50症例、動画185本付!「循環器ジャーナル」人気連載に大幅加筆し、心不全や弁膜症、先天性心疾患から、虚血性心疾患、心筋疾患まで、心エコー読影力さらにはその先を問う症例を厳選。解き終えた後は不正解の問題を解き直すもよし、付録の「逆引き疾患目次」「Learning Pointまとめ」で各疾患の理解を深めるもよし。ボロボロになるまで使い倒すべし!
目次はこちらから
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