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[第2回]心エコー読影力がアップする! 厳選症例②
『国循・天理よろづ印 心エコー読影ドリル【Web動画付】』より
連載 泉知里
2021.09.10
国循・天理よろづ印 心エコー読影ドリル【Web動画付】
患者さんの負担が少なく,小さな異常の発見にもつながる心エコー図検査。日常診療の中で「自分の撮ったエコーの診断が正しいか答え合わせしたいけど,周りに聞ける人がいない……」と思ったことはありませんか? そんな声に応えるために誕生した問題集が『国循・天理よろづ印 心エコー読影ドリル』です。本連載では,本書で扱う50症例の中から3症例を紹介します。診断に自信をつけるため,あるいは自分の力試しのために,ぜひチャレンジしてください!
※ 掲載動画は予告なしに変更・修正,配信停止する場合がございます.
Case 28 難易度 ★★☆
70歳代前半,女性.
3か月前から労作時の息切れが出現.近医で心エコー図検査が施行され,心機能は正常といわれたので少し安心したが,以後も労作時息切れがさらに悪化し,坂道が登れなくなったため,さらなる精査を希望して当院受診.
血圧129/83mmHg,心拍数78 bpm.
Q1 この症例の心エコー所見として誤っているものをすべて選べ.
- ① 壁運動は正常である.
- ② 左室は求心性リモデリングがみられる.
- ③ 一回拍出量は低下している.
- ④ 肺高血圧はない.
- ⑤ 心タンポナーデ所見はみられない.
Q2 この症例の心エコー所見で,左房圧上昇/肺高血圧を示唆する所見でないものをすべて選べ.
- ① 左室流入血流速度波形E/A=2.40
- ② 左室流入血流速度波形E波減速時間(DcT)=163m/s
- ③ Average E/e´(sep-late)=12.9
- ④ 肺動脈弁逆流拡張末期速度[PR(end-d)]=2.1m/s
- ⑤ 肺動脈弁逆流ピーク速度[PR(peak)]=3.2m/s
- ① 壁運動は正常である.
- ② 左室は求心性リモデリングがみられる.
- ③ 一回拍出量は低下している.
- ④ 肺高血圧はない.
- ⑤ 心タンポナーデ所見はみられない.
- ● 左室心筋重量=0.8×{1.04×[(LVDd+LVPWTd+IVSTd)3-(LVDd)3]}+0.6
- ● 相対壁厚(RWT)=2×LVPWTd/LVDd
- (LVDd:左室拡張末期径,LVPWTd:左室後壁壁厚,IVSTd:心室中隔壁厚)
- ① 左室流入血流速度波形E/A=2.40
- ② 左室流入血流速度波形E波減速時間(DcT)=163m/s
- ③ Average E/e´(sep-late)=12.9
- ④ 肺動脈弁逆流拡張末期速度[PR(end-d)]=2.1m/s
- ⑤ 肺動脈弁逆流ピーク速度[PR(peak)]=3.2m/s
- ★ 肺高血圧や左室充満圧上昇を,ドプラを用いて推定する方法は複数あるため,それらを駆使して,息切れ患者の原因が心臓由来かどうか判断する!
- ★ 左室壁肥厚・左室肥大があるにもかかわらず,左室流入血流速度波形E/A>1のときは要注意! 偽正常型の可能性が高い.心アミロイドーシスなどの二次性心筋症の可能性も考えること!
答えと解説
Q1 この症例の心エコー所見として誤っているものをすべて選べ.
Answer 1:
④ 肺高血圧はない.
解説
駆出率は55%で,動画からわかるように左室壁運動は正常である.よって①「壁運動は正常である」は正しい.左室はLVDd 36mmと小さく,壁厚12mmと肥厚している.左室心筋重量と相対壁厚は以下の式で算出される.
左室心筋重量は,体表面積で補正して表現する(LVMI).正常値は男性LVMI<115,女性LVMI<95である.左室心筋重量と相対壁厚を用いて,左室の形態は分類される(図1).
図1 左室心筋重量係数と相対壁厚による左室形態分類[画像はクリックで拡大]
この症例は,左室心筋重量は正常でRWTが増大しているため,求心性リモデリングに分類される.よって②「左室は求心性リモデリングがみられる」は正しい.
一回拍出量(SV)は30.8mLであり,SVi<35mLで低下している.よって③「一回拍出量は低下している」は正しい.
肺動脈収縮期圧は,三尖弁逆流(tricuspid regurgitation:TR)最大速度をベルヌーイの式に当てはめて,4×(TR)2+RA圧で推定される.この症例ではTRがわずかしかみられず,ピーク流速が計測できていない.これは,「肺動脈収縮期圧が高くない」ということを意味するのではなく,「TR最大速度からは肺動脈収縮期圧を推定できない」ということを意味する.この症例の場合,A2で解説するように,肺動脈弁逆流(pulmonary regurgitation:PR)血流速度から肺動脈圧を推定する.よって④「肺高血圧はない」は誤り.
少量の全周性心嚢液貯留と下大静脈拡大はみられるが,その他の心タンポナーデを示唆する所見(心房や右室の虚脱,心室中隔の奇異性運動など)はみられず,心タンポナーデは考えにくい.よって⑤「心タンポナーデ所見はみられない」は正しい.
Q2 この症例の心エコー所見で,左房圧上昇/肺高血圧を示唆する所見でないものをすべて選べ.
Answer 2:
③ Average E/e´(sep-late)=12.9
解説
左室流入血流速度波形は,最初に左室が拡張することで左室に流入する血流速度波形(E波)と次に左房が収縮することで左室に流入する血流速度波形(A波)から成る(図2).
図2 左室流入血流速度波形の構成[画像はクリックで拡大]
a:正常型,b:弛緩遅延型,c:偽正常型,d:拘束型
E波は,左室の能動的弛緩に加え,左室収縮の反動により,左房から血流を吸い込むことで始まり,拡張早期にピークをつくる.その後,左房―左室の圧較差およびコンプライアンス(伸縮性)に応じた流入が続き血流速は減速する.A波は,E波で流入できなかった血流を左房収縮により流入させる.正常若年者は,左室心筋が軟らかく,左室の拡張で拡張早期に左房から血流がたくさん吸い込まれ左房収縮で残りを流入させるため,E波が高く,A波のほうが低い(正常型,図2a).
高齢者,高血圧などの心肥大,左室壁運動低下など,拡張障害があると左房から左室への血流の吸い込みが減少し,E波が低くなり,拡張に時間がかかりE波の減速時間(DcT)が延長する.左房収縮は保たれており,E波で流入できずに残っている血液の流入のために,代償的にA波は高くなる(弛緩遅延型,図2b).これはいわば高齢者や心肥大・左室壁運動低下症例における正常パターン(心不全ではない状態)といえる.
このような拡張障害のある状態で何らかの負荷がかかり,またはさらに拡張障害が進行して左室コンプライアンスが悪化すると,左房圧上昇,左室拡張期圧の急激な上昇が生じる.すると,左房圧上昇のため拡張早期に左房から左室に血液が流れ込み,その後左室圧上昇のため急速に減速(E波の尖鋭化)し,左室圧上昇のため左房収縮でも左室に血液が流入しにくいため,A波は低くなる(偽正常型,図2c).
さらに進行すると,もっと極端に,E波が高く,DcTが短縮,A波が低くなる(拘束型,図2d).つまり,偽正常型,拘束型は,左室充満圧が上昇した心不全状態をあらわす.
本症例では,肥大があるにもかかわらず,弛緩遅延型(図2b)ではなく,E/A>1, E波DcTが短縮しており,偽正常型(図2c)と考えられ,左房圧上昇の所見である.よって①「左室流入血流速度波形E/A=2.40」,②「左室流入血流速度波形E波減速時間(DcT)=163m/s」は正しい.またAverage E/e´(sep-late)は>14が左房圧上昇を示唆する指標であるので③「Average E/e´(sep-late)=12.9」は誤り.
PR流血流速度にベルヌーイの式を当てはめることで,肺動脈拡張期圧,肺動脈平均圧を推定できる(図3).この症例では,PR拡張末期速度2.1m/sであり,肺動脈拡張期圧=4×2.12+RA圧=18+RA圧,PRピーク速度3.2m/sであり,肺動脈平均圧=4×3.22+RA圧=41+RA圧となり,肺高血圧があると考えられる.よって④「肺動脈弁逆流拡張末期速度[PR(end-d)]=2.1m/s」,⑤「肺動脈弁逆流ピーク速度[PR(peak)]=3.2m/s」は正しい.
この症例の心電図を図4に示す.壁肥厚があるにもかかわらず,低電位であり,心筋生検にてアミロイドーシスの沈着を認めた.
心アミロイドーシスでは,心房筋にもアミロイドーシスが沈着し,心房機能が低下するため,E/A≫1は,上述のように左室充満圧上昇を表している可能性とともに,左房機能低下によるA波低下を反映している場合もある.
最終診断: 心アミロイドーシス
Learning Point
国循・天理よろづ印
心エコー読影ドリル
こんな問題集がほしかった!
心エコー読影力が必ずupする50症例、動画185本付!
<内容紹介>こんな問題集がほしかった! 心エコー読影力が必ずupする50症例、動画185本付!「循環器ジャーナル」人気連載に大幅加筆し、心不全や弁膜症、先天性心疾患から、虚血性心疾患、心筋疾患まで、心エコー読影力さらにはその先を問う症例を厳選。解き終えた後は不正解の問題を解き直すもよし、付録の「逆引き疾患目次」「Learning Pointまとめ」で各疾患の理解を深めるもよし。ボロボロになるまで使い倒すべし!
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