医学界新聞

図書館情報学の窓から

オープンアクセスのこれまで

連載 佐藤 翔

2019.09.02



図書館情報学の窓から

「図書館情報学」というあまり聞き慣れない学問。実は,情報流通の観点から医学の発展に寄与したり,医学が直面する問題の解決に取り組んだりしています。医学情報の流通や研究評価などの最新のトピックを,図書館情報学の窓からのぞいてみましょう。

[第4回]Plan Sがやって来る ヤァ! ヤァ! ヤァ!(前) オープンアクセスのこれまで

佐藤 翔(同志社大学免許資格課程センター准教授)


前回よりつづく

 2018年9月,cOAlition Sの設立と同時に発表された計画が,世界の学術情報流通関係者を震撼させました。その計画の名は「Plan S」。研究成果の即時・完全なオープンアクセス(以下,OA)化実現をめざす,有り体に言えば世界中の学術雑誌を「読者(その所属機関)から購読料を取るモデル」から,「著者が掲載料を払って読者は無料で読めるモデル」への転換を企む計画です1)。計画を発表したcOAlition Sは英,仏など欧州の11公的研究助成機関が参加したもので,助成を受けた研究者がPlan Sに従うと考えると,その影響は確実に世界へ波及すると考えられます。それから約1年間,Plan Sはこの業界のホットトピックとなり続けています。

 医学界にも日本にも大きく影響する話なので,ぜひ本連載でも扱いたいと思います。前提が多く,長くなるので,前後編にわたってPlan Sの動向,ひいてはOAの動向をまとめていきます。

 論文を読み書きする方でOAを聞いたことがない方はもうあまりいないかと思いますが,ではあらためてOAってなんだ,と聞かれるとはっきりと答えられる方は少ないでしょう。OAの定義として最も普及しているのは2002年に,Budapest Open Access Initiative(BOAI)という会議のまとめの中で示されたものです。そこでOAとは,査読付きの学術雑誌論文等について,「インターネットへのアクセスそれ自体を除く経済的,法的,技術的な障壁なく文献を利用できるようにすること」とされています。

 OA実現の取り組みの,さらに背景にまでさかのぼると,①雑誌価格高騰への対応,②研究成果の迅速・自由な共有の実現,③発展途上国における学術情報流通の改善,④新たなビジネスチャンスの獲得,という,重なりつつも少しずつ異なる動機を持つ人々の思惑が絡み合って実現しました2)

 このうち①は最近話題になることが増えたのでご存じだったり,雑誌契約を担当して実感したりする方も多いと思います。学術雑誌の価格は第二次世界大戦以降,一貫して年に数~十数%の水準で上がり続けています。指数が1以上2未満とはいえ,指数関数的な増大であることに変わりなく,数十年が経過した現在では宿命的にとんでもない価格になり(大手の大学はどこも雑誌契約が億単位でしょう),ちょっとの値上げも死活問題です。値上げが続く一因は,学術雑誌市場がごく少数の大手出版社による寡占であることです。その状況を崩したいと思った大学図書館等が,従来と異なる流通手段を作って値上げを抑制しようとしたのが,OA推進の大きな原動力でした。

 ②は①と関連しますが,研究者は自分の論文を多くの人に読んでほしいのに,高価な雑誌に載ると自由に読んでもらえません。また,査読に時間がかかる場合も,なかなか成果を公開できません。こうしたフラストレーションを,インターネットの力で解決しようと目論んだ研究者たちがOA運動に流れ込みます。前回(第3333号)扱ったプレプリントサーバーはまさにこうした運動の産物であり,最初のプレプリントサーバーarΧivの存在がOA運動成立に大きな影響を与えています。

 ③については,発展途上国においては紙媒体の学術雑誌を買えない研究者が多かったわけですが,インターネットの普及でその状況を改革できるのでは,と活動していた人々がいました。

 ④はBioMed Central(BMC)という出版社で,2000...

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