「ケアするまち」をつくる(山崎亮)
インタビュー
2019.03.25
【interview】
「ケアするまち」をつくる
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地域包括ケアが推進される中,医療者にも地域での活躍やまちづくりへの参画が期待されている。地域に活躍の場を広げるに当たり知っておきたいのが,「コミュニティデザイン」という手法だ。
コミュニティデザイナーの草分け的存在として,さまざまな地域で「人と人のつながり」を生み出してきた山崎亮氏は,最新刊『ケアするまちのデザイン――対話で探る超長寿時代のまちづくり』(医学書院)で,まちづくりにおけるケアとデザインの協働の重要性を語っている。本書に込めた思いとともに,地域包括ケアに活かせるコミュニティデザインの視点を尋ねた。
――コミュニティデザイナーとは,どのようなお仕事ですか。
山崎 例えば地域に公園や図書館などの公共施設をつくる際,住民の意見を設計に取り入れるための工夫を考えます。具体的にはワークショップを開催して住民を集め,どのような施設をつくりたいか,施設で何をしたいかのアイデアを出し合ってもらいます。
アウトプットの一つは公園や図書館の設計図です。しかしそれ以上に,何度も話し合いを重ねることで生まれる,住民同士のつながりにこそ価値があると考えています。でき上がった施設で住民たちが活動し,さらに新たな人々を「ようこそ」と迎えてくれる。このような状態をつくりたいのです。
――形あるもの以外にまで,デザインの概念を広げているのですね。
山崎 studio-Lでは,公共施設の設計の他,自治体の総合計画をつくりたい,健康な人も集える病院にしたい,お寺を活性化したいなど,さまざまな依頼を受けます。しかし基本的には,目に見えるものはつくりません。「こうすればいいですよ」と具体的なアイデアを提示することもしません。
つくるのは住民や関係者たちのつながりです。地域の人たちと一緒に課題を見つけ,地域の人たち自身が解決するプロセスを手助けする。これが,コミュニティデザイナーの仕事なのです。
地域包括ケア実現の鍵は人と人のつながり
――そもそもコミュニティとは,どのようなものでしょうか。
山崎 現在,コミュニティという言葉には2つの意味が混ざってしまっています。1つ目の意味は,共通の関心や目的のために集まった人為的な集団のことです。わかりやすい例として,Facebookやmixiなど,SNSの“コミュニティ”がありますね。実はこちらには,アソシエーションという言葉を当てるほうが適切です。
本来のコミュニティとは,同じ地域に居住する人々や同じ文化を有する人々などの共同体を意味します。関心や目的によらない点で,アソシエーションよりも広い概念です。
――限定的な意味であるアソシエーションも含めて,コミュニティと呼ばれているのですね。
山崎 アソシエーションとコミュニティの関係性は,よくビールに例えられます。ジョッキが地域なら,ビールの泡がアソシエーションで,ジョッキを満たす液体がコミュニティです。
コミュニティ(=ビールの液体部分)は,もともとデザインできない,つまり人為的にはつくれないと考えられてきました。しかし,ビールの泡も液体も含めた全体をコミュニティと呼んでいる以上,私は両方へのアプローチが必要だと考えています。つまり,特定のテーマへの関心を持つ集団(=アソシエーション)を対象とするだけでなく,もともとは関心のない人にも参加してもらえるよう,工夫が必要です。
これは,特に地域包括ケアでは重要な視点です。医療や福祉の専門職だけでは,地域の課題のごく一部しか解決できないからです。地域包括ケアは専門職連携と住民参加の両方がそろって,初めて実現するものだと思います。
――コミュニティデザインによって,一般の住民にもケアに参加してもらいたいとお考えなのでしょうか。
山崎 はい。専門職連携も住民参加も,突き詰めれば人と人のつながりです。地域包括ケアの実現に向けて,コミュニティデザインの考え方が役立つ場面はきっとあるはずです。
丁寧な信頼関係づくりから始めよう
――人と人の間につながりを生み出すために,何かコツはありますか。
山崎 一般的なワークショップは,5分くらいの短い自己紹介タイムの後,「では,意見を出し合いま...
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