ルートが取れない!簡易懸濁法による内服抗菌薬治療戦略(岸田直樹)
連載
2018.10.01
高齢者の「風邪」の診かた
実際どうする?どこまでやる?高齢者感染症の落としどころ
風邪様症状は最もよくある主訴だ。しかし高齢者の場合,風邪の判断が難しく,風邪にまぎれた風邪ではない疾患の判断も簡単ではない。本連載では高齢者の特徴を踏まえた「風邪」の診かたを解説する。
[第十回]ルートが取れない!簡易懸濁法による内服抗菌薬治療戦略
岸田 直樹(総合診療医・感染症医/北海道科学大学薬学部客員教授)
(前回よりつづく)
前回(第3287号)は長期内服抗菌薬治療戦略の対象となる感染症と抗菌薬の投与方法を確認しました。点滴治療のように確実性が高いベストな治療ではありませんが,高齢者では内服抗菌薬による治療戦略のメリットを感じます。NEJM誌に「安定した感染性心内膜炎で10日以上の点滴治療から内服スイッチする治療の非劣性RCT」が報告されました1)。高齢者診療ではやむを得ずと,自分もすでに実践しており,同様に良好な印象です。ただし,前回紹介した抗菌薬の中でこの論文で使われているのはアモキシシリンですが,その投与量は4 g/日と倍量です。高齢者では腎機能が落ちていることが多く,2 g/日の使用で正常腎機能時の4 g/日相当の効果を示す場合がありますが,注意が必要です。
今回は「早期内服,早期帰宅治療」,「長期内服,長期在宅治療」をするために重要な知識,「簡易懸濁法による内服治療戦略」を考えます。
CASE75歳女性,高血圧,脂質異常症,糖尿病,脳梗塞後遺症で左不全麻痺,神経因性膀胱があり,尿バルーン留置中(月1回交換)。認知症はあるも,コミュニケーションは何とか可能。数日前からの発熱,ショックで受診し,血液培養からG群溶血性連鎖球菌を検出。熱源を精査し,造影CTで左股関節の化膿性関節炎の診断。心エコーで疣贅は見つからなかった。全身管理と抗菌薬治療で回復傾向だが,重度の低アルブミン血症により浮腫が強く,末梢ルートが取れなくなった。全身状態の悪化とともに嚥下機能低下もあり,NGチューブからの栄養となった。 |
高齢者の重症感染症時は浮腫により末梢ルートが取りにくい
高齢者の重症感染症では,点滴治療が早期に難しくなる場合があります。例えば,敗血症では全身管理として十分な輸液(細胞外液)投与が必要なのに加え,低アルブミン血症となり,全身浮腫が強くルートが取れない場合があります。CVラインは確保できますが,カテーテル関連血流感染のリスクが高まります。重症感染症時は重度の低アルブミン血症となることが特に多く,栄養状態改善に数か月かかります。半減期を考えるとアルブミン製剤を投与しても元の状態にすぐ戻るので,適正使用を考えると避けたいです。重症感染症に伴い重度の低アルブミン血症となるのは,タンパク質合成が免疫グロブリン産生へシフトする影響です。膿瘍性病変など,長期治療が必要な感染症で特に顕著に見られます。
さらに急性疾患に伴う嚥下機能低下により,錠剤やカプセルが上手に嚥下できないなど,経口での抗菌薬摂取自体が難しく...
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