非重症なcommon diseaseでは「R=耐性=抗菌薬無効」の呪縛から逃れよう(岸田直樹)
連載
2018.11.05
高齢者の「風邪」の診かた
実際どうする?どこまでやる?高齢者感染症の落としどころ
風邪様症状は最もよくある主訴だ。しかし高齢者の場合,風邪の判断が難しく,風邪にまぎれた風邪ではない疾患の判断も簡単ではない。本連載では高齢者の特徴を踏まえた「風邪」の診かたを解説する。
[第十一回]非重症なcommon diseaseでは「R=耐性=抗菌薬無効」の呪縛から逃れよう
岸田 直樹(総合診療医・感染症医/北海道科学大学薬学部客員教授)
(前回よりつづく)
前回(第3291号)は高齢者の抗菌薬治療戦略として簡易懸濁法を確認しました。高齢者の重症な急性感染症治療では,低アルブミン血症による浮腫で末梢ルートが取りにくく,全身状態の悪化による嚥下機能低下で錠剤やカプセルが一時的に上手に嚥下できない場合が多々あります。CVラインやPICCなどから抗菌薬を投与する選択肢もありますが,カテーテル関連血流感染症のリスクがあります。ルートを取ることばかりに注意を奪われ,簡易懸濁法があることを意外に忘れがちです。栄養状態の改善にも腸管を使うことが大切です。特にNGチューブや胃ろうがある場合,点滴ではなく簡易懸濁法を上手に使うメリットを実感します。
さて今回は,感染症治療のジレンマである薬剤耐性菌へのアプローチについて一つの考え方を確認します。薬剤耐性菌は,世界で驚異的拡大を見せ1),国際的に注目されています。薬剤耐性菌と言えば抗菌薬の選択肢の少なさ,治療の難しさが大きな問題と考えられますが,実際はどうでしょうか? ここら辺を丁寧に考えたいと思います。
CASE82歳女性,基礎疾患として高血圧症,脂質異常症,糖尿病がある。3年前に尿路感染症の既往あり。時々膀胱炎と言われ,近医で抗菌薬治療を行う。ADLは良く,認知症は軽度で普段は一人暮らしをしている。趣味の家庭菜園でトマトやキュウリなどを作っていて,チロという名の室内犬を飼っている。2日前からの38℃の発熱で受診。診察上の所見は発熱のみで,血液検査で軽度脱水の所見を認めた。尿検査で膿尿を認めたため尿路感染症の診断となったが,全身状態が悪くなかったためセフトリアキソン1回2 g,1日1回を開始し,入院となった。抗菌薬治療開始後速やかに解熱。血液培養・尿培養どちらからも検出されたESBL産生大腸菌の感受性試験結果では,セフトリアキソンは耐性(R)となっていた。本人の全身状態は良く,家庭菜園の手入れとチロの世話をしたいので早く帰りたいと言っている。 |
“正しくビビろう”薬剤耐性菌
薬剤耐性菌と言うと“とても厄介な悪魔”を想像してしまいます。連載第1回(第3256号)で紹介したように,何も対策を取らない場合,2050年には世界で死因の1位が薬剤耐性菌による感染症となると予測され,国レベルでさまざまな対策が行われています。薬剤耐性菌へのアプローチは,①拡散を防ぐ,②薬剤耐性菌を作らない,の二つから成ります。①は感染対策の側面で,手指衛生が最も大切であることは周知の事実です。②はいわゆる抗菌薬適正使用であり,抗菌薬の投与量・投与間隔といった投与方法だけではなく,「Narrow is beautiful」と言われるように広域抗菌薬の選択的使用と迅速なde-escalation,そして保菌と感染を適切に判断する質の高い臨床感染症能力が求められます。
薬剤耐性菌を広めない・作らないという予防努力は重要ですが,それでも薬
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