医学界新聞

連載

2018.06.25


看護のアジェンダ
 看護・医療界の"いま"を見つめ直し,読み解き,
 未来に向けたアジェンダ(検討課題)を提示します。
〈第162回〉
「いいね♡看護研究会」の魅力

井部俊子
聖路加国際大学名誉教授


前回よりつづく

 2018年5月から「いいね♡看護研究会」を始めました(「いいね」の次にハートマークを入れるのが正しい表記です)。

看護の価値を再発見したい

 この会は昨年11月に開催した『病院看護と訪問看護のコラボ――本当に「事例から学ぶ」しくみを作ろう』(日本看護管理学会例会in東京)の趣旨を引き継ぎ,継続していこうとするものです。例会開催の際に企画委員になってもらった頼もしい仲間に再び集まってもらい,私としては,看護の価値を再発見したいという動機に基づいています。

 これから月1回,原則として第3水曜日18時から19時半に,聖路加国際大学で開催します。第1回の研究会が始まったところですが,私にしては珍しく,10回やって終わろうと決めています。第10回は2019年3月20日(水)です(8月は夏休みです)。

 「いいね♡看護研究会」の趣旨は以下の3つです。

1)さまざまな場所で働く看護職が,事例から学び合うための取り組みを実践する仕組みを作る
2)実践者の困り事から当事者の困り事へ看護職の視点の転換を図る
3)対話から,当事者中心の看護を見いだし,現場での実践に活かす

 「いいね♡看護研究会」では,事例の提示をナーシング・フォトボイスで行うことにしました。ナーシング・フォトボイスとは,看護実践の一場面を写真に撮り,撮影の意図を200~300字程度の文章を沿えて提示するポスターです。言い換えると,写真の声を聞くということになります。1回の研究会で4事例を準備することにし,フォトボイスは参加者から募ることにしています。ぜひ地域の方々にこの会に参加していただき,開かれた会にしていきたいと私は願っています。

フォトボイスという手法

 それでは,5月の第1回「いいね♡看護研究会」で提示されたフォトボイスの一つを紹介しましょう()。

 フォトボイスの一例(クリックで拡大)

 学会でのポスター発表のように,参加者は壁に提示された“フォト”を眺め“ボイス”を読みます。このフォトには,デジタル時計と血圧チェック表とみかんが写っています。この時計表示の後ろに血圧計のマンシェットが畳まれています。次にボイスに目を転じてみると,心筋梗塞から回復した夫の血圧測定にかける思いを,妻が記述していることがわかります。

 参加者はペンを持ち,短いコメントをフォトボイスの余白に書き込みます。こんなふうに。

「自己測定をして自分の思う数値が出ないと見なかったことにしたくなる気持ちはすごくわかります。訪問のときも利用者の方が納得するまで測定したり,言い訳を考えたりすることがあります」(S)
「自分の家族は納得のいく値が出るまで何回も測定していたりして,それを見て,私は笑っていました。測定もしたくないくらいの落胆として捉えた妻がよいなと思いました」(A)
「高い値だったりすると,怒られるのではないかと思ってしまうのかもしれないですね。よく,何回も血圧を測って,一番低い値を書いている患者さんがいます。みんな同じように思っているのかも」(S)
「よくノートをみせてくださいましたね。血圧ノートを広げて記録するとき,高値は書きたくない気持ちは,退職後の自分の体調が悪かったころを思い出させてくれました。2月は特に血圧が高めなので嫌でした」(S)
「話の深刻さは全然違いますが,自分のダイエット記録や貯金の記録のことを連想して,すごく共感してしまいました。それを話題にしてくれる人がいるのはポジティブになれるなと感じました」(T)

 などと,自分の体験に引き寄せて,当事者に共感しています。さらには,以下のような実践者目線のコメントもありました。

「患者さんの気持ちを考えているつもりでも,いつの間にかけ離れていることに驚きます。こういった気づきを看護職同士で共有できるといいなと思います」(T)
「ご自身のからだを知ることは大切ですが,悪いところや評価ばかりではつらいです。看護の“看”が管理の“管”にならないように,よいところもみていきたいです」(N)
「記録が途切れているところから,患者の思われていたことを拾い出し,そこに気づきを得て次へつなぐ。短時間でできるのはまさに看護技術だと思いました」(O)
「値にとらわれがちですが,“何事にも一生懸命で前向きに努力する方”の性格や考え方まで把握してかかわることがケアにもつながる,と改めて考えさせられました」(A)
「“記録”の意義(意味)が当事者と看護者では異なることがわかりました」(I)

 ディスカッションでは,各々が書いたコメントに言及して発展させていくことができました。血圧計の後ろに写っているみかんは,みかん好きな妻のために夫が常備しているということもわかりました。ボイスに記述されている“新緑の中の散歩”も素敵です。

 「いいね♡看護研究会」で,看護の価値を再発見できますように。

つづく

●問い合わせは下記
井部看護管理研究所
 E-mail:info@ibe-iona.com(メールを送る際,@は半角にしてご記入ください)
 TEL:03-6260-6410
研究会専用登録サイト
 https://goo.gl/forms/vBsL51lOXjOMuGlj2

開く

医学書院IDの登録設定により、
更新通知をメールで受け取れます。

医学界新聞公式SNS

  • Facebook