医学界新聞

連載

2018.05.28



看護のアジェンダ
 看護・医療界の"いま"を見つめ直し,読み解き,
 未来に向けたアジェンダ(検討課題)を提示します。
〈第161回〉
看護学速習プログラム(学士3年次編入)報告

井部俊子
聖路加国際大学名誉教授


前回よりつづく

 2018年3月末に,聖路加国際大学紀要4巻が届いた。28編から構成される教員の研究・実践報告は例年以上にボリュームがあった。「短報」には,5編の「3年次編入」に関する論文が載った。それらは,聖路加国際大学看護学部が取り組んできた新たな制度についての準備段階から,開講後半年の教育実践の内容や課題を示すものであった。

 本稿では,5編の報告を概観し,看護学速習プログラムに関心を持っている看護系大学の関係者に供したい。

保助看法改正を契機に編入制度の見直しへ

 まず,看護学速習プログラムの開設に至るまでの準備段階の報告である1)

 米国では,1971年にセントルイス大学がはじめて看護学速習プログラム(Accelerated Bachelor of Science in Nursing program;ABSN)を開設した(紀要では「看護速習プログラム」と表記されているが,本稿ではBachelorの意をくんで「看護学速習プログラム」を用いることとした)。米国では看護師不足と経済低迷による高い失業率を解決する施策として看護学速習プログラムが推進され,2012年までに230課程となった。その後11~18か月で看護師を育成するコースが293課程,修士号を取得できる3年制コースが62課程となり,看護学士課程を持たない4年制の大学もあるという。

 聖路加国際大学の編入制度は,看護系短期大学卒業生を対象に開始された。1997年には他分野の学士号を持つ大学卒業生を対象とした学士編入制度に変更となった。当時,保健師助産師看護師法(保助看法)では看護師国家試験受験資格を得るには3年以上の教育期間が求められていたため,学士編入学は2年次への編入とし,今日まで続いていた。2014年の保助看法改正により,「大学において看護師になるのに必要な学科を修めて卒業した者」(第21条1項)が加わり,この項では「3年以上」という教育期間が削除されたことにより,わが国での看護学速習コースが可能になったのである。

 聖路加国際大学ではこのコースのニーズ調査を2015年に行っている。オープンキャンパスとウェブサイトでアンケート調査(n=437,平均年齢28.5歳)を行ったところ,「看護学速習コースが開設されたら入学したい」と回答した者は279人(64%)であった。進学において重視する項目は,①環境(95%),②最短年限で学びたい(58%),③働きながら学びたい(50%),④学費を考慮する(22%)であった。

カリキュラム構成と学習支援体制

 看護学速習プログラムの検討は2013年度から開始された。学士3年次編入のカリキュラム作成に当たり,初年度の過密性の緩和,必修科目単位数の少ない最終学年の学習意欲保持,成人学習理論に基づいた主体的な学習方法の導入が課題となった。そこで,最初の講義4科目を除いて,編入生は別クラスで授業を行うこと,学習の順序性を保つこと,専門科目は理論と演習・実習が短い時間で連動するように配置するとともに,実習は2年間でまんべんなく配置することとした。具体的には,看護学が扱う現象と方法論を理解するための事例を用いた学習,基礎看護学領域の複数の科目統合2~4),成人看護学実習(慢性期)と老年看護学実習との協働,理論学習と実習による体験学習の連続性が考慮された。

 カリキュラムは,形態機能学,形態機能学演習,ヘルスアセスメント方法論の3科目を統合して統合科目I(7単位)とした。授業は事例を用いて展開し,講義に加えて,①臓器の観察実習,②自身の生理的データの測定演習,③ヘルスアセスメント演習を組み合わせ,模擬患者を活用した実践的演習も導入された。さらに,People-Centered Care Nursing(PCCN)論,看護展開論,基礎看護技術論I,基礎看護技術論II,コミュニケーション実習,基礎看護技術実習を統合して統合科目II(10単位)とし,最後に看護展開論実習(2単位)を行うこととした。

 統合科目Iでは,「日常...

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