医学界新聞

連載

2017.12.04



身体所見×画像×エビデンスで迫る
呼吸器診療

肺病変は多種多彩。呼吸器診療では,「身体所見×画像×エビデンス」を駆使する能力が試されます。CASEをもとに,名医の思考回路から“思考の型”を追ってみましょう。

[第6回]アレルギーを考える

皿谷 健(杏林大学呼吸器内科 講師)


前回からつづく

CASE 60歳女性,6月中旬から労作時呼吸困難が出現。7月初旬からは37℃の微熱,乾性咳嗽が出現し,近医で対症療法を受けていた。7月末に労作時呼吸困難がさらに増悪し,当院受診となった。既往歴に気管支喘息があるが,吸入薬の治療で安定している。喫煙歴はなく,ここ数年来,海外渡航歴や温泉入浴歴もない。ペット飼育歴はない。初診時の身体所見は意識清明,体温 36.9℃,血圧94/68 mmHg,脈拍100回/分,SpO2 92%(室内気),呼吸数16回/分。両側中下肺野にfine cracklesを聴取するが,その他は特記すべき異常所見がない。


問診で詰める

 労作時呼吸困難と微熱の症例です。この鑑別は実に多岐に及ぶため,詳細な問診が必要となります。基礎疾患に気管支喘息がありますが,ここ10年安定しており,明らかな発作はなかったとのことでした。

 第1回(3231号)で紹介した「VINDICATEによる呼吸器疾患の分類」をもとに,最初に除外したい疾患は薬剤性肺炎(Iatrogenic)です。新たに開始した薬剤(坐剤や貼付剤含む)や健康茶はありませんでした。

 丁寧に問診を行った結果,以下の5点が明らかとなりました。

外出すると微熱や呼吸困難感が改善し,帰宅すると顕著になる。
同居している家族3人に同様の症状がある。
昨年も暑い夏に同様の症状があったが,数か月で自然軽快した。
・軽度の咳嗽,微熱,労作時呼吸困難は帰宅すると軽度出現し,明らかな喀痰はない。
・自宅1階の脱衣所の床がカビで腐り,抜けそうになっている。

 臨床経過からの鑑別も重要です。本症例では亜急性の比較的緩徐な経過を示しています。感染症で注意すべきは抗酸菌感染症や真菌感染症が挙げられますが,「帰宅すると増悪する」というエピソードが合致しません。

 Fine cracklesのみで疾患は絞りきれませんが,症状が持続するなら特発性(または二次性)間質性肺炎も考慮する必要があります〈第2回(3236号)参照〉。

 胸部X線画像では両側中下肺野を主体に淡い浸潤影を認め,胸部CTでは斑状のGGO(ground glass opacity)を広範囲に認めました(図1)。

図1 初診時の胸部X線(左)とCT画像

 以上の問診および画像所見から「夏型過敏性肺炎」を疑い,気管支鏡検査を施行しました。その結果,気管支肺胞洗浄液中の総細胞数の増加(6.3×105 /mL)とリンパ球の増加(88%),CD4/CD8比の低下を認め,経気管支肺生検では小型の類上皮細胞肉芽腫の所見が得ら...

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