医学界新聞

連載

2018.01.08



身体所見×画像×エビデンスで迫る
呼吸器診療

肺病変は多種多彩。呼吸器診療では,「身体所見×画像×エビデンス」を駆使する能力が試されます。CASEをもとに,名医の思考回路から“思考の型”を追ってみましょう。

[第7回]気管支喘息/COPDを考える

皿谷 健(杏林大学呼吸器内科 講師)


前回からつづく

CASE 87歳女性が2週間の労作時呼吸困難を主訴に受診。関節リウマチのため数年来プレドニゾロン(5 mg/日)とタクロリムス(2 mg/日)を内服し,寛解を維持している。初診時,vital signsは正常で,前胸部にわずかにrhonchiを聴取する他は特記すべき身体所見がなく,画像上も明らかな肺野異常陰影は認めなかった(図1 A)。咳喘息または喘息の疑いとしてステロイド・β2刺激薬の吸入治療が開始されたが,労作時呼吸困難の増悪を認め10日後に外来を再受診した。

図1 胸部X線画像(A),CT画像(B,C)
縦隔腫瘍(矢印)により,左主気管支が狭窄している。

 再診時のvital signsと身体所見は意識清明,血圧140/80 mmHg,脈拍86回/分,SpO2 96%(室内気),呼吸数30回/分。頸部では気管呼吸音に加えて時々wheezesを聴取。注意深い聴診で,左気管支呼吸音の減弱と,左前胸部に時々出現するわずかなwheezesとrhonchiを認めた。


診断は咳喘息/喘息で正しいのか?

 本症例でまず注目すべきは,①間欠的なwheezesを頸部に聴取,②左気管支呼吸音の減弱および左前胸部に時々出現するwheezesとrhonchi,③頻呼吸です。Wheezesで最も見落としやすく,かつ,注意すべき疾患は気道狭窄です。関節リウマチでは,アミロイドーシスによる気道狭窄を呈することがあります。本症例はのちに施行した胸部CTで縦隔腫瘍を認め(図1 B,C),左主気管支の狭窄が明らかとなりました1)。さらに,超音波気管支鏡による縦隔腫瘍の生検で悪性リンパ腫(diffuse large B-cell lymphoma)と診断されました。

 頸部へ放散するwheezesは,多くの気管支喘息発作症例やCOPDの急性増悪症例で認める所見です。頸部は聴診の必須部位であり,頸部で時折聴取されるwheezesは気管/気管支での分泌物や浮腫による狭窄が放散した可能性も考えるべきです。そういう視点で丁寧に診察すれば,本症例のように左主気管支の狭窄による気管支呼吸音の減弱を指摘できることがあります。

 また,本症例は呼吸数の増加を認めています。心不全を疑う起坐呼吸や夜間発作性呼吸困難,体重増加などは指摘できず,呼吸数増加は気道狭窄による影響と考えられます。なお,著明な気道狭窄では呼吸数は増加しないことがあることも念頭に置きましょう。

 COPDでマスターすべき身体所見は多数ありますが,徳田安春先生による総説2)は一読をお勧めします。

胸部X線でとらえられない気道狭窄を見つけるには

 呼吸機能検査が行える施設の場合,気道内腔が8~10 mm程度まで狭窄すれば,気道狭窄を鋭敏に検出できます3)。われわれの報告では,フローボリューム曲線の「のこぎりの歯(saw-tooth sign)」が睡眠時無呼吸症候群などの上気道閉塞だけでなく,下気道狭窄/閉塞で呼気相でのプラトー所見に加えて認めることを示しています(図2)。これは気道内腔や粘膜の振動によるものと考えられています。

図2 フローボリューム曲線の「のこぎりの歯」(文献4
VC:3.52 L(%VC:110.9%),FVC:

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