医学界新聞

連載

2017.11.27



院内研修の作り方・考え方

臨床現場で行われる研修会や勉強会をより効果・効率・魅力的な内容にするために,インストラクショナルデザインを用いた研修設計をご紹介します。初めて教育委員を任された「はじめさん」,頼れるベテラン看護師「ゆう先輩」と一緒に,教育を専門に学んでいなくても自信を持って教えられるスキルを学びましょう。

【第8回】ファシリテーション,できていますか?

政岡 祐輝(国立循環器病研究センター副看護師長/熊本大学教授システム学研究センター連携研究員)


前回よりつづく

ゴールは「学習を起こすこと」

(はじめさん) 今日の研修でグループワークがあって,ファシリテーターを務めたんですが,うまくいかなかったんです。
(ゆう先輩) 何がうまくいかなかったの?
(はじめさん) いろいろと発問をしたんですけど,出てほしい意見がなかなかなくて。発言してくれた人もグループの中の特定の2人くらいで,ディスカッションにならなかったんです。
 どんな質問や声掛けをすればよかったのか途中でわからなくなってしまいました。

 ファシリテーション(facilitation)は,近年看護の領域でも注目されている言葉で,耳にしたことのある方も多いと思います。日本ファシリテーション協会はファシリテーションについて,「人々の活動が容易にできるよう支援し,うまくことが運ぶよう舵取りすること。集団による問題解決,アイデア創造,教育,学習等,あらゆる知的創造活動を支援し促進していく働き」と説明しています。指導者がファシリテーションの技術を身につけることで,学習者の学習効果を最大限にまで引き上げることができるのです。

 ファシリテーションのゴールは「学習を起こすこと」。ファシリテーターは単なる観察者でも講演者でもありません。ファシリテーターに求められる役割は,学習活動の障害を取り除き,学習者がミスを恐れず挑戦できる快適で支援的な環境を整えること。そして学習者全員が主体的かつバランスよく参加できるように支援することです。

(はじめさん) その場での声掛けや問い掛けをどうやればいいか難しいです。
(ゆう先輩) そっか。はじめさんは,ファシリテーションってグループのメンバーに対して行う声掛けや質問のことだけだと思ってないかな?
(はじめさん) えっ!? そうじゃないんですか?

 今回は,これまでの筆者の経験も踏まえながら,研修におけるファシリテーションの役割で重要となるポイントをいくつか紹介していきます。

学びが促進される「場作り」

 場作りには,物理的な場作りと心理的な場作りがあります。物理的な場作りは,学習方法に合わせて机や椅子,ホワイトボードの配置などを考えることです(図1)。

図1 机・椅子の配置例
①主に講義形式で選択する。Think pair shareといった隣同士の意見交換も可能。
②グループワーク中心の研修で用いる。
③学習者全員の顔が見えることが特徴。自己紹介や意見交換,対話重視の学習活動に最適。
④ホワイトボードに意見を書き出し,学習を進めていく際に利用する。
いずれも学習目的に合った配置が重要になる。研修中に変更するなど,工夫したい。

 心理的な場作りは,「グループメンバーの誰かが意見を考えるからそれに便乗すればいいだろう」といった,参加者のいわゆる「社会的手抜き」を防ぐことが目的の一つです。その上で学習者が考えや意見を安心して気兼ねなく発言できる安全な環境を作り,主体的な参加を促すことをめざします。社会的手抜きは,グループサイズが大きくなればなるほど発生してしまいます。グループダイナミックスを考えると適当なサイズは5~6人と言われますが,経験的に3~4人がちょうど良いサイズです。

 安全な環境を作るには,「他者の話は最後まで聞く」「他者の発言に対して否定はしない」などのグランドルールを作って提示したり,グループメンバー同士での自己紹介(チェックイン)やチームビルディングゲームを行ったりします。自己紹介では,氏名や所属だけでなく,趣味や最近のマイブームなども加えると,場も和みます。

 主体的な参加を促すには,学習者同士の距離感も考慮しなければなりません。また,ファシリテーター自身がグループの輪の中に立つのか,グループの輪の外に立つのかといった「立ち位置」もとても重要です(図2)。

図2 ファシリテーターの立ち位置
学習者が“ファシリテーター依存”にならないよう,適宜輪の外から声掛けや発問をする。

 これまで多くのグループワークを見てきた経験上,グループの輪の中にファシリテーターが入り続けてしまうと,発言のほとんどがファシリテーターになりがちで,発言するたびに参加者がファシリテーターの顔を確認するといった“ファシリテーター依存”の状態に陥りやすいです。輪の外に立つことを不安に思うファシリテーターもいるかと思いますが,輪の外から「皆さんどう考えますか」と投げ掛け,学習者同士の対話や討議が交わされるようにするとよいでしょう。参加者同士の自然な発話を生むはずです。

「問い作り」と問いの「見える化」

 参加者に何かを考えさせる際,文章か口頭で問いを与えることから始まりますね。では,この問いをどう立てるか。ここがファシリテーションの役割の中でも特に重要となります。学習目標を達成させるために,グループワークでどのようなことを,どんな順番で考えていけばよいかを事前に明確にしておく必要があります。そして学習者に対し,今,何を考えればよいかを明快に伝えます。この問いが不明瞭では,研修中にファシリテーターが逐一説明するハメになってしまいます。明快な問いが与えられていれば,学習者はそれに合わせて考えを導き出すことができるのです。

 無言の時間があると不安に駆られ,ファシリテーターが話し出してしまうなんてことはありませんか? 安易にファシリテーターが声を発してしまうと,学習者の思考を遮ることになってしまいます。場合によっては「答えまで言ってしまった」という場面も見受けられます。これではファシリテーターは学習の支援者ではなく,学習者の考える機会を奪う“学習泥棒”になってしまいますね。無言であっても,学習者の頭がアクティブに思考してさえいれば良いのです。

 私も無言の時間があるとつい話し出しそうになりますが,学習者を信じてぐっと待つことで,学習者が発言し始めることがほとんどです。思考停止に陥っていたり,混乱したりしている場合にのみ,学習者にはそれを解消するヒントを与えましょう。明らかに学習目標からそれた判断をしている場合などは,フィードバックを与えることも必要です。中には,他者のことを考えずに1人で話し続ける人がいますので,その場合は他者が発言できるようコントロールします。複数のグループをファシリテートする際は,机と机の間を歩いて観察する「机間巡視」をしながら,グループのやりとりに聞き耳を立てて状況を把握するように努めましょう。

 対話や討議を活性化させるポイントは,問いに対する参加者の回答をホワイトボードや模造紙などに記録し「見える化」することです。記録の方法は文字でも図でも構いませんし,内容によって色を変える工夫もいいでしょう。見える化されることで視覚的に確認でき,他者との差異の認識や同じ点の同定ができて分析しやすくなります。

 学習目標を達成するには,毎回強調しているとおり綿密な学習プログラムを設計することが何より重要になります。それを念頭に置いて,研修当日は学習者の状況をアセスメントしながら柔軟な対応で研修を進めることがファシリテーターには求められます。ぜひ,気負わずに学習者の主体的な学びを引き出してみてください。

教え方のポイント

→研修設計時に,社会的手抜きが起こらず,安心して発言できる場作りに対する方略を考えておく。
→学習目標の達成につながる明確な問い掛けを準備し,明快に伝える。

つづく

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