医学界新聞

連載

2017.10.23



院内研修の作り方・考え方

臨床現場で行われる研修会や勉強会をより効果・効率・魅力的な内容にするために,インストラクショナルデザインを用いた研修設計をご紹介します。初めて教育委員を任された「はじめさん」,頼れるベテラン看護師「ゆう先輩」と一緒に,教育を専門に学んでいなくても自信を持って教えられるスキルを学びましょう。

【第7回】プレゼンテーションの準備をしよう!

政岡 祐輝(国立循環器病研究センター副看護師長/熊本大学教授システム学研究センター連携研究員)


前回よりつづく

 前回までは研修の作り方について,IDの理論を紹介しながら解説してきました。今回からは数回に分けて,実際に研修を行う際に身につけておきたいノウハウを紹介していきます。

 まず,研修で欠かせないのが,配布資料やプレゼンテーション用のスライドの作成と講師・インストラクターとしてのプレゼンテーションスキル(話し方,伝え方)の2つです。「研修参加者に情報を伝え,理解・納得しながら学習活動を展開してもらい,学習目標の達成に導く」プレゼンテーションを準備し,実施することが重要です。

効率的に資料を作るには

(ゆう先輩) こんなに夜遅くまで,どうしたの?
(はじめさん) 今度の研修で使うプレゼンのスライドを作っていたんです。
(ゆう先輩) 昨年度の担当者が研修で使ったスライドを活用できないの?
(はじめさん) えっ!? 研修担当になったので,自分で作らなきゃと思って。

 配布資料やプレゼンテーション用のスライド作成に,多くの時間と労力をかけている方も多いのではないでしょうか。研修担当になると,一から作らなければならないこともありますが,もし同僚や先輩が作ったもので参考になる点や譲ってもらえるものがあれば,了解を得て活用するのも手です(もちろん出典の明記など著作権への対応はしっかりと行う必要があります)。

 資料作成は研修担当者の学びになる面もありますが,何より重要なのは,研修での「学習目標達成」です。省ける作業は省き,どのように学習させるかの構想に十分な時間を割くことを優先しましょう。臨床現場の看護師が研修の担当になった場合,資料作りが勤務時間外になることもあります。省力化のためにも,使えるものは最大限使いながら資料を作ることが大切です。

プレゼンテーションを作る3つのポイント

(はじめさん) これまで多くのプレゼンを経験しているゆう先輩は,何か大事にしているポイントがあるんですか?
(ゆう先輩) そうだね,①話の流れ,②見やすくシンプル,③注意・関心を引く工夫の3つを意識しているよ。

1)話の流れ(ストーリー)
 研修の構成や学習内容は,研修設計の段階で決まっています。ところが,いざ始まってみると内容に流れがなく,話もあちこちに飛んでしまうようでは参加者は理解できず,時に混乱を招いてしまいます。

 話の流れは「起承転結」が基本と言われますが,研修でのプレゼンテーションは「結起承転」で進めます。最初は,「結」にあたる学習目標を伝えます。この研修で何ができるようになるかを具体的に知らせることで,学習に対する意欲や期待感を高め,頭の働きを活性化させます。

 次の「起」では学習内容に関連し,現場で参加者が感じている課題や困っている事例をエピソードを交えながら示します。参加者が学習内容を「自分ごと」としてとらえれば,研修がとても進めやすくなるでしょう。

 「承」では,「起」の部分の解説と,それを解決する内容,すなわち研修で学んでもらいたい知識を扱います。「転」は,内容を転じるというのが本来の意味かもしれませんが,研修では,「承」で学んだ内容をさまざまな場面・事象でどう使うかを扱う部分となります。最後は,冒頭で示した「結」の学習目標に立ち返り,おさらいをします。

2)見やすくシンプル
 プレゼンテーション用のスライドは,学習内容や講師が話すことを視覚的に助けるものです。スライドを配布資料にも使うため,下記1枚目のスライドのように文字数が多く見にくくなっている場合があります。また,研修を担当し始めたばかりの人に多いのが,文字フォントや色,アニメーションなどに凝ることです。参加者に,「かっこいい」と思わせることはできても,その労力が学習効果にどれだけつながるかは疑問です。スライドを作ると枚数も増えがちです。研修目的や学習目標に立ち返り,不要なスライドはなるべく削除しましょう。「話す内容を助ける素材」として,2枚目のようなシンプルなものを作るのがベターです。

スライド作成で気を付けているポイント
●色使いは3色までに絞る
●文字フォントは読みやすいものを選択(筆者は「メイリオ」を使用)
●もっとも伝えたい言葉・フレーズに絞る
●箇条書き・体言止めで記載(行数は,可能な限り6行以内)
●文章頭出し位置はそろえる
●文字間・行間の調整
●文字サイズ:本文は24 pt・表中18 pt以上
●1スライド1分程度で説明する

3)注意・関心を引く工夫
 第5回(第3237号)で紹介したARCSモデルが参考になります。参加者の知的好奇心をかき立て,自分ごととしてとらえられる工夫を随所に入れましょう。エピソードを交える,考えを共有する時間を作る,科学的根拠を示す,実際の写真や音声などで五感に訴え掛けるなど,方法はさまざまです。もちろんやりすぎは禁物です。笑いを取ろうとするのも諸刃の剣になるので注意が必要かもしれません。

プレゼンテーションを行う3つのポイント

 わかりやすい資料を作っても,上手に伝えることができなければプレゼンテーションは台無しです。効果的に伝える方法や聞き手に好印象を与えるために私は,次の3つを心掛けています。

1)棒読みを避ける
 あらかじめ作った原稿やスライドに書いてある内容を読むだけでは話が単調になり,参加者は眠気を催してしまいます。話すスピードに緩急をつけ,ジェスチャーを交えたり,少し動きながら話したりしてメリハリをつけると良いでしょう。

2)参加者の反応を見る
 同じ内容の研修でも,参加者によってニーズや理解力は異なります。パソコン画面やスクリーンだけに顔を向けるのではなく,参加者の反応をしっかり観察しながら話すことが重要です。説明が理解できて納得している場合にはうなずく様子が見られ,逆に理解できていないときには険しい顔や呆然としている様子が見られます。理解が不十分なまま進んでしまうと,学習目標を達成できないことにもなりかねません。わかりやすい言葉や比喩を用いるなどして再度説明を加え,参加者の反応を見ましょう。いざ研修が始まったら,臨機応変な対応で進めたいですね。

3)癖を認識する
 「まっ」「えっと」「あ~」などの口癖のようなワードを無意識のうちに頻繁に発していませんか? また,スライドを指し示すためのポインターをゆらゆらさせて示す場所が一定にならなかったり,強調したい部分を必要以上にクルクル回したり,左右に動かして指し示すといった使い方がよく見られます。意外と気になりますよね。口癖やポインターの使い方は,参加者の集中を妨げることにもなります。自分の癖を知るためにも,恥ずかしがらずに他者からフィードバックをもらいましょう。そして,日頃から意識して癖を減らすことが大切です。

 プレゼンテーションスキルの向上は一朝一夕にはいきません。私も最初は苦労しましたが,上記のようなちょっとした心掛けを積み重ねることで自信がついてきました。不安に思っている皆さんも,研修の大小にかかわらず,どんどんチャレンジしてみてください。

資料作成・プレゼンのポイント

→話に流れがあり,見やすくシンプル,参加者の注意や関心を引く工夫のあるプレゼンテーションを心掛ける。
→自分の癖を認識し,棒読みは避ける。参加者の反応を見ながら行いたい。

つづく

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