医学界新聞

連載

2017.03.20



目からウロコ!
4つのカテゴリーで考えるがんと感染症

がんそのものや治療の過程で,がん患者はあらゆる感染症のリスクにさらされる。がん患者特有の感染症の問題も多い――。そんな難しいと思われがちな「がんと感染症」。その関係性をすっきりと理解するための思考法を,わかりやすく解説します。

[第10回]液性免疫低下と感染症②

森 信好(聖路加国際病院内科・感染症科医幹)


前回からつづく

 前回(第9回/第3212号)は液性免疫の主役である,脾臓摘出患者における敗血症性ショック「overwhelming postsplenectomy infection;OPSI」について,症例を交えてお話ししました。OPSIは数時間の経過で病状が悪化するため,早期診断,早期治療が最重要でしたね。今回は,脾摘以外のどのような場面で「液性免疫低下」が起きるのかを見ていきたいと思います。

 「がんと免疫」を考える際には,がんそのものとがんの治療(手術,化学療法,放射線療法など)とに分けて,それぞれでどの免疫が低下しているかを明確にすることが大切になります。

液性免疫不全を起こすがんは2つ

 「液性免疫低下」を引き起こすがんにはどのようなものがあるでしょうか()。基本的に,固形腫瘍そのものが液性免疫不全を起こすことはほとんどないと考えて,まず問題ありません。では,血液腫瘍はどうでしょう。主な疾患は二つあります。一つは慢性リンパ性白血病(chronic lymphocytic leukemia;CLL),もう一つが多発性骨髄腫(multiple myeloma;MM)です。

 液性免疫低下の原因

 ひょっとするとCLLと聞いてもぴんと来る方はあまり多くないかもしれませんね。というのも,欧米では比較的よく見られる白血病の一種ですが,日本人には少ない疾患だからです。ちなみにアメリカでは年間で10万人当たり4.6人の発症頻度1)ですが,日本人では年間で10万人当たり0.3人未満とされています2)。実際,私がMDアンダーソンがんセンターに勤務していたころはCLLの患者さんをしばしば見掛けたものですが,日本に帰国してからはほとんど経験がありません。CLLでは疾患そのものにより,B細胞の機能低下に加えて免疫グロブリンが低下することで,液性免疫低下を引き起こします3)

 一方,MMは日常診療でよく遭遇するという読者もいらっしゃるかと思います。MMそのものでは,B細胞の機能低下,形質細胞の機能低下,低ガンマグロブリン血症に伴う液性免疫低下4)の他に,樹状細胞の機能低下,T細胞への影響(CD4/CD8比の逆転やTh1/Th2 CD4比の異常など),ナチュラルキラー細胞の機能低下なども起こりますが,結局のところ,臨床的に重要なのは液性免疫低下であると考えられています5)

 もちろん両者とも「がんそのもの」では「液性免疫低下」が起こりますが,それに加えて,「がんの治療」により「バリアの破綻」,「好中球減少」や「細胞性免疫低下」などが起こります。つまり複合的な要因が絡み合うのだということは,第8回(第3209号)の「好中球減少と感染症⑤...

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