医学界新聞

連載

2015.12.14


看護のアジェンダ
 看護・医療界の"いま"を見つめ直し,読み解き,
 未来に向けたアジェンダ(検討課題)を提示します。
〈第132回〉
現代のチーミング

井部俊子
聖路加国際大学学長


前回よりつづく

 枯れ葉が舞う初冬の11月22-23日,第10回医療の質・安全学会学術集会(会長=九州大学大学院・鮎澤純子氏)が幕張メッセを会場として開催された。参加者は年々増加し,今年は約2706人(事務局集計)であった。その多くは,医療機関の医療安全管理者である。

 私はこの学会で恒例となった教育セミナー(ランチョンセミナー)の座長を毎年引き受けている。演者は相馬孝博先生(千葉大学医学部附属病院),共催は第一三共株式会社で坂田博さんがこのセミナーの担当であり,われわれは「一座」と呼んでいる。この一座は年に1回の企画に全精力をかけている(?!)。

「流動的な」チームが有効に機能するためには

 今年のテーマは,「Teaming――チームが有効に機能するために」ということにした。一座では“チーミング”を“チャーミング”と早合点して参加する人もいるのではないかと懸念したが,そんなことはなかった。第2会場は立ち見もあった(しかし,前方の席は空いていた)。

 演者がPR用に作成した次の短い文章に,本セミナーの概要が見事に示されている。「チーム医療という言葉は既に一般化し,多職種協働によるチームはどの医療組織においてもそれなりの活動を行っている。またWHO患者安全カリキュラムガイド多職種版2011では,チームの一員として働くことについて,トピック中の1章を当てて解説している。しかし,目的によって集合し解散する流動的なチームが機能するためには,どのような組織運営が必要なのかについての考察はまだ少ない」(「目的によって集合し解散する流動的なチーム」が現実のチームであり,「チーム」という固定した集団で仕事をしていないことに気付かされる)。

 セミナーの概要を示す文章には,さらに続けてこう記されている。「エドモンドソン(2012)は,いかに組織として学んでいくか,成長していくかを『Teaming』という用語を通して解説した。成功しているTeamingでは,①率直に意見を言う(個人間で誠実な会話をする),②協働する,③試みる(不確実性を受け入れる),④省察する(結果についてデブリーフィングする)という4つの特別な行動があるという。またTeamingを有効に機能させるためには,チーム内の対立を緩和し協調的な取り組みに向かわせるリーダーシップが焦点となる。そのためには,①学習するための骨組みをつくる,②心理的に安全な場をつくる(失敗を受け入れられる組織風土),③失敗から学ぶ,④職業的・文化的な境界をつなぐ,という4つのリーダーシップ行動が非常に重要となる(後略)」。

心理的に安全な場をつくる

 『チームが機能するとはどういうことか』(エイミー・C・エドモンドソン著,野津智子訳,英治出版,2014年)の第4章に「心理的に安全な場をつくる」がある。冒頭には2003年2月のスペースシャトル「コロンビア号」の悲劇が語られる。エンジニアのロドニー・ローシャが「シャトルの外部燃料タンクからはがれ落ちて左翼を直撃したと思われる断熱材の破片の大きさと位置について」抱いた深い懸念を述べる機会が失われてから8日後,コロンビア号は大気圏に再突入する際に燃え上がり,7人の宇宙飛行士が命を落とした。後日,なぜシャトルの安全性について懸念を述べなかったのか尋ねられたローシャは,次のように答えた。「そんなことはできませんでした。私がいるのはピラミッドのずっと下のほう……,そして彼女(ミッション・マネジメント・チーム・リーダーのリンダ・ハム)ははるか上の人ですから」。

 著者は病院の例も挙げている。「ある看護師が,入院患者に投与する薬の量が多いのではと一瞬思ったのに,すぐにその思いを追い払ってしまったとする。医者に電話しようという考えが脳裏をよぎるが,医者はすでに家でぐっすり眠っているころであり,看護師は前回電話したときに医者に言われた非難がましい言葉を思い出す。こうして,懸念を口に出す機会であるわずかな時間の中で,看護師の脳は医者の非難をことさら大げさにとらえ,患者に害をもたらす可能性をひどく軽んじてしまうことになる」のである。

 そして,職場で直面する4つのイメージリスクによる不安が,積極的に意見を言うかどうかを左右すると指摘する。それらは,①無知だと思われる不安,②無能だと思われる不安,③ネガティブだと思われる不安,④邪魔をする人だと思われる不安,である。

 さらに,組織における心理的安全を高めるためのリーダーの行動が紹介される。①直接話のできる,親しみやすい人になる,②現在持っている知識の限界を認める,③自分もよく間違うことを積極的に示す,④参加を促す,⑤失敗は学習する機会であることを強調する,⑥具体的な言葉を使う,⑦(望ましいことについて)境界を設ける,⑧境界を超えたことについてメンバーに責任を負わせる。「心理的安全は生ぬるい基準や自由放任によって生み出されるものではなく,どんな職場にも困難と制約があり,進歩のためにはそれらについて率直に話す必要があると正しく認識することによって生み出される」という主張は重要である。つまり,チーミングという活動は,「リスクを負う,失敗と向き合う,境界を超える活動であり,今日のような複雑で絶えず変化する環境においては,かつてないほどリーダーシップが必要になっている」のである。

 「受容」と「共感」をモットーとする看護チーミングが,「発言」と「行動」のチーミングに変容する必要があることを本書は伝えている。

つづく

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