医学界新聞

寄稿

2015.12.07



【寄稿】

全米チーフレジデント会議に参加して
聖路加国際病院,レジデント教育の新たなチャレンジ

松尾 貴公,岡本 武士,北田 彩子,矢崎 秀,石井 太祐,望月 宏樹(聖路加国際病院内科)


 現職のチーフレジデントとその候補者が全米から集まる「全米チーフレジデント会議(Chief Residents Meeting)」が,2015年4月27-28日の2日間にわたって米国テキサス州にて開催されました。今回,日本の病院のチーフレジデントとして初めて,聖路加国際病院のチーフレジデント経験者および予定者の計6人が参加しました(写真)。本稿では,当院と米国のチーフレジデント制度の特徴と,参加した会議の模様,そして帰国後の当院の取り組みについて報告いたします。

写真 会場にて(左から松尾,望月,岡本,北田,矢崎,石井の各氏)

レジデント育成の要となるチーフレジデントの役割とは

 日本では2004年に新医師臨床研修制度が発足し,初期研修医は2年間のスーパーローテーションが義務付けられています。それ以前にもいくつかの臨床研修病院では独自の研修システムに基づいた研修医教育が行われていました。当院は1967年にレジデント制度を導入し,それと同時に初期研修医のまとめ役である「チーフレジデント」という役職を設け,研修医の指導に力を入れてきました。当院の内科チーフレジデントは教育者としての役割だけでなく,研修プログラムの作成,病床運営,院内における各種委員会への出席や研修医採用など,さまざまな分野の役割を担います。内科チーフレジデントは,毎年レジデントの投票によって3人選出され(多くは卒後4-5年目),その3人が4か月ずつ職務を果たします。

 一方,米国のチーフレジデント制度を見てみると,当院とは異なる点がいくつかあります()。大きな違いは,任期は原則1人1年間で,2-3人で分業する場合が多いことです。また,就任時期は,日本での初期研修に当たるResidency programを終えた後,各専門領域のFellowshipに進む前の卒後3-4年目で,内科プログラムの責任者であるProgram directorや前年度のチーフレジデントから推薦を受けて選考されます。

 聖路加国際病院と米国のチーフレジデント制度の比較(任期・役割)

 チーフレジデントに就任すると臨床から離れ,レジデントや医学生の教育,ローテーション表を含むカリキュラム作り,研修医の採用・評価など幅広い業務に従事します。任期中にProgram directorやレジデントから360度評価を受けることも米国ならではの特徴です。任期を通してリーダーシップや教育のノウハウを体得し,その後医学教育のFellowshipや,比較的人気の高い各専門領域のFellowshipに進むことになります。この1年間のチーフレジデントとしての経験が,その後の医師としてのキャリアにおいて有利に働くそうです。

Workshop参加で役割を再確認,新たに見えた改善点

 さて,私たちが日本のチーフレジデントとして初めて参加した全米チーフレジデント会議は,例年4月に2日間かけて行われます。今年はテキサス州のヒューストンで開催されました。

 同会議は,米国の臨床研修プログラムを評価・認定するAccreditation Council for Graduate Medical Education(ACGME)認定施設所属のProgram Directorsの会であるThe Association of Program Directors in Internal Medicine(APDIM)が主催します。APDIMは,Alliance for Academic Internal Medicine(AAIM)という米国とカナダの医学部や教育病院で組織された団体の傘下にあり,APDIMの他にはThe Association of Professors of Medicine(APM),The Clerkship Directors in Internal Medicine(CDIM)などが所属しています。

 米国ではProgram directorと呼ばれるレジデンシープログラムの責任者が存在し,レジデントの採用や病院のプログラムの作成などを担っています。チーフレジデントはこのProgram directorの指導の下,研修医の教育を軸に管理職としての役割,さらには臨床研究や論文執筆などの学術的活動も積極的に行っています。会議の参加者は,各病院で次期チーフレジデントになるレジデント(多くは3年目レジデント)であり,今回は800人強が集まりました。

 2日間にわたるプログラムは,全員で講義を受ける6つのPlenary sessionと,スモールグループに分かれて参加者同士で話し合う3つのWorkshopがありました。Plenary sessionではチーフレジデントの役割には何があるのか, 医学教育の方法,自己啓発や問題解決の方法,メンターシップなどについてのレクチャーが行われました。

 また,計3回のWorkshopは,1回につき約10個のプログラムから興味のある内容1つを選んで参加します。私たち6人は,おのおのが興味を持つものの中から異なるプログラムを選び,最終的には全員で内容を共有できるように受講しました。

 ここではその内の,“Chief Resident Mistakes”をテーマにしたプログラムの内容を紹介します。

 チーフレジデントは毎年異なる人が務め,その任期には限りがあります。そのためチーフレジデントは,起こしやすい失敗などを事前に学ぶことはもちろん,自分の起こした失敗を後任に伝え,よりよい活動ができるよう引き継いでいくことが必要になります。Workshopでは,まず代表的な注意事項を実例に沿って受講しました。その後15人程度のグループに分かれ,自院のチーフレジデントのこれまでの問題点を出し合い,気を付けるべきことを議論し,グループごとに発表しました。このDiscussionを通して米国でのMistakesを共有することができ,チーフレジデントが抱える問題は日本と共通する部分も多いと実感しました。

 この他,ベッドサイドティーチングの効果的な方法,Burnout(燃え尽き症候群)への介入の仕方などのセッションが人気を集めていました。

 2日間を通して,今まで体系的に学ぶことのなかったチーフレジデントの役割を学習するとともに,当院の改善点や今後の展望を議論することができました。また,米国のチーフレジデントとの交流やメーリングリストの参加といったネットワークも形成することができ,それぞれの病院で抱える問題を共有できたことも収穫です。

よりよい研修の実現に向けて学びをすぐに教育に実践

 4月の会議に参加してから,私たちはそこで得た知識を早速院内の取り組みに生かしています。一つは「教え方」についての教育です。当院は屋根瓦方式の教育をモットーとしており,初期研修医は医学生への,シニアレジデントは初期研修医への教育を担っています。ただし,細かい「教え方」に関しては個々人の裁量に委ねられていた部分がありました。そこで,この機に体系立った「教え方」を学ぶことができるよう,自己満足に陥らないレクチャーの仕方や,「Teach less(一度に教えすぎない)」の概念を当院のレジデント全員で共有する機会を設けました。

 また,当院の目玉ともいえるグランドカンファレンスの症例検討会においては,チーフレジデントが他のレジデントの手本となるようファシリテーター役を務めたり,ランチョンカンファレンスにおいて,インタラクティブな教授方法であるクイズ形式の“Jeopardy”を取り入れたりと,活発な教育活動を率先して展開しています。

 チーフレジデントが担う個々の役割からも,構想を考えています。まず「Administrator」の役割としては,ちょうど今,新・内科専門医制度への移行という転換期にあるため,内科専門研修プログラムの作成やレジデントおよびシニアレジデントの採用試験の改革にかかわっています。採用基準や試験問題の作成にまでチーフレジデント経験者が一丸となって取り組んでいます。さらにこの機会を生かし,教育や採用試験に関連した臨床研究もできないかと,企画しているところです。

 「Mentor」の視点からは,レジデントの進路支援強化を検討中です。既存の「メンター委員会」では年に数回,当院の修了生を招いて先輩方のキャリアを聞く講演会を開いています。今後はメンター委員会と修了生の連携をより深め,市中病院をターゲットとした卒業後のキャリアプランについて提示していくことを予定しています。

 今回全米チーフレジデント会議に参加したことで私たちは,チーフレジデントの4か月間,日々奮闘し,時に失敗しながら任期中に多くのことを学んだことを思い返すとともに,その解決のヒントを発見することができました。次回からは,チーフレジデント就任前のシニアレジデントが心構えを身につけられるよう,経験者ではなく,予定者のみを派遣することに決めました。経験者,現職者,予定者の三者で連携を図りながら,当院チーフレジデント制度の取り組みに継続性を持たせ,よりより研修作り,よりよい病院づくりに貢献していきたいと考えています。

参考URL
2015 APDIM Chief Residents Meeting.

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