医学界新聞

連載

2015.10.26



看護のアジェンダ
 看護・医療界の"いま"を見つめ直し,読み解き,
 未来に向けたアジェンダ(検討課題)を提示します。
〈第130回〉
2015年9月2日の体験

井部俊子
聖路加国際大学学長


前回よりつづく

 それはいつのことだったか,どんなドラマだったか覚えていないのですが,舞台となった「おわら風の盆」のほの暗さと妖しさが心に残っていました。その地にいつか訪れてみたいと思っていました。それが今年,かなえられたのです。

 きっかけは偶然でした。日本看護協会通常総会の会場でたまたま腰掛けた最後列の座席の隣にいた友人が,数年前から私の思いを実現させようとしてくれていたその人だったのです。「今年は行けますか」との誘いに,手帳を開いた私は,予定していた仕事をずらして9月2日に行けるようにすると約束し,数日後,「調整できました」と彼女にメールしたのです。

優雅に踊り,哀愁を奏でる

 おわら風の盆は,北陸新幹線の富山駅で下車しJR高山本線で25分のところにある越中八尾で,毎年9月1日から3日までの3日間繰り広げられる祭りです。飛騨の山々から越中側へ延びる8つの山の尾根を意味する八尾は,富山平野の南西部,飛騨山脈の麓,岐阜県との県境に位置する街道筋に発展した小さな町です。かつては富山藩の御納戸所(財政蔵)として,街道の交易の拠点として繁栄していました(おわら風の盆行事運営委員会公式ガイドブック,2015年)。

 「おわら」という言葉にはいくつかの説があるそうです。江戸時代には地元八尾の遊芸の達人たちが七五調の唄に「おわらひ(大笑い)」ということばを差し挟んで町内を練り回ったのがいつしか「おわら」となったというものや,豊年祈願からの「大藁(おおわら)説」,八尾近隣の小原村の娘が唄い始めたという「小原村説」などがあります(「おはら」がいつ「おわら」になったのかもはっきりしていません)。「おわら」を囃子詞に入れる民謡は全国各地にありますが,中でも越中八尾の「おわら節」は全国的に知られているそうです。

 「風の盆」の由来も紹介しましょう。二百十日の前後は台風到来の時節。山脈から麓に吹き下ろす秋風が稲に害を及ぼすため,収穫前の稲が風害に遭わないよう,唄や踊りで風の神様を鎮める豊作祈願が行われるのだそうです。その祭りが「風の盆」となりました。...

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