医学界新聞

連載

2015.09.28


看護のアジェンダ
 看護・医療界の"いま"を見つめ直し,読み解き,
 未来に向けたアジェンダ(検討課題)を提示します。
〈第129回〉
トピック・センテンス

井部俊子
聖路加国際大学学長


前回よりつづく

 看護管理者のための現任教育である認定看護管理者制度ファーストレベルプログラムを,学生の夏休みの期間に開講することが本学の教育センター事業として定着している。その3日目に,私が担当する「記述力をつける――仕事の文書作成の基本」というクラスがある。毎回新たな気付きをもたらしてくれる,楽しみな一コマである。

「仕事の文書作成」の9原則

 このクラスはチーム基盤型学習(Team-Based Learning;TBL)の考え方を採用している。TBLでは学習者個人が自分自身とグループに対して学習の責任を強く意識することで,単なる人の集合である「グループ」から,同じ目標に向かって共に学ぶ「チーム」へと変貌していくとされる。したがってTBLでは,知識の獲得や概念構造の認識ばかりではなく,問題解決スキルやチームでのコミュニケーションスキル,リーダーシップスキルを身につけることが期待される。

 このために教員は,学習者が教科へ参加することを促すと同時に,チームへ参加できるように働き掛けて双方の相乗効果が上がるように授業をデザインする必要がある。TBL学習活動のプロセスは,①予習(個人活動),②個人テスト(Individual Readiness Assurance Test;IRAT),③グループテスト(Group Readiness Assurance Test; GRAT),④チームからのアピール,⑤教員からのフィードバック,⑥応用重視の学習活動で構成される。

 「記述力をつける――仕事の文書作成の基本」のクラスは,授業前の予習として「看護師のための文章ノート」を読んでくることを課した。この資料は以前に私が「医療の質・安全学会誌」に連載(4巻1号-5巻3号,全7回)したものである。看護師が書くリポートは冗長であるとか,難解な言葉を使うのでわかりにくいとかいう外部者の批判に応えて執筆した経緯がある。「看護師のための文章ノート」は,『理科系の作文技術』(木下是雄著,中公新書,1981年)を下敷きにしている。クラスでは,IRAT,GRATの作業を経て,以下を文章の基本原則として採用した。

1)作文技術の基本は,「文は短く」ということである。1文は平均50字が目標である。
2)トピック・センテンスは段落の最初に書くのが原則である。
3)内容がどんなに優れていても,文章がちゃんと書けていないと他人に読んでもらえない。
4)一つの文だけから成る段落は,原則として書くべきではない。
5)段落の標準的な長さは200字ないし300字が目安である。
6)「事実」と「意見」の区別を明確にして記述する必要がある。
7)文献の引用をそのまま記述する場合は「事実」の記述である。
8)意見の記述は,「私は〇〇と考える」という形で書くのが基本である。
9)発表の後の受け答えでは,判で押したように「ご質問ありがとうございます」と言う必要はない。

「その段落で何について言おうとするのか」を最初に書く

 そして,各人が受講申し込み時に書いたA4・1枚のレポート「私がファーストレベル講習を受講する理由」をおもむろに取り出し,以下の作業をしてもらった。

 ①文の数,②1文の文字数,③段落の数,④ひとつの段落に含まれる文の数,⑤ひとつの段落に含まれる文字数に関して,各人が自分の書いたレポートと向き合った産物をチームメンバーに披露し,各チームの平均数を算出して発表する。その結果,A4・1枚に含まれている文の数は平均17文で,1文は59字であった。段落数は4つであり,ひとつの段落には平均4文が含まれ,文字数は355字であった。検証結果は原則から大きく乖離していなかった。めでたしめでたしである。

 次は,各人のレポートの段落ごとのトピック・センテンスにマーカーをつけてもらった。段落とは,内容的に連結したいくつかの文の集まりで,全体として,あるひとつのトピック(小主題)について,あるひとつのこと(考え)を記述するものであり,「その段落で何について言おうとするのかを概論的に述べた文をトピック・センテンスという」と木下は解説している。段落のなかでトピック・センテンスの内容について具体的な詳細を述べる部分が展開部である。展開部では文を並べる順序やつなぎの言葉をよく考えて組み立てなければならない。各人のレポートを見ると,マーカーがつけられたトピック・センテンスの位置が段落の最初にあるものは少なく,段落の最後にきているものもあった。さらに,そのトピック・センテンスをもとに当該段落で言わんとしていることを命名すること,事実と意見を識別するという作業は受講生の頭を抱え込ませることになった。

 全体討議では,次のような価値ある発言があった。「トピック・センテンスが段落の中でみつからないときはどうするのか」。反対に,「トピック・センテンスがひとつの段落に2つある場合はどうしたらよいか」という質問である。私は,「前者の場合は段落とせずに他の段落に吸収合併したらよい」「後者の場合は新たに段落を設けたらよい」と答えた。段落の書き出しは一文字下げることも忘れないように,と。「これまで“まとめ”は段落の最後に書くものだと思っていた」という気付きや,「初めて文章の書き方がふに落ちた」という感想も聞かれた。にぎやかで真剣な,ある日の午後であった。

 私は,トピック・センテンスを冒頭に置くというカタチは,われわれの日頃の発想の転換を促し,発言のカタチも変えるものと確信している。

つづく

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