医学界新聞

連載

2012.11.19

看護のアジェンダ
 看護・医療界の"いま"を見つめ直し,読み解き,
 未来に向けたアジェンダ(検討課題)を提示します。
〈第95回〉
みんなで作る勤務表

井部俊子
聖路加看護大学学長


前回よりつづく

 2012年9月に開催した「看護師の健康的な働き方を考えよう」セミナー’(日本医療・病院管理学会第308回例会,於:聖路加看護大学)の最後に議論となったのは,「看護師の勤務表は働くスタッフたちによって作る方向にいくべきではないか」ということであった。「勤務表は管理者が(威厳をもって)作るものだ」と確信していた勤務表作成ソフトの開発者は,この考え方を聞いてうろたえたが。

勤務計画表作成の実態

 2010年の「病院看護職の夜勤・交代制勤務等実態調査」(日本看護協会)によると,看護単位(n=409)の45.5%が「二交代制(変則を含む)」で最も多く,次いで「三交代制(変則を含む)」が39.4%,「三交代制と二交代制のミックス」が12.0%となっている。勤務計画表作成時に看護師長(n=409)が優先する項目は,「本人の希望」が39.9%と最も多く,次いで「人数」26.2%,「職員の経験・能力のバランス」17.4%であった。一方,スタッフからの希望を受け付ける項目は「連続した休日」が89.2%と最も多く,次いで「平日の休日」が88.0%,「週末の休日(土・日)」が84.6%となった。翌月分の勤務計画表を事前提示する時期は,「6-10日前に提示」が52.1%と最も多く,次いで「11-15日前」が17.4%,「16-20日前」が5.9%,「26-30日前」が5.1%であった。「5日前まで」は4.6%である。

 勤務計画表作成・支援ソフトを導入している看護単位(n=409)は74.8%(n=306)であり,「導入以前より(勤務表作成の)負担が少ない」は24.5%であるが,「以前から導入しているためわからない」が42.5%と最も多く,「変わらない」が29.4%であった。勤務計画表作成・支援ソフトを導入していない(n=92)が「導入の希望はない」が31.5%,「導入してほしい」が30.4%であった。

組織全体の管理スタイルが勤務表にも反映する

 勤務表の革命を起こそうと考えて開催した前述のセミナー提案の実現可能性を探るために,「看護師個人のライフスタイルを尊重した勤務体制が自慢」(看護部ホームページより)の東埼玉総合病院を訪ねた。看護部のホームページを開くと,看護師の標語が面白い。「仕事と休暇 メリハリつけてマイライフ」(2010年),「バースデー 年休仕様でマイライフ」(2011年)に続き,2012年の標語は「看護師は一人一人がマネジャー」とある。これがいい。

 東埼玉総合病院は,5病棟173床を持ち,1看護単位の平均病床数は35床,7対1入院基本料を取得している。田園のなかに,今年5月に新築移転した病院には乳色の秋の陽ざしがふりそそいでいた。

 病院の玄関で出迎えてくれた副院長・看護部長の吉倉充子さんは,にこやかに軽やかに「どうぞこちらへ」と看護部長室に案内してくださった。看護師長の加藤加澄さんがPCを開いて勤務表作成のプロセスを説明する。公休(A),日勤(日),有休(B),4週8休の指定休(C),16時間夜勤(JN),16:30-0:30勤務(準),0:00-9:00(深),8:00-12:30(早),出張(出)の記号が画面に並ぶ。この勤務表作成ソフトは「おまかせDATE」といい,何やら魅惑的な名前である。加藤さんは,次のように説明してくれた。

◆スタッフは6週間前までにそれぞれの勤務希望を入力します。
◆夜勤専従者は基本的にすべて希望勤務を入れます。
◆二交代制と三交代制のミックスであり,その組合わせは各スタッフが決めます。
◆勤務希望の数に制限はありません。
◆だいたい半数のスタッフが勤務希望を入れますが,その割合は5年前と比べて減少しています。重複があればスタッフ間で調整してくれます。
◆勤務パターンは50種類くらいあります。
◆有休休暇の消化率は80%です。
◆「おまかせDATE」は,設定した前提条件に従って勤務表を自動作成します。
◆私は,自動作成された勤務表の手直しが煩雑なので,手作りしています。

 次に,その勤務表のもとで仕事をしているスタッフのAさんとUさんに感想を聞く。

◆以前,勤めていた病院では「就職したばかりの1年生は希望を出さないように」と言われていましたが,ここではそのようなことはありません。
◆「希望は何回まで」という制限はありません。
◆以前は,勤務希望は「休日」のみでしたが,現在は自由にデザインすることができます。
◆勤務希望をみて,上司や同僚から「ここは何の用事があるの」と尋ねられることはありません。ただ,変更可能かどうかだけ聞かれます(「それがいいです」とにこっとする)。

 吉倉さんが取り出してくれた「勤務表作成基準」では,考慮したい事項として,(1)勤務間隔は12時間以上,(2)月1回の連休,(3)深夜明けの翌日は日勤を避ける,(4)月1回は日曜日に休みをとること,などが挙げられている。最後に,「休みがあるから働けるのです。楽しくないと働けませんから」と付け加えた。結局,“自慢の勤務体制”は,組織全体の管理スタイルを反映していることがわかった。よい看護管理はよい勤務表につながるということである。

つづく

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