医学界新聞

連載

2012.12.17

看護のアジェンダ
 看護・医療界の"いま"を見つめ直し,読み解き,
 未来に向けたアジェンダ(検討課題)を提示します。
〈第96回〉
清水さんの入院経験

井部俊子
聖路加看護大学学長


前回よりつづく

 病気がちの清水さん(仮名,50代・女性)から「便りのないのはよい便り」と思っていた矢先,便りがあった。自宅の台所ですべって転倒し,左下肢の脛骨を複雑骨折したという。彼女の左足は,5歳のころの交通事故でかなり重症の複雑骨折とそれに伴う骨髄炎を起こしたという既往歴を持つ。

 清水さんは近くの救急病院に入院し,骨折部位の徒手整復と抗菌薬の点滴を受けた。清水さんは難病のためステロイド剤を長期間服用しており,ステロイド剤服用による軽い糖尿病もあった。そのため担当医師から,「手術を伴う処置はここではできない」と言われ,難病の管理を行っている大学病院への転院を勧められた。受傷から10日後,彼女は寝台車を手配し,夫が準備してくれた空気清浄機とともに転院した。これは,「私が妻にできることは何か」と医師に問うた夫が,感染を防ぐきれいな空気が大事だと聞き購入したものであった。この空気清浄機は清水さんと夫との関係を象徴していた。

 転院した日が週末の金曜日であったため,清水さんが整形外科医の診察を受けたのは翌週の月曜日であった。この間,検査やトイレ等の移動に伴ない,左下肢のシーネ固定がうまくいかず,骨折部に激痛が走りそのたびにうなった。徒手整復されていた骨折部位がひどくズレてしまっていたためであったと清水さんは言う。ここでも,抗菌薬の点滴投与と創部の洗浄が続けられた。

 清水さんは,部活でいつもお腹をすかせて帰ってくる娘たちの夕食や,ショートステイを利用している母親のことや,あれこれと世話をしてくれる夫のことを私に話した。その間にもシーネ固定がうまくいかず時々襲われる激痛にうなることがあった。

「医師に見放される」という不安

 転院から10日後,医師団から病状とこれからの治療方針についての説明があり,このことが再び清水さんに大きな不安をもたらすことになった。医師団を代表して整形外科のA医師は清水さんと夫に対して次のように話した。

「第一の選択肢は(足を)切断することです。これが社会復帰もいちばん早く...

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