医学界新聞

連載

2012.10.22

看護のアジェンダ
 看護・医療界の"いま"を見つめ直し,読み解き,
 未来に向けたアジェンダ(検討課題)を提示します。
〈第94回〉
静かなリーダーに学ぶ

井部俊子
聖路加看護大学学長


前回よりつづく

 2012年9月末現在,映画『踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望』(監督=本広克行)が上映中である。

 「踊る大捜査線」は,1997年1月にドラマとしてフジテレビで放送を開始し,高視聴率を記録した。連続ドラマ終了後,3本のスペシャルドラマが作られ,その後映画化された。98年に公開された劇場版第1弾の『踊る大捜査線 THE MOVIE』では,観客動員数700万人,興行収入101億円を記録,第2弾の『踊る大捜査線 THE MOVIE2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』は,観客動員数1260万人,興行収入173.5億円を記録した。日本実写映画の動員および興行収入の頂点を樹立した国民的人気映画であるとされる。その「踊る大捜査線」が15年の歴史に幕を下ろし,FINALを迎えた。

 係長に昇進するも現場第一の信念を貫き通す,変わらない青島(織田裕二),警察庁で順調に出世する室井(柳葉敏郎),誰にも相談せずにある決心を固めるすみれ(深津絵理),湾岸署署長に就任した真下(ユースケ・サンタマリア),交渉課課長となった小池(小泉孝太郎)など,15年の時の流れが刻み込まれている。前作から加わった新たなキャラクターに,管理官・鳥飼(小栗旬),故いかりや長介が演じた「和久さん」の甥の和久(伊藤敦史),青島の部下,夏美(内田有紀),SMAPの香取慎吾も重要な役回りで出演している(私は見終わったあとも,彼だと気付かなかった)。

「踊る大捜査線」に学ぶ

 少し長く「踊る大捜査線」を紹介することとなったが,私が取り上げたいのは,『踊る大捜査線に学ぶ組織論入門』(金井壽宏・田柳恵美子著,かんき出版,2005年)である。この本は,「踊る大捜査線」の名せりふを題材にして,組織論やリーダーシップ論を展開している。例えばこのように。「事件は会議室で起きているんじゃない,現場で起きているんだ」「……何がマニュアルだ……」「リーダーが優秀なら,組織も悪くない!」「おめえの信念貫いて,人の希望になってやれ……なんてな」「室井さん,しびれるような命令をありがとうございました」。

 私は,本学で毎夏に開催する看護管理者研修(ファーストレベル講習)で,2008年から本書をテキストとして用いている。5年も使っているので,書き込みが増え,マーカーが色あせてきているが,私が注目している箇所のひとつに「静かなリーダーシップ」(210頁)がある。「和久指導員のように,昇進とはまったく縁がない生涯ヒラなのだが(野球の監督のようなポジションにはつかないままで),実力では一目置かれていて,実質的には見えないところでリーダーシップを発揮しているという人間も少なからずいる」と述べ,静かなリーダーシップとして注目する学説が生まれている,と簡単に触れている。

「自制」と「謙遜」のブレーキ,「粘り強さ

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