医学界新聞

連載

2012.07.02

在宅医療モノ語り

第28話
語り手:あなたの伝言を残します 口紅さん

鶴岡優子
(つるかめ診療所)


前回からつづく

 在宅医療の現場にはいろいろな物語りが交錯している。患者を主人公に,同居家族や親戚,医療・介護スタッフ,近隣住民などが脇役となり,ザイタクは劇場になる。筆者もザイタク劇場の脇役のひとりであるが,往診鞄に特別な関心を持ち全国の医療機関を訪ね歩いている。往診鞄の中を覗き道具を見つめていると,道具(モノ)も何かを語っているようだ。今回の主役は「口紅」さん。さあ,何と語っているのだろうか?


旅立ちの衣装と化粧
在宅ケアの仕上げは,時々エンゼルケアになります。ご家族と看護師さんの協働作業になることも少なくありません。この世を旅立つとき,美しく整えられた唇からは,どんな言葉が出てくるのでしょうか。

 松任谷由実さんの『ルージュの伝言』って曲,聞いたことありますか? 映画『魔女の宅急便』の主題歌に使われていて,「おちこんだりもしたけれど,私はげんきです。」というコピーがぴったり合います。なんかこう応援歌のイメージですが,詩の内容は浮気の恋にお仕置きするというもの。バスルームにルージュの伝言,なんてすごくおしゃれだけど,カタカナをやめてしまえば,浴室に口紅の伝言。これはもうただのサスペンスですが,そう思わせないところがさすがユーミン。問題は,在宅医療とワタクシ口紅に関係があるのか,ですね? ええ。私もインタビューの話がきたときはびっくりしました。口紅はいわゆる診断や治療に使うモノではないですから。最近でこそ化粧療法とかリハビリメイクという言葉を聞きますけど。

 口紅を塗る,紅を引く,さすという行為はテンションが上がるという女子がいます。私はある医師の口紅ですが,彼女は私をあまり重要視していません。「素材側の問題で,メイクのモチベーションが上がらない」と言い訳しています。彼女が海の近くの病院で研修医だったころ,病...

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