医学界新聞

連載

2011.12.05

「本物のホスピタリスト」をめざし米国で研鑽を積む筆者が,
その役割や実際の業務を紹介します。

REAL HOSPITALIST

[Vol.12] Case Closedパート3

石山貴章
(St. Mary's Health Center, Hospital Medicine Department/ホスピタリスト)


前回よりつづく

There is extravasation of contrast from the duodenum!!
(造影剤が十二指腸から漏れてる!!)

What!?
(ええっ!?)

 今回は三たびインターミッション(間奏曲),Case Closed第3弾。ここのところ,自分の中での残念症例が続いたため,今回は久々,「まあクリーンヒット」「まあグッジョブ」ケースである。こういったケースを自分で取り上げるのは,若干こそばゆい。しかしこの仕事,そもそもめったに誰も褒めてくれない。時には自分で自分を褒めてあげようというのが,今回の趣旨である。なんという自分勝手な理屈。まあ,そう目くじら立てず,大目に見てもらおう。ただ,手放しでグッジョブと言えるかどうか……。

 患者は83歳女性。他院からCOPDの増悪として転院してきた。病歴を取るとCOPDの既往はない。ただ,以前の心エコーで重度のMR/TR(僧帽弁および三尖弁閉鎖不全症)を指摘されている。胸部X線上心肥大を認め,またBNPの強度上昇を認めたため,CHF(うっ血性心不全)として治療を開始した。また,胸痛を訴えており,既にER医によって循環器内科がコンサルトされていた。

 ストレステストにいく予定だったが,白血球数増加と,他院でのC. diffcile毒素陽性の結果のため,まずは患者の状態を見てから,ということになった。メトロニダゾールの静注が既にスタートしていた。ただこの時点で,家族も患者も下痢は否定し発熱もなし。白血球数の増加は,C. diffcile colitisよりも,前医によるステロイド投与のためと私は判断した。

 私自身はC. diffcile colitisは若干考え難いと思っていたのだが,週末にカバーに入った私の同僚が,悪化する白血球数増加のため経口バンコマイシンを加えていた。週の初めに私が戻ると,いまだ下痢はなしとのこと。ここで,便の色が黒っぽいとの情報が看護サイドより入ったため,便潜血を検査に出す。また,いまだ白血球数増加は継続しており,ここで私もC. diffcile colitisによる白血球数の増加と判断した。

 その日の夜間,患者は再び胸痛を訴える。たまたま私は自宅当直であり,看護師からのコールを受けた。オーダーした心筋逸脱酵素の検査はすべて陰性。心電図上ST変化もなし。ただ,この日の看護師さんが優秀で,心臓よりも,消化器疾患による胸痛を電話で示唆してきた。また,日中出した便潜血は陽性であった。このため,Peptic Ulcer Disease(PUD;消化性潰瘍)による上部消化管出血を疑い,ここでプロトンポンプ阻害薬の静注を開始した。

 翌日の朝,白血球数はさらに増加し,また,急性腎不全が進んできた。ところが回診してみると,患者自身はニコニコとして胸痛も否定している。相変わらず,バイタルも安定している。ただ身体所見を取ると,diffuse tenderness(びまん性の圧痛)がある。また,軽度のrebound tenderness(腹壁反跳痛)が認められる気もしたが,これははっきりしなかった。患者は全く腹痛を訴えることもなく,腹痛の有無を聞いても否定している。

 ここでC. diffcile colitisによるToxic Megacolon(中毒性巨大結腸症)の可能性を考え,腹部骨盤CTをオーダー。この時点で,上部消化管出血とPUDは考慮していたものの,いまだそれ以上は考えていなかった。

 この日は私用があり,午後にはいったん病院を離れたのだが,後ほど放射線科医からポケベル連絡が入る。いわく,十二指腸からのextravasation(造影剤漏出)があり,またフリーエアも認めるとのこと。まずはすぐに病棟に連絡。患者はまだ放射線科にいたが,看護師によると,患者の状態は安定している。すぐに状況を伝え,患者を経口摂取禁止にするとともに,シプロフロキサシンとバンコマイシンの静注を開始,またプロトンポンプ阻害薬を持続静注に変更した。

 また一方で,外科医に電話で連絡を取り,Acute peritonitis due to duodenal perforation, possibly secondary to PUD(消化性潰瘍に伴う十二指腸穿孔,およびそれによる急性腹膜炎)という診断を伝え,緊急手術を前提にしたコンサルトを依頼した。夜間の胸痛は,この十二指腸穿孔によるものと考えられた。ICUへの移送も考え,あわてて病院に戻ってみると,患者はいまだにニコニコしている。バイタルも安定していて,発熱もなし。ただ,やはりdiffuse tendernessは認められ,朝より若干悪化したように思えた。そこにコンサルトした外科医も合流。すぐにディスカッションし,患者は手術室に送られることになった。重度のMR/TRのため,術後のICU管理を勧めておいた。

 潰瘍穿孔は,自分の中で鑑別にも入っていなかった。患者も全く腹痛を訴えておらず,もし腹部身体所見を怠り,CTをオーダーしていなかったら,見逃していただろう。その意味で,無事キャッチしたわけだし,「まずまずなクリーンヒット,グッジョブ自分」と密かに自己満足に浸っていたわけだ。が,しかし,これにも後日談がある。

 いったん術後改善しかかって見えたこの患者だったが,抜管数日後,再挿管となってしまう。極度のMR(僧帽弁閉鎖不全症)に加え,重度のCardiomyopathy(心筋症)。心エコーでの測定で,EFは35%しかない状態であった。集中治療医とともに,でき得る限りのICU管理を行ったのだが,重度の心不全を改善することはできず,残念ながら一週間後に帰らぬ人となった。患者の家族とは,初期の診断段階とその後の経過とで,十分に信頼関係が出来上がっていた。最終的にホスピスケアを勧め,すべて納得の上で家族もそれを選択した。残念ではあったが,最良の選択だったとは思う。

 どんなに頑張ってみても,最善を尽くしたつもりでも,やはりどうにもならないことは,残念ながら,ある。今回のケースも,「グッジョブ自分」と思ったその後にすぐ,悔しい結果が待っていたわけで,結局「クリーンヒット」とは言えそうもない。

 一回喜んだだけになおのこと,私にとっては,大変ほろ苦いケースとなってしまった。

11月も半ばに入ると,こちらは早くもクリスマス一色。病棟の飾り付けにもサンタクロースが加わり,否が応でもクリスマスムードを醸し出すことになる。写真左はそんな病棟の飾り付けから一枚パチリ。写真右は,病院内の簡易教会にある,キリスト生誕の瞬間とクリスマスツリー。薄暗い中にあって,何となく厳粛なムードにさせられる。

つづく

病院総合医セミナー
 「病院総合医として期待される医師像」

日時 2012年1月14日(土)13:00~17:00
会場 キャンパスプラザ京都(京都市)
内容 基調講演「ホスピタリスト 病棟診療のコンダクター」(石山貴章氏),シンポジウム「日本型ホスピタリストモデルの構築に向けて」,症例検討会(京都GIMカンファレンス)
URL http://www.primary-care.or.jp/medical
申込先 日本プライマリ・ケア連合学会事務局
 e-mail : office@primary-care.or.jp
参加費 1,000円
定員 200人(学会員優先)

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